アレクと三曲ほど踊ってちょっと休憩。何か飲もうかな、なんて考えていると。
「カース君! 成人おめでとう!」
スティード君!?
「あれ? アイリーンはいないのか?」
バラデュール君もいる。
「カース先輩、おめでとうございます……」
アレクの弟君、アル君じゃないか。
「みんな、来てくれてありがとう。僕も今日知ったんだけどね。」
「アルベリック、よく来たわね。」
「姉上が来いって言うから……」
「アイリーンはどこだ?」
「アイリーンちゃんはあっちで寝てるよ。」
バラデュール君はアイリーンちゃんに会いに来たのね。
そうかと思えば……
「カース君。成人だね。おめでとう!」
「セルジュ君まで!? わざわざありがとう!」
ぞろぞろと現れるではないか。嬉しいぞ。
「チャス魔王さん!」
「魔王さんコンチャッス!
「ごくろっす!」
「うぇいどもっす!」
貴族学校のぼんくら四人組まで現れた。大盛況だな。
「さあさあ、どんどん飲むといいよ。」
私とアレク、スティード君とセルジュ君はテーブルへ移動する。積もる話でもしようかね。
飲み食いしながらお喋りをしていたら音楽が止まった。
『カース! アレックスちゃん! ステージに来てくれや!』
ダミアンの声だ。何だ何だ?
「行こうか。」
「ええ。」
ステージ上には大岩が置かれている。あ、もしかして?
「オメーがこの前言ってたアレをやってやるぜ。俺からの成人祝いだ。」
「マジかよ! そいつは嬉しいな。コーちゃん、カムイもおいで。」
「ピュイピュイ」
「ガウガウ」
四人まとめて彫刻だ。どんな出来上がりになるんだろう。
「ポーズを決めな。俺様の美技を見せてやるからよ!」
よーし、それなら……
お座りをしたカムイを中心にして私とアレクが両側から抱きつく。コーちゃんはカムイの首に巻き付いてカムイの頭の上から顔を出す。一体感、楽しげな雰囲気ともにバッチリだ。
「よし! これで頼む! 魔力は込めるか?」
「いや、いらねー。今日の魔力はみんなから貰うことになってるからよぉ。」
なんと!
「じゃあ僕からね。」
セルジュ君!?
セルジュ君は岩に触れ、魔力を流している。
「これはキツいね……よくカース君はミスリルに魔力を流し続けることができたよね……」
「セルジュ君……」
そして二分……
「ダミアン様、そろそろ魔力が切れます!」
「よし、次だ!」
「次は僕だね。」
「スティード君!?」
スティード君は三十秒ぐらいで交代となった。
それからバラデュール君、アル君、魔法学校生と続いた。今までの中ではセルジュ君が一番長かったようだ。セルジュ君以外の貴族学校生は一人五秒と持たなかった。
「もう少しなんだがな。まあいいや、俺が込めるか。」
「待ちなよ。アタシがまだだよぉ。」
おお、ラグナ。
「さあボス。受け取ってくんなぁ。」
私が受け取るわけじゃないけどね。
やはり鬼気迫る勢いで彫刻をするダミアン。仕上げに入っているようだ。ラグナとダミアンの共同作業か。
「よし! 完成だ!」
そこにはぬらりと輝く私達の石像があった。この岩は大理石に似ているな。黒緑って感じの色だ。削る前には分からなかったな。
「こいつぁ深緑理石ってんだ。特に深い意味ぁねーがな。どうよ? きれーだろ?」
「ああ、驚いた。ありがとな。」
「ダミアン様、ありがとうございます。」
「ピュイピュイ」
「ガウガウ」
等身大で作ってしまうとカムイが大きすぎる。だからある程度バランスが整うようにサイズ調整がなされている。なんて奴だ……
「ダミアン……相変わらず凄い腕だな……嬉しいからこれを飲ませてやる。」
「ん? えれー古い樽だな?」
「まあ一杯飲んでみろ。ラグナも。」
「ああ、いただくよぉ。」
ふふふ、飲んで驚け。
「お、おい! カース、こいつぁ!」
「ボスぅ! 旨いよぉ!」
「ディノ・スペチアーレの二十年物だ。男爵から直々に貰ったんだぜ。」
「ピュイピュイ」
正確には貰ったのはコーちゃんだね。はい、コーちゃんも飲みな。私も飲むぞ!
う、旨い……
これのどこが荒削りなんだよ……
まろやかな風味、芳醇な香り。いや、男爵の酒はどれもそうなんだけど……これは桁が違う……センクウ親方が腕でも名声でも抜かれたと言うのがよく分かる。親方の酒は上品で繊細だと思ったが、ディノ・スペチアーレ二十年物は上品さでも上回っている。私の舌では表現できないが、美味すぎる……
「甘く複雑な香り、使ってる樽はそこら辺のナラー材なのにこの味の深さはどうよ?」
「ああ、旨いねぇ。アタシの好きなシャンパイン・スペチアーレもこいつの前じゃ安物のエールみたいなもんだねぇ……」
ダミアンとラグナが何か言ってる。樽だと? ダミアンはそこまで分かるってのか?
「お酒のことは分からないけど、この香りはバニールかしら? 微かに甘く香ってくるわ。」
アレクまで。やはり舌が肥えてる人間は違うな。
「ピュイピュイ」
大地の息吹を感じる? コーちゃんすごいぞ……
飲んでいいのは一人一杯だけだ。父上やフェルナンド先生にも飲んで欲しいからな。
こうして楽しいパーティーは続いていった。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!