その夜、両親にあったことを話した。二人とも絶句していた。
「全然放蕩息子じゃないな……」
「よく一人でそんなことしたわね……」
腐っても英雄の血を引いているということか。
「クタナツを発つ前にここに来るって言ってたよ。いつかは知らないけど。」
「変わった野郎だ。まっ、カースが契約魔法をかけたんなら安全だろう。」
「そうね。誰にも解除できないと思うわ。」
毎月上納金を払えって言ってもよかったかも。そしたらマジで一生遊んで暮らせるのでは?
「よし! ちょいとギルドに行ってくる。どんな奴か見てくるとしよう。」
父上にしては珍しいな。まさかタダ酒狙いでもあるまい。言うが早いか父上は出て行ってしまった。朝まで帰らないパターンかな?
一方、城門前の領都騎士団はある程度の情報を聞かされ安堵していた。もし戦争となった場合には真っ先に殺されるか捕虜にされる立場だったのだから。それを思うと遊び呆けるダミアンのことなど気にもならない。むしろよくやってくれたという気持ちの方が強い。
現在は城門から少し北西にテントを張り自由に過ごしていた。クタナツ側から暖かい食事の差し入れもあり両者の緊張も多少は緩和していた。
代官は、一旦は中止にしたサヌミチアニ出兵を再び考えていた。サヌミチアニがヤコビニ派の手に落ちようがクタナツには然程関係ない。むしろ困るのは辺境伯だ。
今回の件でも辺境伯がその気になればクタナツ代官の任免を左右することもできた。それでも非を認め穏便な解決を図ったことを代官は高く評価している。ならば多少は辺境伯に協力するのもやぶさかではない。多少の義理がないわけでもないのだから。
何よりヤコビニ派と辺境伯が結びつくと厄介なことになる。まさかそのような事態にはならないとは思うが、世の中とは何が起こっても不思議ではない。辺境では予想外のことが普通に起こるため、楽観視はできない。
今後のことを考えると辺境伯とはより親密にならなければならない。無論、こちらの力を見せた上ではある。立場的に代官は辺境伯の部下のようなものではあるが、使い勝手の良い駒と思われては困る。だから今回は毅然と対応したのだ。クタナツの民の安全を脅かすものには容赦しない。辺境において平和とは、そこまでやらないと手に入れられないものなのだ。
代官は副官を呼び、サヌミチアニ出兵を伝えた。
ギルドでは、平民のような格好をしたアランとスパラッシュが杯を交わしていた。
「旦那がここに来るたぁ珍しいこって。」
「おお、カースにコテンパンにやられたバカ息子の顔を見に来たのよ。あいつか?」
「へぇ。しかし旦那も運がねぇ。もう少し早けりゃエロイーズの全裸を拝めたんですぜ?」
「何だと!? あのエロねーちゃんの全裸だと!?」
「あの彫像をご覧くだせぇ。奴の仕事ですぜ。あれで宴会芸ときたもんだ。にくい奴でさぁ。」
そこにはまだ溶けていないエロイーズの氷の彫像があった。芸術を見る目などないアランでも分かるほどの出来栄え。ただの放蕩息子でないことが容易に窺えた。
それは初めて来たはずのギルドで輪の中心になっていることからも推察できる。恐ろしい男だ。
「よう、飲んでるか?」
唐突に声をかけてきた男こそ、当の本人ダミアンだった。
「おう、ゴチになってるぜ! うちのカースが世話になったらしいな。あいつを舐めてると大変な目にあうぜ?」
「おっ、さてはマーティン卿だな? 舐めてるわけねーだろ? どうやったらあんな子になるんだよ。ヤバすぎだろ!」
「ほほう。分かるか? 分かるよな。よし気に入った! じっくり聞かせてやる! 聞きたいだろ?」
それからはダミアンの受難だった。例え知っていたとしても逃れ得ぬ災難だったのだろう。ここまで上手くやっていたダミアンだが、まさかこんな落とし穴があるとは想像もしていなかったことだろう。
結局アランとイザベルの出会いからカース誕生、そして今日に至るまでの話をループで聞かされて撃沈寸前だった。それでも最後まで関心のある態度を崩さなかったのはさすがだろう。
そのせいでアランがいつもより饒舌になり話が長引いたことを自業自得と言うのは酷だろうか。
ちなみに宴会はダミアンがいなくても誰も気にせず楽しんでいた。吟遊詩人はこっそりと『好色騎士の歌』を歌ったりもしていた。
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