サンドラちゃんが領都に出発して二週間、今頃大会の真っ最中だろう。
その間に私は八歳になった。
大会参加者は各部門に四人ずつしかいないため盛り上がりに欠けそうだが、その分厳正に判定されるのだろう。
自分が出ることには興味ないが、対戦を見たくなってきてしまった。テレビもビデオもないのは困るな。
映像魔法を開発するか?
遠くとの通信にも使えそうだが。だめだな、全くイメージが湧かない。そんなもんどうやったら開発できるってんだ?
通信なら伝書鳩の方が無難かつ簡単かも知れない。
その代わりってわけでもないだろうが空をガンガン飛べるようになってきた。鉄のボードをギリギリまで薄くして、下面は鏡面仕上げにしてやった。
これで下からは見えまい、ふふふ。
苦労したものだ。地道に金操で磨いたからな。
魔力を注ぎ込めば速度だってドンドン上がる。だが、この先は形状にさらなる工夫だって必要だろう。
例えば風防とか屋根とか、空力も考えた形にすれば魔力も節約しつつ速度も上がるのではないだろうか。
現在は畳ほどの広さの単なる鉄の板だからな。まだまだ長距離移動はできないよな。
空を飛びながら他の魔法もいつも通り使えるよう修行しなければ、もし空中で何かに襲われたら大変だからな。
後は昼間でも飛べるように迷彩的な工夫が欲しいが、思いつかない。
上空に上がってしまえば見つかることなどないだろうが、そこまでの最中が問題なのだ。
よし! 母上に相談だ。
教えてもらった。
中級魔法『隠形』
物理的に見られないわけではなく、気にされにくくなる魔法。
森に隠れるなら木遁、荒野に隠れるなら土遁など他の身を隠す魔法と併用するとさらに効果的。
ちなみに風や金属には元々身を隠せないので、風遁や金遁はない。
火遁はあるが半分自爆技なのであまり使いたくないよな。
この際ついでなので、
『火遁』
『水遁』
『木遁』
『土遁』
も覚えておいた。
空の上では、使い道がないが覚えて損はないだろう。
隠形が中級魔法ということは、もっと強力な隠れる魔法もあるのだろう。
透明になったりとか、全く気にされないとか?
結局バレるかどうかは相手の魔力次第なので、油断は禁物。やはり基本に立ち返り魔力をガンガン上げることが大事だということだな。
コツコツ行こう。
ついに空を自由に飛べるようになってしまったカース。
天測を覚え、形状を最適化したならば、どこまでも行けてしまう八歳児。
空は安全なのか?
魔物はいないのか?
雨は? 雷は?
鉄の塊なのだから雷一発でほぼ即死。
この世界にゴム製品はない。
ゴムの木を探す当てもなければ知識もない。
四年生の社会で天測を習う前に気付かなければ死あるのみ。
しかも、もし今死んだら徳があまり溜まってない上に、親より先に死ぬ大罪を犯すことになるだろう。
もちろん来世は選べない。ミジンコか大腸菌か……よくても蟻だろう。
カースの命運は……
サンドラちゃんの凱旋だ。
弱冠三年生にして学問部門で優勝。つまり辺境一の頭脳と言っていいだろう。
五年生二人もそれぞれ優勝したらしい。さすがクタナツ男だぜ。
クタナツから優勝者が出たのは去年以来だ。つまり珍しくない。いや、三年生が学問部門で優勝したことがすごいのだ。たぶん前例は少ないはず。
そして三人は全校生徒の前で表彰されていた。サンドラちゃんはこんな大勢の前なのに堂々としてて偉いな。
「ただいま。カース君のおかげで優勝できたわ。試験官の先生も驚いてたわよ。どこで覚えたのか聞かれたから、クタナツには変人学者がいるんですって答えておいたわ。」
「何なに? カースがまた何かやったの? さあ吐きなさい!」
「おかえり、優勝おめでとう。役に立ってよかったよ。アレックスちゃんも気になるなら教えるよ?」
「べ、別に気になってなんか……でも教えてくれるんなら教えてもらうんだから!」
「よーし、じゃあ今日の放課後は居残りだね。張り切って勉強しようか。」
「え? 勉強? サンドラちゃんどういうこと?」
「うふふ、アレックスちゃんも一緒に算数のお勉強ね。カース君の算数は難しいのよ。頑張りましょ。」
「放課後に勉強するの? すごいね! 僕は帰るけどね。でも狼ごっこをするなら言ってよね。」
セルジュ君はマイペースだなぁ。
「僕も興味はあるけど帰るよ。帰ってプールで素振りをするからね。」
スティード君、もう冬のど真ん中だよ? せめてお湯にしておいた方がいいぞ。
そして放課後。
「さあてアレックスちゃん。算数の時間だよ。九九はもうバッチリだよね? では七の段を言ってくれる?」
「ふふふ、簡単よ。七一が七………」
「よし、バッチリだね。では九の段を上から言ってみて?」
「う、上から?
ええと、九九=八十八、九八=七十二、九七=六十三…………」
一問ほど間違えたか。悪くないね。
「いいスピードだったね! いいよいいよー。でも惜しい、九十引く九は?」
「八十一……」
「そう、だから九九は八十一だね。よし、では九九はもうできるね。
ではサンドラちゃんには退屈だろうけど、割り算から行ってみようか。例えば足し算は式を逆から辿れば引き算にできるよね?
12+5=17だと、17−5=12
って具合だね。
これはかけ算も同じなのね。
7×6=42 だよね。では、42÷6=は?」
「え、ええと七?」
「その通り! 素晴らしいね! 理解が早い! さすがアレックスちゃん最高!
ではこの問題を解いてみようか。」
「うん! やってみる!」
「ではこの間にサンドラちゃん。
120と180と264の最小公倍数と最大公約数を求めてみよう。」
こんな感じで正解すれば褒めまくり、間違えても褒めまくりで授業を進めていった。
今回アレックスちゃんは余りのある割り算までできるようになった。
覚えが早い!
サンドラちゃんはもちろん正解だった。
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