春の終わり頃、珍しく雨が降っている。
こんな日は走って行けないため、大人しく馬車に揺られて学校に向かっている。
ちなみに歴史に名を残す個人魔法使いについてはマリーに何人か教えもらった。
なんと勇者ムラサキとその仲間だった。マリーも聞いた話らしく誰にも言ってはいけないと口止めをされている。
歴史に名が残ってるんじゃないのか?
勇者ムラサキには四人の仲間がいるのだが、四人とも魔法使いなのは有名だ。
マリーによると四人中三人が個人魔法も使えたらしい。
一人目、ロッド・ナスティ
声が裏返る代わりに魔法の威力が上昇する。
二人目、イタヤ・バーバレイ
七色の魔法使いと呼ばれ、あらゆる種類の魔法を使えるが、実際は魔法を変化させる個人魔法による。
三人目、セプト・リブレ
紅一点。目鼻立ちが整った外見に似合わず幼さの残る声で回復魔法を唱え、パーティーの危機を幾度となく救った。
個人魔法は魔法を使う度に黒い髪が血のように禍々しい赤に染まること。
当時はしばしば天女か魔女か論争の種になったらしい。
四人目、キョウバ・クライスラ
一種類の魔法しか使えず制御も甘かったことで、当時の王からは下手くそ扱いを受けていたが、その一種類を磨くことで勇者の仲間になり得た。個人魔法は使えない。
どれも初めて聞く話ばかりだった。
全員英雄として有名なので名前だけは知ってはいたが。内緒にしておかないといけない話をマリーは一体誰から聞いたのやら。誰にも言わない約束で聞いたのだからもちろん守る。
やはり個人魔法は有効活用すれば魔王も倒せるということだな。でも髪が赤くなるとか声が裏返るって副作用とは違うのか? 魔法に副作用なんてあるものなのか?
こんなことを考えていると、酔わずに学校に着いた。
「マリーありがとう。行ってくるよ。」
「行ってらっしゃいませ。」
顔も無表情、言葉も冷淡だが心は暖かい。と、思う。
「おはよーカース君。」
「あっおはよセルジュ君。たまには雨も風流でいいよね。」
「風流? 青春じゃないの? ところで風流って何?」
「あはは。僕もよく分からないよ。分からない言葉を使ってみたくなるのも青春かも。」
「やっぱり青春なんだね。
ところでカース君のとこのメイドさんってキリッとしててかっこいいよね。」
「そう? そうかも。セルジュ君のとこのメイドさんは可愛らしいよね。何歳ぐらい?」
「確か十八歳ぐらいだったかな。最近御者をできるようになったんだよ。」
「おお、若いんだね。腕はどう?
僕は馬車に酔いやすいから気になるんだよね。」
「腕? たぶん普通だよ。それよりカース君て馬車に酔うの? 意外だね。街中をのんびり走る馬車で酔う人なんていないよ?」
「そうなの? 普通は酔わないの?」
うーん、こんなところでも変人ぶりを発揮してしまったのか……
それにしても普通は馬車に酔わないのか。では船ならどうなんだろう。
空を自由に飛びたいが自分の魔法で飛んで酔うなんてことはないよな?
思い立ったが吉日、本格的に空を飛ぶ方法を考えよう。
やはり基本通り風操で体を浮かすべきだろうか。そのためには実験をしっかり行わねば。
まさか反重力なんて使えるはずもないし。
現在の私の体重は三十キロムぐらいだと思う。同じ程度の重さの岩なんかを浮かせれば空を飛べる計算ではある。
そこらの岩を相手にやってみよう。
『風操』
問題なく浮く。
では高く高く上げてみよう。
十メイル……二十メイル……三十メイル……
五十メイルを超えた辺りから魔力の消費がすごい。
まるで高さの二乗に比例するかのようだ。しばらく七十メイルぐらいの高さで維持してみる。これはきつい。
三十分ほど経ち、ゆっくり岩を降ろす。
うーん、近所の散歩には使えそうだが長旅には使えないかも知れないな。
アイデアが必要だ。
後、離陸する時に砂埃がすごい、これも何とかしないと自分だけでなく近所迷惑にもなりそうだ。街の外なら気にすることもないが。
それに自力で岩の下に風が通る隙間を作らないといけない。これは面倒くさい。
そもそも風操で飛ぼうとするのがおかしいのでは?
自分に熱くない火の魔法を使う時のように魔法の向きを制御すれば岩を直接飛ばせるのでは?
そこで何か新しい魔法を習得してみる。
母上教えてー。
教えてもらった。
『金操』
これは金属を直接操ることができる魔法だ。
風操と違うのは空気と金属では質量が桁違いなので消費する魔力も桁違いだということだ。
単純計算では五千から八千倍ぐらい違いそうなものだが。
そのため誰も使わない、使いにくい魔法だったりする。
わざわざ魔法を使わずとも手や馬車で運んだ方が早く、遠くの敵を倒すにも矢や石を風操で飛ばした方が魔力が少なくて済むからだ。
経過を飛ばして結果を得ることができそうな響きがあるぞ、きんくり。
さながらサイコキネシス、そうか私は超能力まで使えるようになるのか。
ふふふふ。
まずは小石から練習しよう。
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