昼前に私達に絡んできた三人組。奴らに再び絡まれていた。
「こんなダサ坊置いて俺らと踊ろうぜ!」
「最新のステップを教えてやるよ!」
「あっちで飲もうや?」
また麻痺を使ってもいいんだが、もう少し話を聞いてみよう。
「お前らさ、この服装を魔王スタイルって言ってたよな? 魔王ってどんな奴?」
「まだいたのか? さっさと帰らねーとお兄さん怒るぞ?」
「オメーみたいなガキが魔王に興味を持つなんざ十年はえーぞ?」
「俺らぁ魔王さん知ってっからよ? あんま調子に乗ってっと潰されんぞ?」
マジか……私はこいつらなんか知らないぞ? アレクは笑いを堪えるのに必死だ。
「で、結局魔王ってどんな奴なの? 強いの?」
魔力を失ったことは王都では知られてないのか?
「つえーに決まってんだろ! マジで知らねーのかよ!」
「王国一武闘会で優勝だぞ? それも全試合一歩も動かねーでよ?」
「噂じゃ陛下も一目置いてるってよ? 勉強になったろ? じゃあとっとと帰れ!」
どうやら本当に魔力の件は知られてないようだ。まあどっちでもいいけど。
ところで語源が気になる『一目置く』だ。囲碁なんかないのに。これは何あるあるだろう?
「じゃあ先に帰るからさ、もう少し聞かせろよ? 正直に答えるって約束してくれるなら金貨一枚ずつやるぜ?」
「おおいいっぜぉ」
「払えよっおぉ」
「いいけどっよど」
よしかかった。
「ほれ、金貨一枚ずつな。では質問。二年ぐらい前から傾奇者を見かけなくなったが、何か知らないか?」
「い、今のって……傾奇者って格好だけの雑魚どもだからな……闇ギルドの取り締まりにビビって普通の格好になってやがる」
「何人かは白い奴らの仲間に入ったとか」
「粗悪品の薬もばら撒いてるとか」
ふーん。そんなものか。サンドラちゃんの予想が当たってるな。
「最後に、お前ら魔王の顔を知らねーのか? 氷の女神の顔もよ?」
「えっ!?」
「いっ!?」
「おっ!?」
「魔王なんて呼ばれたのは久々なんだがな。あの時優勝したのは俺だよ。準優勝したのはこのアレクサンドリーネな。どうする? 俺らと揉めてみるか?」
「ご本人っすか?」
「魔王さんっすか?」
「ご無礼しました!」
「分かったんならいい。もし金に困ったら言ってこい。いくらでも貸してやるからよ。じゃあまた情報を聞かせてくれや。」
「はいっす!」
「りょっす!」
「あざっす!」
奴らは蜘蛛の子を散らすように去っていった。
「面白かったわ。カースの顔も知らないくせに魔王さん知ってるって。おかしいわね。」
「あっ、でもあいつらこれからは本当に魔王さん知ってるって言うかな? 嘘じゃないもんね。まあいいか。」
「きっと言うんでしょうね。ロクなことがないでしょうに。」
「あはは、じゃあ帰ろうか。少し疲れたし。コーちゃん帰るよ。」
「ピュイピュイ!」
え? 酒と薬で気持ちいい? また来たいって? いいよ。私も楽しかったからね。もう一、二回ぐらい来ようね。
「あ、アンタ本物の魔王なのか……?」
「本物の魔王って言われると勇者に負けた大昔の魔王みたいじゃん。先代ゼマティス卿の孫カースかと言われたらその通り。うちのコーネリアスが満足してるからまた来るよ。いくら?」
「あ、ああ、金貨十枚でいい……」
別に割引してくれなくてもいいのに。
「はい、じゃあこれ。ではまた。」
「あ、ああ……またのお越しを……」
考えてみればここは王都だもんな。祖父の七光は使えるし母の七光も使える。兄、姉の七光だって使えるよな。そりゃみんなビビるか。これなら王都では楽しく過ごせそうだ。
帰りは歩きだけど、怠いから隠形を使って飛んで帰ろう。歩きだと城門を通してもらえないしね。帰ったら客室でアレクと……声を殺して……ふっふっふ。
そう言えばお姉ちゃんはもう帰ったのだろうか? 馬車もないことだし、帰ったんだろうな。護衛さんもいるし、まあ心配する必要もないだろう。
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