私達が卒業してから二年が経った。
私以外の四人はこの四月で三年生となり、キアラはクタナツ初等学校の二年生となる。私はと言うと、代わり映えしない生活を送っていた。
二年前の春、アレクを領都まで送り、魔法学校の入学・入寮手続きを済ませたその足で辺境伯邸に赴いて新居の手続きも行った。
以来私の領都での拠点は貴族街の一等地にある豪邸となったのだ。アレクが手配してくれたメイドのマーリンもよく働いてくれている。
ちなみにマーリンは四十代の小太りおばさんであり、家庭的な料理が上手だ。もちろん掃除もきっちりやってくれているので助かっている。
月に二回はこちらに来て、アレクとの時間を楽しんでいる。もちろんコーちゃんも一緒だ。
アレクも多忙な学校に在籍しているので授業に追いつくのが大変らしい。私と城門外で魔法の練習をすることも多々あった。
二、三ヶ月に一度はセルジュ君やスティード君も顔を見せてくれる。二人とも寮なので自由に過ごせる我が家を気に入ってくれているようだ。
サンドラちゃんとは一度も会っていない。王都まで行けなくはないが、気が進まないため行ってはいないからだ。
エリザベス姉上は王都、魔法学院の三年生。こちらも二年と少し会っていない。きっと元気にしていることだろう。姉上も今年で卒業か。進路はどうするんだろう。
ウリエン兄上は二年前に近衛学院を卒業し、見事近衛騎士として任官した。新任の近衛騎士はまず全員が親衛隊に入隊するらしい。そこからある期間を経て各王族の近衛隊へと配属されるらしい。
大きな変化があったのはオディ兄だ。
ついに金貨百枚を貯め、父上からマリーを買い取ったのだ。この二年の間に私も何回かマリーのテクニックを味わっていたのだが、今後はないと思うと少し残念だ。しかしそれ以上にオディ兄を祝福する気持ちが強い。家族の前で堂々とマリーに求婚したオディ兄は男だった。マリーもまさかそう来るとは思ってなかったのだろう、思わず『はい』と言ってしまっていた。貴族と奴隷の結婚は前例がなくはないらしいので、大きな問題にはなっておらず、奇特な奴もいるもんだ程度に騒がれて終わりだった。
初恋は実らないとは言うがオディ兄はよく頑張ったと思う。やはり自慢の兄だ。
そんなオディ兄には結婚祝いとしてマギトレントの湯船を贈った。領都の自宅用にも確保するため一人でノワールフォレストの森まで行ってきたのだ。
場所は分かっているので迷うことはなかったが、スパラッシュさんがいないことを改めて実感してしまい少し悲しかった。スパラッシュさんが命名したスティクス湖だが、あんな砂漠なのに未だ涸れていない。通る度に水を補給してはいるが、それだけではない理由がありそうだ。
そんな麗らかな春の週末。私は今日も今日とて領都に向かっている。半年前ぐらいからは循環阻止の首輪をしたまま往復をしている。空中露天風呂も首輪をしたままできるようになった。そんな状態でもクタナツ-領都間の移動に二時間とかからない、ふふふ。
領都北の城門をくぐるとアレクが待っていてくれる。以前姉上から教えてもらった『発信』の魔法で領都のアレクに到着前の合図を送っているからだ。
最近のアレクは私を見つけると抱きついてくるようになった。体も成長してるため私もドキドキだ。
「待たせたかな。会いたかったよ。」
「ううん、待ってないわ。ちょうど来たところなの。私も会いたかったわ。」
デメテの日の昼に来た際はランチに行って昼寝をしてからデートをして、ディナーは自宅でマーリンの料理を食べるのが定番だ。
ケルニャの日の夕方に到着して、魔法学校の校門でアレクを待つこともある。
そして夜は……
湯浴み着で一緒に入浴をするがそれだけだ。同じベッドで抱き合って寝るがやはりそれだけだ。
肉体的な欲望はあるが、中身がオッさんなので自制するのは余裕、今のところは……だが。
アレクも多少物足りない顔を見せるが、そこは子供らしさを忘れないよう口付けより先に進む気はない。やりたいことをやると決めたが、それは自分限定だ。アレクが関係することなら私はいくらでも我慢してみせよう。
そんなある夜。
「ねえカース。私が欲しくないの?」
「え!? どういう意味!?」
「そのままよ。男女が同衾しているのに……カースは何もしないじゃない……我慢しなくていいのに。」
「確かに我慢してるよ。アレクはとてつもなく魅力的だから段々と我慢できなくなると思うけど。でもまだ子供らしさを楽しみたいとも思ってるんだよね。」
「……もう……変なところに拘るんだから……」
こうやって我慢するのもまた楽しいのさ。欲望の赴くままにアレクを貪ってもいいのだが。
「まあまあそんな難しいことを考えるのはやめようよ。アレクの魅力の前にはどうせすぐ我慢できなくなるんだからさ。それまでは子供らしく過ごそうよ。」
「……カースのバカ……私だって我慢してるんだから……」
お互い我慢するのも青春なのさ。
こうして領都の夜は更けていく……
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