寝室の魔法を全て解除し、ベッド横のベルを鳴らす。これで誰か来るだろう。
「失礼いたします。旦那様、お召しにより参りました」
メイドさんか。『風操』でゆっくりドアを閉めて『水鞭』で拘束、こちらに引き寄せる。
「きゃあああっ!」
さてと、先ほどと同じことの繰り返しだな。メイドさんなど使用人に罪がないとは分かっているが、母上は皆殺しにしろと言った。理由は見せしめだろうな。イヤリングを落としておくよう言ったのも犯行を匂わせるためってところか。
ふむふむ。メイドさんの供述によると今夜この家にいる使用人は二十二人、騎士が五人、冒険者が八人だそうだ。これに家族が八人だったな。一人ずつこつこつと殺るとしよう。だいたいの間取りも聞き出したことだし。
メイドさん、この家に仕えたばっかりに運が悪かったね。でもそれも貴族あるあるだから仕方ないよな。
人数をカウントしながら一部屋一部屋丁寧に潰していく。また廊下では出会うに任せてその場で仕留めている。
残り五人。夜明けにはまだまだ時間がある。慎重にいこう。早朝になると通いの料理長なんかも出勤してくるらしいしな。
今思ったことだが『乾燥』で殺したせいで私ってバレたりしないよな? 私の知る限り乾燥の魔法を使えるのは私、オディ兄、母上だ。他にもいるかも知れないが珍しい殺し方であることに違いはない……まあいいか。
終わった。抵抗らしい抵抗もなく、全員殺した。最後まで私に気付いた奴はいない。霞の外套は反則すぎるな。
捜査の撹乱のために全員の死体を魔力庫に入れて帰ろうかとも思ったが、意味がないのでやめた。あれだけの死体を収納できる魔力庫持ちの可能性で絞り込まれても嫌だしね。当主の死体の側にイヤリングも落としたし、もう用はない。金目の物には手を付けない。私は強盗ではないのだから。だから死体からぶち撒けられた小銭などにも手を付けるつもりはない。これにてミッションコンプリート。結構時間がかかるものなんだな。
もし母上だったらどんな手際で終わらせるんだろう。少し気になってしまった。
それにしても、これによってキアラとフランツウッド王子の仲を間接的に応援してしまったことになるのか……?
くっ、キアラが幸せならいいけどさ……なんだかなぁ……
来た時と同じように第三城壁を越え、第二城壁内へと戻る。こんな夜中に出歩くわけにもいかないが、この時間では宿にも泊まれない。夕方に立ち寄った廃屋で朝まで過ごすとしようかな。
到着。魔力探査をしてみたが、誰もいないようだ。では遠慮なく。
中に入ってもスラムの住人がいるってこともなく、やはり無人。何か食べてもいいのだが火を使いたくないからな。いつものギルド弁当で済ませるとしよう。コーちゃんごめんね。明日はいい物を食べようね。
「ピュイピュイ」
コーちゃんは約束通りずっと静かにしていてくれた。とてもいい子だ。寝よう。野宿、ではないが自宅以外で寝る時のお供はこれ。グリフォンの羽毛で作った超高級布団だ。これで寒い夜もあったかだ。一緒に寝ようねコーちゃん。
「ピュイピュイ」
外が薄っすら明るくなる頃、範囲警戒に反応があり目が覚めてしまった。くそ、誰だよ……
「だれだ! ここで何してんだ!」
子供じゃないか……だが顔を見られるのはまずいな。『闇雲』目以外を隠しておこう。
「寝てたんだよ。もしかしてここは君のうちかい? だったら悪かった。出て行くから許してくれ。」
「違う! 違うけどここはオレのなわばりなんだ! あやしいやつめ! たいじしてやる!」
棒切れを振り回して襲ってきた。これは困った。しかし演技派の私としては張り切る場面だな。
「ぐわっ! な、なんて強いんだ! くっ、もう逃げるしかない!」
「でていけ! でていけー!」
「うわー! 出ていくから許してくれー!」
布団を収納してドタドタと私は表から出た。もっと寝ていたかったのに……
あの子は見た感じ十歳ぐらいかな。子供がよくやる秘密基地にしては必死な感じがあったが。
まあいいや。この時間なら宿に行くのもありだな。風呂のある宿でもう一眠りしようかな。 いや、しかしこの時間から宿に行くのも不自然だから……
連れ込み宿にした。ここなら部屋が空いてればいつでも入れる。だったら初めからここに来るべきだった……気付くのが遅かったな……寝よう。
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