それから私達は一旦兄上宅に戻った。そしてアンリエットお姉さんを連れて再びダイナスト道場へ。お姉さんとしても夫や義父との関係が深い道場なのだから当然らしい。
それからゼマティス家にいる母上に父上の居場所を伝えて、ようやく自由時間だ。私って働きすぎだよな?
よし決めた! 休もう!
「アレク、今からお休みするよ!」
「え? 何するの?」
「ふふふ、久々のあれ。空中露天風呂だよ。」
「いいわね。みんながこんな状況なのに私達だけそんなことをするなんて。すごく贅沢だわ。」
さすがアレク。分かっているではないか。ミスリルボードに乗って遥か上空へ。
王都全てが指で作った円に収まるよりまだ高く。
よし、ここらかな。ミスリルボードの隣に……先日楽園で回収したマギトレントの湯船を空中に出す。もちろん浮身の魔法をかけてと。そこにお湯を注ぐ。たぷたぷ満タンだ。そしてコーちゃん用のタライも浮かべて水を注ぐ。「ピュイピュイ」
「さあアレク、入ろうか。服を脱いでごらん?」
「もう、カースったら……」
夏の太陽に照らされたアレクの肌は美しい。
地上では未だに地獄絵図が広がっているってのに。
ちなみに、アレクも魔力庫の設定を変えて一瞬で着替えができるようになっている。それなのに私の前では一枚ずつ脱いでくれる。悪い女だ。なお、その設定変更で魔力量が二割ほど減ったらしい。
それからはお湯に浸かったり日光浴をしたり、イチャイチャしたりと場所的な意味でも天国だった。まだ夕方ではないが帰り支度を始めよう。日光浴の後はポーションマッサージをしなければならないからな。アレクの白い肌にわずかなシミすら残さないように。
「今度ソルも招待してあげてくれる?」
「え? 空中露天風呂に?」
「ええ。湯浴み着は私のを貸すから。」
「そうだね。あの子も色々と疲れてるだろうし、リフレッシュさせてあげないとね。」
今回の件でソルダーヌちゃんをかなり見直したし、それぐらいお安い御用だ。それならエイミーちゃんやイエールちゃんはどうしよう?
まあいいや。さて、辺境伯家に戻ろうか。結界魔法陣が途切れる時間帯があったが大丈夫だったのだろうか。
到着。おや、今の門番はオディ兄か。
「ただいま。どうだった?」
「おかえり。どうにか大丈夫だったさ。マリーがいるんだから。」
「だよねー。心配なんかしてなかったよ。じゃあここは代わるからソルダーヌちゃん達と一緒にアレクから話を聞いておいてくれる?」
情報の共有は大事だからな。父上や無尽流に関する報告だ。
「ではオディロンお兄さん、ソル達の所に行きましょう。こちらでの出来事も聞かせてくださいね。」
「いいとも。君達にばかり苦労をかけるね。」
「何言ってんだよ。わざわざ王都まで来てもらったのはこっちの方なのに。仕事を休ませた分ぐらい何とかするからね。」
「カースが心配することじゃないさ。母上の実家の危機だからね。喜んで来るに決まってるよ。」
ウリエン兄上もオディ兄も、何て崇高な男達なんだ。こんな二人の弟に生まれて私は幸せだ。
そしてボケーっと門番をすること一時間。アレクが食事を持って出てきてくれた。
「夕食にしましょ。面白い話もあるわよ。」
「ありがと。どんな話?」
オディ兄とマリーの活躍の話だった。結界魔法陣が途切れている時に、白い鎧が二人と狂信者が百人ぐらい襲ってきたらしい。白い鎧を撃退したのはオディ兄。頭部を兜ごと果実のように潰したらしい。圧縮魔法か、そこまでの威力に成長してるんだな。絶対魔法防御なんて最早名前だけの存在じゃないか。きっと兜に魔法をかけてるのではなく、兜の周囲の空気を圧縮するイメージなんだろうな。私もよく使う『重圧』の上位版だな。洗濯魔法の派生、乾燥と圧縮がここまで猛威を振るうとは……
百人の狂信者はマリーが草を刈るように処理したらしい。葉斬って言ったっけ? 斬れ味鋭い魔法があったよな。本当に頼もしい二人だなぁ。ありがたい。
「ご馳走様。この料理はマリーかな? 大活躍だね。」
「ええ、そうらしいわ。昨日のシーサーペントを上品に仕上げてるわね。ここに避難してるのは貴族がほとんどだから、味付けを工夫してるのね。」
なるほど。さすがはマリー。やることにソツがない。素晴らしい。
「ただいまー!」
「お、キアラおかえり! 楽しかったか?」
「うん! カー兄の好きなツナマグロも獲ってきたよー!」
「おーそうかそうか。キアラはえらいなぁ! 見せてくれるかい?」
今日の獲物は全て魔力庫に入る大きさだったようだ。大物ばかり捕まえるキアラにしては珍しい。
おお、全長五メイルはある黒鮪、いやツナマグロか。これは食いでがあるな。でもそろそろワサビの在庫が無くなりそうなのが不安ではあるな。こんな状況ではスピオスライド商会にも買いに行けないな。むしろあの商会は無事なんだろうか? よし、明日行ってみよう。
結局ツナマグロを生で食べる者はあまりおらず、普通に焼いて食べる者がほとんどのようだ。これならワサビが減らずに済むかな。
さあ寝るとするか。夜間の見張りは今夜もおデフロックお兄さんがやるようだし。
そしてその夜中、突然の大きな音で私達は目を覚ました……
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