バランタウンに泊まった翌日、デメテの日。
少し早起きして朝からクタナツに戻ってアレクサンドル邸を訪問する。
早朝にもかかわらず門番さんは私を招き入れてくれる。
「おはよう。早いわね。これが手紙よ、三通あるわ。ところでカース君?」
「はい?」
「こうやってアレックスのことを知らせてくれるのは嬉しいんだけど、必要ないわよ?」
「あら? そうですか?」
「以前の話を忘れちゃった? 貴方が守りなさい。それでいいの。難しいことは考えなくていいわ。もしも手を出してはいけない相手に手を出して、どうにもならなくなったら言いなさい。助言ぐらいしてあげるわ。」
「ありがとうございます。お嬢様にもそのように伝えておきます。」
よし、これでクタナツでの用は済んだ。大急ぎで領都に行くぞ。
飛ばせ飛ばせぇ〜
鳥より速くぅ〜
アレクが待ってるぅ〜
逢いに行くすぐにぃ〜
二時間もかからず領都に到着。当然到着前にアレクに発信の魔法は使ってある。
なのにアレクが北の城門にいない……
ただの寝坊ならいいのだが……
今一度、発信の魔法を使いながらアレクの寮に近付いて行く。大丈夫だろうか? アレクは無事か?
とうとう魔法学校の寮に到着した。発信は使っているが、アレクの姿は見えない。
不安になってきた。受付のおじさんに頼みはしたが、女子寮のおばさんには頼めない。大丈夫なのか?
魔力探査によるとアレクが寮の自室にいるのは間違いなさそうだが、困ったな……
そこに何人か女の子が出てきたので聞いてみる。
「おはようございます。突然ごめんなさい。僕はカース・ド・マーティンと言います。アレクサンドリーネをご存知でしょうか?」
「はぁ、知らない者などいないと思いますが……」
「どうやら体調を崩しているみたいなんですが、何か知りませんか?」
「さあ……誰か知ってる?」
「そもそもあなた誰ですか?」
「最近アレクサンドリーネ様に付きまとっている不審者なんじゃ……」
「何!? その話詳しく!」
不審者がアレクに付きまとっているだと!?
許せん!
「いつから!? どんな奴!?」
「いつからかは知りませんが、あなたみたいな格好をしてるらしいですよ?」
「それはおかしいね。普通に考えてこの格好をするのは僕以外に無理だよ。じゃあ僕が不審者に見えるってことかな?」
「そんな普通の格好なんて誰でもできるんじゃ……」
「王都で流行ってるもんね」
「なら不審者は僕じゃないってことかな?」
「あら? そうなるのかしら?」
「それもそうね……」
これが普通の格好に見えるとは……この子達の目は節穴だな。節穴さんだ。
「そもそも本当に不審者はいるの? アレクの実力や領都の治安を考えたら、いつまでも捕まらないのはおかしくない?」
「そ、そうね……」
「昨日の実技で遂に首席になったし……」
「あ、だから体調が悪いのかしら?」
「それだ! それを聞きたかったんだよ。ありがとう! では申し訳ないんだけど、アレクの部屋までお使いを頼めないかな? 報酬はこれ。」
そう言って私は銀貨三枚を取り出す。ただのお使いには過分だがこのぐらいは必要だろう。
「まあ……いいですよ」
「仕方ありませんね」
「で、何を届けるんですか?」
「これ、ポーションと魔力ポーション。お願いしていいかな?」
「これって……」
「結構いいやつね」
「あっ、あなたもしかして!?」
おっ、知ってるのかな? 月に二回は来てるもんな。
「じゃあ待ってるね。届けてくれた後に銀貨三枚渡すね。」
待つこと十分。
また別の女の子達が出てきた。
「そこのあなた! アレクサンドリーネ様に付きまとってる不審者でしょ!」
「怖いわ! 誰か! 衛兵を!」
「下級貴族の分際でアレクサンドリーネ様に懸想してるんだわ!」
何だこいつら? 無視だな。
「ふふん、ぐうの音も出ないようね!」
「まだ!? 衛兵はまだ!?」
「至高なるアレクサンドリーネ様に劣情を催す憐れな羽虫ね!」
よく喋るな。アレクのファンか?
「下級生を騙してアレクサンドリーネ様に怪しい薬を飲ませようだなんて!」
「先生を! 先生を呼んでー!」
「無駄無駄無駄よ! 高級ポーションに偽装したようだけど私達の目を欺くこと能わず!」
じゃあさっきのポーションはアレクに届いてないのか?
「お前ら名乗れ。俺はカース・ド・マーティン。知らないんなら覚えておけ。お前らがアレクを慕ってんのか知らんがな、俺らの邪魔をするってんなら……」
「な、何よ! 所詮下級貴族でしょう!」
「名乗れですって? えらそうに!」
「誇りある我等が名を知ろうと欲する傲慢許すまじ!」
話が進まない。さっきの子達はどうした?
「あの子達に頼んだポーションはどうした? あれはお前らごときが買えるような安物じゃないんだぞ?」
「没収に決まってるでしょう!」
「証拠品よ! これでおしまいよ!」
「抵抗は無意味! 神妙にお縄を頂戴するべき!」
こいつら……! アレクのためのポーションを没収だと!?
「もういいや。お前ら死ぬか?」
無駄に魔力を放出してみる。盛大に垂れ流しだ。魔法学校生ならばしっかりと感じとれるだろう?
「ね、ねえ……寒くない?」
「え? 私は暑いわ……」
「深淵に魅入られた仔羊の心境とでも言うの……?」
「そのポーションをアレクに届けろ。そしたら勘弁してやる。今すぐだ。行け!」
よかった。行ってくれたか。
女と小物は扱いが難しいって言葉があったよな。本当に面倒くさかった。そもそもあいつら本当にアレクのファンか?
アレクからは女の子の友達はいないって聞いてるぞ? まあ男の友達がいるとも聞いてはいないが。
帰ろう……
女子寮だしコーちゃんに行ってもらうわけにもいかないか……どんな言いがかりをつけられるか分かったもんじゃないかな。
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