そして夜も更け、いつものように大人達の時間が始まる。
「それで兄貴、エルダーエボニーエントはどうだった?
エビルヒュージトレントは楽勝だったみたいだけど。」
「手強かったぞ。房中錬魔循環を施してもらってなかったら勝てなかったかも知れん。」
「そんなにか、兄貴の腕と剣でもろくに切れなかったんだよな? どうやって倒したんだ?」
「切れないから突いたのさ。魔石を狙ってな。ひたすら同じポイントを三百回は突いたかな。魔石は勿体ないことをしたが、素材はほぼ無傷で丸々手に入った、お土産も奮発するってものさ。」
「さすが兄貴! かなりの巨体なんだよな? そんな奴の体内に隠れて見えない魔石を狙って何回も突くなんて正気じゃないぜ。」
「さすがですわ。房中錬魔循環は関係ないじゃありませんか、実力で勝たれたのですわ。」
「いやいやイザベル様、それが違うんだ。
私が使える数少ない魔法に『身体強化』と『硬化』があるんだが、今回はそれを使いまくった。魔力総量が上がってなかったら途中で魔力も体力も尽きていたはずなんだ。」
「なるほど、それならお役に立ててよかったですわ。」
「ところでオディロン君だが、いいのか? 騎士の息子が冒険者だなんて。」
「おや、兄貴にしちゃあ真っ当なことを言うじゃないか。
まあイザベルの実家から見たら大問題だが、俺は気にしないさ。そもそも俺がそのうち騎士を辞める予定なんだから。」
「ふふ、お前らしいな。もし魔境で会ったら助けてやるよ。」
「そいつはありがたい。オディロンにとっても支えになるだろう。まあ、あの広い魔境で会えるかどうかは別かな。」
「あ、あの、オディロン坊ちゃんはやはり金貨百枚を貯めるために……」
「そうだろうな。だがそれもいい経験だろう。お前のために男になろうとしてるんだろう。見守ってやるといい。何ならたまには一緒に冒険してみるか?」
「いえ、やめておきます。坊ちゃんには坊ちゃんの仲間がいると思いますので……」
「うふふ、うちの子供達はみんな変な子ばかりね。かわいいわ。キアラはどんな子になるのかしら。」
「ふふ、エリみたいに兄が大好きになったりしてな。カースの奴、ウリエンにしてもらったように本を読んであげてるらしいな。」
「そうなのよ。カースったら勇者ムラサキの冒険ばかり読むんだから。
ドラゴンや聖剣に興味があるみたいよ。男の子よね。」
「聖剣か、男になら手に入れてみたいものだよな。兄貴の剣はかなりの業物だけど、やっぱ聖剣にも憧れるものか?」
「そりゃ欲しいさ。どれだけの斬れ味なのか興味は尽きないさ。そんな剣があればエルダーエボニーエントだって一撃かもな。」
「魔剣だったら時々耳にするよな、あれってどう? 使える?」
「魔剣か、好きじゃないな。確かによく切れるが誰が使っても変わりない、つまらん剣さ。そして持ち主の魔力を奪い剣を振るだけの人形にしてしまうのさ。」
「へー怖いな。そんな剣でも兄貴なら使いこなせるんじゃないの?」
「使ったことはあるさ、恐ろしい斬れ味だったぞ。あれならエルダーエボニーエントだって三十回ぐらいで切れるかも知れん。
しかしあれを使い続けると一年と経たずに廃人だろうな。あんなもの誰が作ったのやら。」
「兄貴でもそうなのか。そりゃ怖いわ。その時はどこで見つけたんだ?」
「それこそ勇者ムラサキの話じゃないが、ムリーマ山脈の盆地の一つでな。オーガの集落があったんだが、そこのブルーブラッドオーガが持っていた。
普段ならオーガの集団なんて戦いたくもないんだが、そこにオーガはそいつ一匹しかいなかった。魔剣に魅入られたそいつが全部斬り殺したようでな、それならばと戦ったわけだ。
で、戦利品として手に入れてみて魔剣だと分かったわけだ。
その時は魔力庫に余裕がなくてな、一通り試し斬りをしてからその場に埋めてきた。魔力の回復を待つ気もなかったからな。ドラゴンでも出たら使ってみるのもいいかもな。錆びてなければの話だが。」
「やっぱ兄貴はすごいな。ブルーブラッドオーガなんて素手でも手強いってのに。
カースにも聞かせてやろう、喜びそうだ。」
「全く……男はいつまでたっても冒険が好きなんだから。
ところで、フェルナンド様? 今夜はどっちの女と冒険しますか?」
「おいおいイザベル、亭主の前で浮気かよ。悪い女だ。」
「はっはっは、アランもすごい女性を娶ったものだよな。だがお陰で生き残ることができた。
ではせっかくのお誘いだ。イザベル様、お願いできるだろうか。」
「ええ、それではいきましょうか。エスコートしていただけますか?
じゃあ貴方、行ってきますわね。」
イザベルとフェルナンドは連れ立って出ていった。その場にはアランとマリーだけが残された。
「ふふ、イザベルめ、かわいいやつだ。さてマリー、どうしたい?
オディロンのことが気になるだろう? もう寝るか?」
「旦那様…….お情けを……お情けをいただきたいです。お願いします……」
「お前も悪い女だな。うちの家族は変人ばかりじゃないか。」
「家族と呼んでいただけて嬉しいですが、一番悪いのは旦那様だと思います。本当に悪い人……」
二人と二人の夜は終わらない。
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