サイクロプスの咆哮が依頼に託けてクタナツから外に出て数時間、治療院では目覚めるメンバーが出てきた。
「こ、ここは……」
一番最初に目を覚ましたのはヒャクータだった。
「ヒャクータ君だったな。よく目覚めてくれた。私はオディロンの父アラン・ド・マーティンだ。」
「え? マ、マーティン卿ですか!?」
「ああ、オディロンが世話になった。ありがとう。」
「いえ、いつも助けてもらってるのはこっちなので。」
「そうか。では状況を聞かせてもらっていいかな?」
アランはヒャクータから分かる限りの事情を聞く。やはり『擦りつけ』のようだ。
そして相手は同期の『サイクロプスの咆哮』らしい。すぐにでも殴り込みに行きたい気持ちはあるが、いくら悪質でも所詮ただの『擦りつけ』でしかなく罪には問えない。
サイクロプスの咆哮はクタナツでの肩身は狭くなるだろうし、上から睨まれ孤立はするだろうが重罰をくらうほどではない。
そのようなことを考えていると次はベレンガリアが目を覚ました。
「ベレンガリア嬢、お久しぶり。アラン・ド・マーティンです。お加減はいかがかな?」
「マ、マーティン卿!? オディロンは? 弟さんは?」
「貴女のお陰でオディロンは無事だよ。ありがとう。まだ目覚めてはいないがね。」
そしてベレンガリアからも事情を聞く。
彼女は自分でも信じられないこと、事実をありのままアランに説明した。
「そうか、カースが慌てて出て行ったのはグリーディアントか……」
アランは考える。
グリーディアントの獲物に手を出した以上、奴らはクタナツまで来る可能性がある。カースのやったことは最善かも知れないが、それで確実に安全とは言えない。あの蟻の速度からすると早ければ明日の昼から夕方ぐらいにクタナツまで来てもおかしくない。
アランは腹をくくった。
「ベレンガリア嬢、私は帰る。オディロンとカースを頼んでいいだろうか?」
「はい! お任せください!」
自宅に戻ったアラン、イザベルもちょうど目覚めており、フェルナンドも来たところだった。
「兄貴、イザベル、困ったことになるかも知れない。カースがオディロンの右腕を取り返した相手だが、グリーディアントだ。」
「なんですって!?」
「カースはベレンガリア嬢からグリーディアントの習性を聞き、それでも腕を取り返した。誰に似たのか……バカな子だ。」
「どうする?」
「カースはその後、辺り一帯を焼き尽くしたらしい。かなりの広範囲をだ。しかもその後、大量の水で押し流しもしたらしい。」
「なんてことを……」
「あれから腕を届けた後、再度出向きグリーディアントがいないか監視していたのだろう。再び焼き尽くすか何かをして帰還、予想以上に魔力を消耗し兄貴に助けられたんだと思う。」
「そこまでやったのなら来ないかも知れないな。安心はできんが。」
「ああ、そこで俺は今夜のうちにクタナツを出てグリードグラス草原へ向かう。蟻共がこちらへ向かってないか確認しなければならない。もしこちらに向かっていれば上に全てを話すしかない。」
「そ、そうよね……そうする他ないわね……」
「もちろんカースを責める気などない。あいつはよくやった。たった一時間でグリードグラス草原まで往復してみせたんだ。こんなことができる奴なんているものか!」
「よく言った。私も行こう。蟻共がクタナツに来る前に全て斬り捨てればカース君が罪に問われることもない。」
「そうね。クタナツの貴族としては最低だけどカースのためなら何でもするわ。それなら私は明日の朝クタナツを出るわ。それまでしっかり休んで魔力を回復させないと。」
「わずか三人でグリーディアント退治とは。バカ息子の親はバカ親か。ふふふっ。」
「くっくっく、兄貴もだぜ。」
そうして二人が準備を始めていると。
「もちろん私も行きます。朝、奥様と共に出発いたします。ちなみに私はバカではありません。安全を確信していますので。」
「マリー……そうだな。カースが焼き尽くしたもんな。きっと問題ないよな。くっくっく、そうなると兄貴と二人でただのピクニックか。それもいい。」
そして二人はマリーの隠形と浮身によって城壁を飛び越えて魔境へと向かうのだった。
もう翌朝までクタナツに戻ることはできない。
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