到着してびっくり。ここはいつか私が更地にしたアレクサンドル本家の跡地だ。あの時私は城壁には被害が出ないように注意したので、今でも城壁は健在だ。ちなみに城門はエルフどもが壊したのだろう。ガラ空きだ。
中に入ってみると……
「あらま! かなり立派なのができてるね!」
「いつの間に? さすがに辺境伯家は違うわね。」
「父上が動いてくれたの。カース君がいち早くダミアン兄上に知らせてくれたからよ。ありがとう。」
「そうだったかな? さすがに辺境伯閣下は動きが早いんだね。」
早すぎるだろ。手際も良すぎる。やっぱ仕事ができる男は違うんだな。手法が想像もつかない。どうやってこの土地をゲットしたんだよ。結構長い伝統がある大貴族の土地だろうに。
「ところでカース君。私、アレックスから聞いてるわよ? いい所に連れて行ってくれるって。」
「いい所? あ、もしかしてデビルズホール? あそこって被害はどうなの?」
「もおー! 違うわよ! 空よ空!」
「あぁ、確かにアレクが言ってたね。ソルダーヌちゃんもかなり疲れてるだろうからって。」
「ソル、はいこれ。これを着るといいわよ。」
アレクが湯浴み着を渡す。
「私は別に着なくてもいいわよ?」
「ソルダーヌ様! お気を確かに。」
おっと、エイミーちゃん。今日やっと口を開いたね。
「今からもう行く? ちゃんと着替えてよね。脱いだら落とすよ。」
飛べない奴なんかいないんだから、落としてもどうってことないよな。
「分かってるわよ。少し待っててね。アレックス、ありがとね。」
「いいのよ。ゆっくりしてらっしゃい。」
私も自分の湯浴み着に着替える。これを着るのはいつぶりだろうか。
「お待たせ。あら、カース君て意外と逞しいのね。」
「当然よ。カースは剣術の稽古だって欠かさないんだから。」
湯浴み着越しにでも分かるものなのか。
「じゃあ適当に戻ってくるね。」
「ええ、ゆっくりしてきていいわよ。」
「ピュイピュイ」
「ガウガウ」
カムイが風呂に入りたがっているな。いつからこんなに風呂好きになったんだろうな。
『浮身』
いつもの湯船だが何トンあるんだろうな。今の私は百トンクラスでも持ち上げることができるため、当然このくらいは楽勝だ。
「うわー、王都がもうあんなに小さくなってる!」
「もう少し上昇するよ。」
「この湯船ってマギトレントなんでしょ? いくらすると思ってるのよ?」
「材料も加工代もタダだったよ。」
クランプランドのボンドゥさんには多めにマギトレントを収めることでタダで作ってもらってる。だいたい必要な量の五割増しぐらいだ。
「まったく……カース君ったら。ねぇ、そっちに行ってもいい?」
「……いいよ……」
それまでは対角線上に位置していたのだが……
濡れた湯浴み着でこちらに近付いてくるソルダーヌちゃんは少しだけ色っぽい。スタイルもアレクほどではないが、この歳にしてはかなりいい方だ。
そして正面から私に抱き着いてきた……
「本当にありがとう……瓦礫の山から私達を見つけてくれて……魔女様に頼んでくれて……」
「いいよ。困った時はお互い様なんだから。」
「ありがとう……」
そう言ってまた、強く抱き締めてきた。少しぐらい労ってあげてもいいよな。空いた手で背中と頭を撫でてあげる。
空が青い。太陽が眩しい。風呂は素晴らしい。
やはりダメか……ソルダーヌちゃんは美人だし、身分も魔力も高い。しかし、こんなに密着しているのに私の中に青い衝動が湧き上がってこない。おかしいな、前世の私ならもしかしたら浮気したかも知れないだろうに。彼女の許可すらあるってのに。私がアレクを好き過ぎるからだろうか。これが純愛か……
「カース君……こんなに密着しているのに……やっぱり私じゃあダメなんだよね……」
「分かるの? 悪いけどそうなんだ。どうも僕はアレクが好き過ぎるみたいなんだよね。」
「うん、何となく分かってた……こうして二人っきりになれば何かが変わるかとは思ったんだけど……」
「僕もね、ソルダーヌちゃんの頑張りを見てたから、応えるのもいいかなって思ってたんだよ。貴族としての生き様を見てね。だけど……」
「だけど……?」
「それは友情の範疇だと思う。僕は君に愛情を抱けそうにないよ。ごめんね。」
「もう……はっきり言うのね。ウリエンさんがあの状態だから私も期待したのに……バカ!」
「ごめんよ。結婚関係以外のことなら力になるよ。」
「バカ! バカバカ!」
そう言って私の胸を叩いてくる。卒業までに婚約が上手くいかなかったら私が検討するって話だったが、思いのほか早く決着がついてしまったな。しかしこれは仕方ない。私は思うままに生きると決めたのだ。妥協などしない。たぶん今ならエロイーズさんに誘われても断るだろう。
それから三十分ぐらいか、私を叩き疲れてソルダーヌちゃんは眠ってしまった。四女でしかないのに上屋敷の切り盛りをして、辺境派をまとめて……
どれだけの責任を負っていると言うのだ。私は彼女のために一体何が出来ると言うのか……
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