道場でワイワイ楽しんだ翌日、デメテの日。今日は昼までは宿でゆっくりする。それから王都をブラブラ見物しながら夕方にはゼマティス家に顔を出す予定だ。
この日はやけに傾奇者をたくさん見かける。まさか私達の行き先に付いてきているわけでもあるまい。買い物をしてお茶をして、演劇を見て。
今日の演目は『勇者とメアリベル姫の恋物語』
勇者ムラサキと乱立していた王家の一つロジャース家の姫君メアリベルとの恋模様を描いた作品だ。魔境以南をまとめるためロジャースの名を捨て新たな王家としてローランドを名乗り、結婚式を挙げる。ハッピーエンドで終わる大人気の演目らしい。
劇場から出てみると一層と傾奇者が多い。イベントでもあるのか?
「おい、こいつじゃねぇか?」
「おお、間違いねーな」
「こんなガキかよ? 俺がいただくぜ!」
「バカヤロー! 山分けって約束だろうが!」
小汚い傾奇者達が一斉に襲ってきた。こんな街中で正気か? せっかくハッピーでいい気分だったのに。
『氷散弾』
弱い……やはり格好だけか。本物の傾奇者はいないのか。
もはやルーチンワークと化した拷問と契約魔法を経て有り金と情報をゲット。どうやら私に賞金が掛かっているらしい。その額、白金貨三枚。意外と高いのかな? アレクに掛かってなくてよかった。
第三城壁内に入るまで同じことが三回あった。そいつらは有り金を没収した上に借金も被せてやった。滞納を続けて利子を含めた総額が金貨百枚を超えたら全関節が固まるエクストリーム契約にしてある。ふふふ。
今思えば、最初に酒場で暴れた時にシンバリー以外の奴らは麻痺させただけなんだよな。誰も死んでないから私の名前や顔が割れてしまったわけか。そもそも宿に呼び出してしまったもんな。少し、いやかなり迂闊だったか……目撃者は皆殺しにするべきだったのか……
うーん、さすがにやりたくないな。
「こんばんは。お邪魔しまーす。」
「お邪魔いたします。」
「ピュイピュイ」
ゼマティス家に到着した。おじいちゃんからのプレゼントが楽しみだ。
「お帰り。聞いたわよ? カースに賞金が掛けられたんですって? あなたもやるわね。」
おばあちゃんは情報通なのかな。
「そうみたいです。ニコニコ商会を始め王都中の闇ギルドが結託して賞金を掛けたんですって。」
この話は正直おかしい。あんな無法な奴らが結託なんてするか? あいつら系って同業者だろうと隙あらば寝首を掻こうとする奴らばかりのはずだが。
和やかな夕食の席でおじいちゃんからプレゼントが渡される。
「カースや、特注だぞぉ。ゆうっくり魔力を込めてみなさい。」
「はい! おじいちゃんありがとう!」
錬魔循環をしつつ魔力を込める。前回憲兵隊の詰所でやった時より魔力が入る。まだイケるか?
「よーし、そこまでじゃ。すごい魔力じゃなあ、さすがカースえらいぞぉ!」
さっそく装着してみる。
うぐぅ、これはキツい……さすが特注。
「おじいちゃんありがとうございます! かなり効いてます! 嬉しいです!」
だいたい三倍ぐらいの効き目だろうか。魔力も流れにくくなったし体の重さもかなりある。領都に帰る時には装着できないな。
こうして楽しい夕食は続く。おじいちゃんは特にご機嫌だ。
カースとアレクサンドリーネが風呂に入っている頃、居間では。
「あなた、あの首輪はもしかして罪を犯した王族用の?」
「その通りじゃ。カースの注文に応えるにはあれしかなくての。しかしさすがカースよ。あれを付けて平然と動きおった。魔法を使うにも問題ないじゃろう。」
「そのようね。かなり効いているとは言ってたけどまだまだ余裕があったわね。」
そこにアンリエットが口を挟む。
「おじいちゃん、私も循環阻止の首輪が欲しいわ。もう十代も後半だけどまだ遅くないと思うの。」
「そうかそうか。もちろんいいとも。用意してやるからのぉ。」
シャルロットとギュスターヴは何も言わない。自分達に矛先が向かないように大人しくしているようだ。
この家に生まれたものはだいたい五歳ぐらいから経絡魔体循環を施され人並み外れた魔力を身につけるための下地を作る。そんな彼らから見てもカースの魔力は異常なのだ。扱う魔法の種類や制御に不足はあったとしても、あの膨大な魔力の前には全てが霞んでしまうだろう。そして彼らは知らない、カースの妹キアラのさらに異常な魔力を。
その頃、風呂場にて。
「ところで、ソルダーヌちゃんには会わなくていいの?」
「あ、忘れてたわ。あんまり王都が楽しいものだから。カースのせいなんだから!」
「なら今夜手紙だけ書いて明日の朝一で届けてみる? 宿に帰る前にさ。」
「そうね。そうしようかしら。言ってくれてありがとう。」
風呂から上がった私達はおじいちゃんおばあちゃんと楽しくお喋りをした。
王都最後の夜か……少し名残惜しいかな。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!