轟音で目を覚ました私とアレク。何かが破壊されたような嫌な音だった。急いで外に出てみると、辺境伯邸が半壊していた。結界魔法陣ごと潰されていたのだ……
方法は単純、上空から巨岩がいくつも落とされてた。数十トンの岩でも一つや二つなら防げるのだろう。しかしそれがいくつも重なれば耐えきれるはずがないのか。見張りのお兄さんがすぐ気付いたとしても立て続けに落とされては対処も連絡もしようがないし。半壊した建物内にいた人間の安否は……
しかも犯人はすでにいない。上空で適当に魔力庫から岩を出すだけ……誰にでもできる夜襲、城攻めだ。
オディ兄とマリーの部屋はギリギリ無事だが……ソルダーヌちゃんやキアラの部屋は潰れている……くそ、ふざけやがって……
『光源』『浮身』
瓦礫を少しずつ浮かべて門の外に運び出す。瓦礫の中に人間が混じってないか全員で血眼になってチェックする。キアラ……
繰り返すこと八回。ついに最初の犠牲者を見つけた。ソルダーヌちゃんの同級生だ。明らかに事切れていた……
そして次々に死体で発見される学生達……正気でない狂信者ばかり相手にしていたせいで、こんな真っ当な攻め方を誰も想定してなかったのだ。それに、いささか結界魔法陣を過信していたこともあるか……
あっ! イエールちゃんだ! 両足を複雑骨折してるようだが生きている! お! エイミーちゃんもか!二人ともギリギリ生きてるようだ。
「カース! 上!」
また落ちて来やがった!
『浮身』
数十トンクラスの岩がさらに五つ降ってきた。だが、目覚めていればこれぐらい受け止めるのは簡単だ。
「アレク! マリー! 続きをお願い! 僕は落とした奴を捕まえてくる!」
上空にいるに決まってんだ! 絶対に逃がさん! さらに『光源』昼になれ!
いた! 教団の白い服! 少し作りが違う……幹部か!?
絶対逃がさん!『落雷』『狙撃』『吹雪ける氷嵐』
真夏の夜の空を冬の嵐で覆い尽くす。凍って落ちやがれ!
墜落寸前の奴らを『浮身』死なないように優しく受け止めた。何でこんな奴らを優しく受け止めるんだよ……三人か……
「ただいま。捕まえてきたよ……」
「坊ちゃん……キアラお嬢様様が……まだ見つかりません……」
「ソルダーヌは見つかったわ。瀕死だけど、生きてるわ……」
「分かった……」『浮身』
私は黙々と瓦礫の撤去を続ける。キアラが見つかるまで……
『キアラ! 返事をしろ! どこだ!』
夜中の近所迷惑なんか知ったことか! 大音量の『拡声』だ。キアラ! 返事をしやがれ! お前が死ぬわけないだろう!
『キアラ! 起きろ! 寝てんじゃねぇ!』
瓦礫も残り少ない……キアラの部屋は一階だったから最後の瓦礫を撤去すればきっと見つかるはずだ……
『キアラ! 返事しろ!』
これが最後の瓦礫だ……キアラ……
え? 何これ?
キアラどころかベッドもほぼ無傷。天蓋付きのお姫様ベッドだけど数十トンの重さに耐えられるはずがない。確かに天蓋部分だけは壊れているが……なぜ?
キアラを起こそうと近付いて、気付いた。
キアラのやつ自動防御を使ったまま寝てやがる……私がやってるんだからキアラがやってても不思議ではない……か。
全く、心配させやがって。
それにしても質量攻撃に弱い自動防御でよくあれだけの重量を支えたものだ。さすがキアラ、信じてたぜ。
その上、消音の魔法まで使ってやがる……安眠魔法かよ! もー! 心配させるんだから! あぁよかった……
キアラはベッドごと移動させて、このまま寝ておいてもらおう。子供には夢を見る時間が必要だからな。あー寿命が縮んだわー。
「マリー、キアラに自動防御も教えてたの?」
「ええ、確かに教えました。まさか寝てる間も使われているとは……」
「教えててくれてありがとね。本当にマリーは何回も助けてくれて……」
「あんな魔力効率の悪い魔法を好んで使うのは坊ちゃん達ぐらいですよ。全く……」
確かに同じ防御でも魔力感誘と比べたら雲泥の差だもんな。たぶん千倍、いや万倍以上差があるんじゃないか? まあいいや。キアラが無事だったんだ。これ以上嬉しいことはない。
「よし、じゃあ怪我人をゼマティス家に連れて行こう。夜中だけど母上に頼んで何とかしてもらおう。」
それにあっちも似たような攻撃をされているかも知れないから心配なんだよな。母上は無事だろうな……?
即死を除いて重軽傷者は十五人。見たところソルダーヌちゃんが一番危ない。マリーがポーションと簡単な治癒魔法で応急処置はしてくれたが、やはりこんな時は母上だ。
全員をミスリルボードに寝かせて飛んでいく。私一人でだ。後は全員で警戒。お兄さんだって結界魔法陣の修復に必死だ。それって王族や宮廷魔導士以外の手に負えるのか?
ゼマティス家は……無事だ!
門や塀の外側にいくつも大岩が転がっているが、屋敷は無事だ! こちらの結界魔法陣は丈夫だったってことか?
入口の氷壁を溶かして中に入り込む。この時間の門番は……アステロイドクラッシャーのメンバー二人だった。
「こんばんは。夜分に帰って参りました。母上に急用です。この子達が瀕死なもので。」
その内の一人がすぐに屋敷に駆け込んでくれた。これでもう大丈夫だろう。
「こっちでも起こったようですが、大岩が降ってきましてね。無事で何よりです。」
「ああ、こっちでも起こった。しかし何事もなかったな。ここの結界魔法陣は形が他と違うらしい」
「へぇー、興味深いですね! どんな違いなんでしょうね。」
「さあな、真上からの攻撃にも強いらしいぞ」
となるとピラミッド型とか? 辺境伯家のはどんな形状だったんだ?
そんな話をしてる間に母上が出てきてくれた。
「母上! 夜分にごめんね! この子達を助けて欲しいんだよ!」
「もちろんいいわよ。さあポーションを出しなさい。そして手伝うのよ?」
「押忍!」
そして私は母上の指示通りに動いた。時には服を脱がせたり、できない時は切ったり。体の向きを変えたり、上半身を起こしたり。腕を押さえつけたり、引っ張ったり。かなり疲れた……
「はい終わりよ。この子とその子だけここに置いておきなさい。他は連れて帰っていいわよ。」
「分かった! いつもありがとね! 母上も上には気を付けてね。キアラなんか周辺が全壊してるのに寝てたけど。」
「ええ。カースもね。敵は生き残っている屋敷に狙いを定めたようよ。注意しておきなさい。」
「なるほど……もうあまり残ってないんだろうね。あっちにも警告しとくね。じゃあ明日また戻って来るから。ありがとね!」
ふぅ、何とか重傷者が死なずに済んだ。他の貴族家ではどうなってるんだ? 母上とかナーサリーさんみたいな凄腕がいなけりゃ死ぬしかないんじゃないか?
まあ、分からないことを考えても仕方ないか……早く辺境伯家に戻ってこの子達を寝かせてあげないとな。
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