今日から新学期。私達は五年生になった。
どんな一年になることだろう。
「あ、セルジュ君おはよー。昨日は楽しかったね!」
「おはよう。またやりたいよね! さすがにゴースト退治は無理だけど。」
好きだねぇ。でもあんな場所じゃあ身を隠す所がないもんね。
ちなみに今日は珍しく馬車に乗って来た。
母上から、『初日ぐらい貴族らしくしなさい』と言われてしまったのだ。
服装だって兄上から貰った新しいウエストコートでバッチリおしゃれだ。
「おはようカース。いい服着てるじゃない。新作ね。」
「おはよ。分かるの? さすがアレク! 例によって兄上のお土産なんだよね。」
こんな話をしているとスティード君もサンドラちゃんもやって来た。全員集合だ。
先生もやって来て一時間目、国語だ。
もちろん担任はウネフォレト先生。
「みなさんおはようございます。今日から卒業まで頑張っていきましょうね。
私ごとですが春休みに結婚しました。苗字が変わりましたが、訂正するのも覚えるのも面倒でしょうから今年度はウネフォレトでいきます。」
全員から拍手が起こる。こんな時は拍手でいいのか?
それにしてもいいことだ。先生の青春はこれからに違いない。
「では新しいお友達を紹介します。入って自己紹介をしてくださいね。」
「カリツォーニ・ド・アジャーニである。冬の終わり頃王都からやって来た。良しなに頼む。」
「ハンドラー・ド・チャリオスだ。カリツォーニ様のご学友であり護衛も兼ねている。よろしく頼む。」
「シフナート・ド・バックミロウです。カリツォーニ様の学友であり護衛も兼ねています。よろしくお願いします。」
上級貴族が一人に護衛が二人。全員男か。つまらん。それにしても代官の関係者か? 子供に子供の護衛をつけるとは。将来のポストを見越しているのか?
それにしても自分で『ご学友』か、関わりたくないタイプだな。
「では授業を始めます。まずはいつものように一緒に読んでみましょうね。」
『花の香りは 移りにけりぬ いたづらに わが身世にふる ながめせしまに』
こんな短い歌の中に深い意味がある。
これはもはや芸術だ。
二時間目、算数。
小数が出てきた。これを一年間かけて四則計算ができるまで仕上げるらしい。
三時間目、魔法。
毎度お馴染み魔力測定だ。今回は四千まで測れる。
私達はいつも通り全員四千かと思ったら、スティード君が三千二百だった。
さては剣術の稽古ばかりで魔法を疎かにしたな?
他はエルネスト君が二千五百だったぐらいで大した数字は出なかった。やはり差は広がる一方なのだろう。
ちなみに転校生三人組は二千前後だった。
そして昼休み。
私達はいつも通りだが、周りは少し変化がある。最大派閥のバルテレモンちゃん達が十人ぐらいしかいない。見たところ平民が減っているようだ。
そしてエルネスト君とイボンヌちゃん。
イボンヌちゃんはいつも通りに見えるがエルネスト君がやたら浮かない顔をしている。
そして上級貴族アジャーニ君達は三人で食べるのかと思えば、こちらに近づいて来て、
「アレックス、こっちで一緒に食べないか?」
そう言った……
アジャーニ君の発言は少し意外だった。
思えば私達と一緒に昼食を食べる者は誰もいなかったからな。誘いもしなかったが、誘われもしなかったから。
「アジャーニ君、呼び捨てにしないで欲しいわ。不愉快よ。」
「これは失礼。懐かしさの余りついつい愛称で呼んでしまった。君も立派な淑女なんだからそうもいかないか。
では改めて、アレクサンドリーネ。一緒にお昼をいかがかな?」
こいつ、分かってないな。それとも分かってて無視してんのか? まあ気にせず食べよう。私はペコペコなんだ。
「あっ、カースずるい! 自分だけ食べるなんて。」
そう言うなりアレクも無視して食べ始めた。そりゃそうだ。呼び捨てするなって言ってんのに無視したんだから、こっちも無視だな。
「アレクサンドリーネ。それはないだろう。それとも辺境で暮らしているうちに礼儀も無くしてしまったのかい?」
「礼儀を無くしたのは貴方でしょう。私は呼び捨てにしないでと言ったわよ? 私を呼び捨てにしていい男はこのカースだけよ。」
げっ、何てことを。面倒な展開になってしまうじゃないか。
「ふふん、そんな男が君を呼び捨てにしてるのか。許せないな。」
そんな男って言われてしまった。別にいいけどね。今日のスティード君のお弁当は美味しいな。
「スティード君、この肉はえらく美味しいけど何?」
「あぁそれはオークだよ。詳しくは聞いてないけど特殊なやつらしいよ。」
「あら? これってアルビノオークの雌じゃない? クイーンオークほどではないけど珍しいわよ。」
「さすがアレク。詳しいね。」
「お前達! カリツォーニ様を無視するな! ただではおかんぞ!」
護衛一号君が怒ってる。
一言「アレックスちゃん、一緒にご飯食べよう」って言えばいいだけなのに。
「そこのお前、今『アレク』と呼んだな? 下級貴族か平民か知らんが調子に乗らない方がいいぞ。」
「だからアジャーニ君、呼び捨てにしないでって何回言わせる気? 私をアレクと呼んでいい存在はカースだけ。貴方じゃないの。」
「くっ、ここまで言われて反論もしない男のどこにそんな価値がある。君に守られているだけじゃないか。」
何やら話が大きくなってきてないか?
アレクサンドル家の威光に守ってもらえるなら最高だな。
「お話し中に失礼します。私、イボンヌ・ド・クールセルと申します。かねてよりアジャーニ様の才気煥発なお噂を聞き、ご指導ご鞭撻賜りたいと思っておりました。ここで出会えたのは望外の喜び。お時間を頂けないものでしょうか。」
乱入者イボンヌちゃん。黒髪ストレートの清楚風美少女。頼んだ! こいつを連れて行ってくれ!
うわっ、こいつもう目の色が変わってやがる。どいつもこいつも、私達はまだ九歳だぞ? 子供らしくできんのか。
「ほほう。このような辺境まで私のことが伝わっていたか。いいだろう。話を聞かせてやろう。」
イボンヌちゃんお見事。完全に自分の都合だろうけどありがとう。そして哀れエルネスト君……
護衛一号君は私を睨みながらアジャーニ君についていった。二号君はイボンヌちゃんを睨んでいる。
「アレク、眠くなったから膝枕してよ。」
私は教室の隅に銀ボードを出しローブを敷いた。昨日のアレで食後の昼寝の気持ち良さに目覚めてしまった。昼寝なのに目覚めたって何だかな。
「仕方ないわね。泣き虫の上に甘えん坊なんだから。」
嬉しそうな顔してえらくディスってくるじゃないか。そんなとこも可愛いけど。
「僕も寝ようかな。」
「私も。セルジュ君、お腹貸して。」
「いいよ。春の昼寝は最高だよね。」
こうして傍若無人な私達は教室のざわつきなど気にせず四時間目が始まっても眠りこけていたため、社会の授業を後ろで立ったまま受ける羽目になってしまった。
バルテレモンちゃんがニヤニヤとこちらを見ていた。アジャーニ君は憎々しげな顔で私を見ていた。
やはり昼寝は素晴らしい。みんなの雑魚寝用に布団か何か用意しておこうかな。
今回は教室で寝たから先生に起こされたけど、校庭で寝てたら五時間目までずっと寝てただろうな。鉄ハウスは使うべきではないな。
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