目覚めは私の狭いベッド。こんなベッドにアレクと二人身を寄せ合って寝たのだ。なんだか昭和の同棲って感じがしないでもないな。
「おはよ。狭くてごめんね。」
「おはよう。カースと密着できて嬉しいわ。」
ちなみにコーちゃんは外だ。旧実家にあった汚銀の湯船はこちらに運んであるからな。
「そういえば気になったんだけど、キアラちゃんもいないじゃない? 工事に参加してるのかしら?」
「言われてみれば。明日から学校なのにね。」
確かにキアラほど魔力があればかなりの戦力になるもんな。これも貴族の義務か……貴族じゃないけど。
なお、アレクは今日の昼には領都に送っていく予定だ。昼から明日の準備をするそうだ。名残惜しいが卒業したらずっと一緒なんだし。もう少しの辛抱だな。
母上にはエリザベス姉上からの手紙を渡したかったが、明日以降でいいか。
「アレクは昼までどうしたい? もう一度帰ってみるとかさ。」
「のんびりしましょうよ。実家には出る前に少し顔を出してみるわ。とりあえず朝食の用意をするわね。」
「うん。ありがと。それがいいね!」
のんびり。すなわちイチャイチャだ。アレクったら朝から元気なんだから。
「おいしかったよ! いつもありがとね!」
「どういたしまして。こっちこそカースのおかげで本当に有意義な冬休みだったわ。
結構ハードに稽古したもんな。アレクの魔法制御力はかなり上達したと思う。最終的には落下する鉄キューブにきっちり二十発当てられるようになったし。
私も剣の取り回しが多少ましになったように思う。解体も少しはスムーズになったしね。
逆に魔力が頭打ちになってきた感がある。楽園にいる間は魔力放出はやってないが普段の錬魔循環は欠かしていない。特注の拘束隷属の首輪だって装着している。まあほとんど効いてないけど。だから精密制御と発動速度を中心に鍛えているわけだが……極端な話、徹甲弾五十連射のような無茶な魔法を頭が痛くならずに使えるようになれば制御力はバッチリだと言えよう。まだまだ力任せに無理矢理使ってるだけだからな。それを思うと魔法学院に行くべきって気もするが……まあいいや。自力で何とかしよう。
「ピュイピュイ」
おやコーちゃん。遊ぼうだって? それはいいアイデア! よし、なら三人で狼ごっこをしようか。ここの庭は狭いから道場でやろう。どうせ無人だろうし。
「アレク、コーちゃんが遊ぼうって。道場で狼ごっこしようよ。」
「あらいいわね。セルジュ君も呼んであげたくなるわね。」
私達ぐらいの歳で狼ごっこ……たまにはいいよね。
「アレクは身体強化を使ってもいいからね。」
「そうするわ。負けないわよ。」
やはり狼ごっこはいい鍛錬になりそうだ。今日は三人しかいないから変則ルール。捕まえた相手がそのまま狼になる、現代日本の鬼ごっこと同じルールでいこう。本来なら二人とも捕まえてから交代なんだけどね。
そして昼前。
「いやーいい汗かいたね。走った走った。」
「ほんと。狼ごっこってかなり疲れるわよね。足腰にくるわ。」
「ピュイピュイ」
やはりコーちゃんを捕まえるのは至難の業だった。前半は一度も捕まらなかったので、後半はアレクと二人がかりで狙い、ようやく尻尾の先にタッチできたぐらいだ。カムイもそうだがうちの子達はハイスペックだよなあ。
さて、風呂に入って汗を流したらアレクサンドル家に寄って領都に向かうとしよう。
「こらあ! こんな所で何しよるか!」
なんだこのオッさんは?
「もう帰るんだからほっとけよ。」
「何を口答えしよるか! さっきからバタバタしよったろうが! こんな時に何考えよるんか!」
うぜぇ……関係ないだろ……
「うるさいな。オッさんには関係ないだろ。まさかクタナツが一丸となって動いてる時に外で遊ぶなんて不謹慎だって言いたいのか?」
「当たり前だあ! 今こそクタナツの民の総力を挙げる時に! ちゃらちゃら遊ぶとはけしからん! どこの子かあ!」
「ならなんでオッさんはここにいるんだ? 工事に行けよ。俺は明日から行く予定だが。」
何なのこいつ? 騎士でも無尽流の門弟でもなさそうだが。
「嘘をつくなあ! そう言ってこの場をゴマかそうとしてんだろお! おれの目は騙せんどお!」
こいつ、自分のことは棚上げかよ……
「どこの子かと聞かれたので名乗ろうではないか。我が名はアレクサンドリーネ・ド・アレクサンドル。クタナツ騎士団騎士長アドリアン・ド・アレクサンドルが長女である。そなたの名は? 直答を許すゆえ名乗るがよい。」
おおー! アレクの上級貴族モードだー!
「なっ、騎士長だあ!? 親の七光で労役を逃れようってのか! けっ! これだから貴族はよお!」
「機会はやった。それでも名乗らなかったということは不審者と見做す。カース、制圧を。」
「分かった!」
『麻痺』
当然だが麻痺が効くような雑魚だった。本当にこいつクタナツの民か?
「ありがとう。ちょっと手間だけど騎士団に届けておきましょうか。この手の人間がここにいるのが怪しいわ。」
「そうだね。それが無難だね。でもさすがアレク。ナイスなフォローをありがとう。助かったよ。」
「どういたしまして。どうせ下らない相手なんだから話すだけ無駄だと思ったの。」
話しても無駄だから制圧できるよう話を進める、か。上手いものだ。惚れ惚れするな。
あ、でも風呂はお預けだな。くっそー。
騎士団に突き出した。どうやらこのオッさんは仕事を求めてクタナツに来たのはいいが現場が魔境と知って逃げた奴らしい。さすがに従事者全員に契約魔法なんかかけないもんな。逃げようと思えば逃げられるのか。
で、逃げたはいいが故郷まで帰る金がないからクタナツ内をうろついてどうにか金を作ろうとしてたと。つまり私達をゆすりか何かの標的にしたわけか。バカな奴。真面目に働けばクタナツに居場所を作れたものを。こういう奴だから故郷でもどこでも居場所がなくてここまで流れて来たんだろうな。一所懸命とはよく言ったものだ。
こいつにとって不幸中の幸いだったのは私達に暴行を働いてないことだ。アレクに不審者と認定されたが何もしていない。辛うじて奴隷落ちは免れるらしい。代わりに契約魔法をかけられて当初の予定通りの現場で働かせることになったと。奴隷じゃん。給料が出るから別にいいのか?
なお、騎士さんには私も明日から参加することを伝えたら喜ばれた。うちの両親、オディ兄、そしてキアラまで参加しているらしい。キアラにはそんな義務はないはずなのに、すごい妹だ。偉いなぁ。
よし、予定外の出来事はあったがアレクサンドル家に立ち寄ろう。それから領都だ。
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