のんびり歩いてアレク邸へ到着。すでに正門が開けられていた。これは私用なのか? 恐縮してしまうな。
「ようこそいらっしゃいました。奥様がお待ちです」
「ど、どうも。お久しぶりです。」
名前は忘れたが見覚えのあるメイドさんだ。この人って気配を感じないんだよな……
案内されたのは食堂か。アレクもアレクママも居る。
「お邪魔します。どうもお義母さん、お久しぶりです。」
「よく来てくれたわ。聞いたわよ。大変だったようね。」
「あはは、色々ありました。あ、これお土産です。皆さんで食べてください。」
ヒュドラをひと塊りと海産物をあれこれ。在庫はまだまだたくさんあるからな。
「ヒュドラなんて初めてよ。ありがたくいただくわ。あなたは相変わらずね。」
「いやー、恐縮です。お義母さんも相変わらずお美しいですよ。」
うちの母上とは別タイプの美しさだよな。いかにも貴族的って言うかさ。
「カース、食べましょうよ。私も作ったんだから。」
「美味しそうだね。いつもありがとう。」
美味しかった。コーちゃんもカムイも満足そうだ。
「じゃあ母上。次に会えるのは卒業式かしら。アルベリックにもよろしく伝えておくわね。」
「ええ、元気そうで安心したわ。こっちも今日の話をアドリアンにも伝えておくわ。卒業式には行くつもりよ。」
「ありがとう。楽しみにしてるわ。首席の座を奪われないよう頑張るわね。」
そういえばアレクママもパパも入学式には顔を出してないんだよな。私はこっそり紛れ込んだが。それがもう半年もすれば卒業か。早いものだな。
「それなら卒業式の前日か前々日にお迎えにあがりましょうか? 僕もアレクの卒業式には出席したいと思ってますので。」
「あら、それは助かるわ。じゃあ前々日にお願いできるかしら。久しぶりに主人と領都を散策するのも悪くないわ。」
そうなると、スティード君やセルジュ君の両親にも声をかけておくべきかな。まあそれはまたでいいや。
卒業か……
アレクなら王都の魔法学院にだって入学できる。スティード君は王都の近衛学院に進学するし、セルジュ君だって同じく王都の貴族学院に進学予定だ。このまま卒業と同時に旅に出ていいものだろうか……
旅なんていつでもできる。でも魔法学院は……まあいい。また考えよう。いかんな、何でも後回しにするのが私の悪い癖か。
思えば前世の夏休みもそうだった。問題集などの宿題は早々と終わらせたのに、作文や絵画、工作などはギリギリまで手を付けなかったな……
「カース? どうしたの? 行きましょうよ。」
「え、ああ、ごめん。ボーッとしてたよ。じゃあお義母さん、また寄りますね。」
「ええ、待ってるわ。いつもお土産ありがとう。」
こうしてアレクサンドル邸を出た私達は南の城門からクタナツを出発した。ここから領都を飛び越してサヌミチアニまで行ってもいいのだが、また今度にしよう。アレクがいない時に。アレクと過ごす貴重な時間をそんなことに使いたくないからな。
あっと言う間に領都に到着。確実に一時間を切ってる。三十分もかかってないのではないか? ストップウォッチが欲しいな。
うーん、まっすぐ帰る気分でもないな。
「カファクライゼラに寄ってかない? コーヒーでも飲もうよ。」
「そうね。久しぶりだものね。」
「ピュイピュイ」
コーちゃんはコーヒーも好きだもんね。カムイは初めてだっけ? 飲んでみるか?
「ガウガウ」
ふふっ、そうか。じゃあ行くとしようか。
旨い……王都で飲んだコーヒーもいいが、ここのコーヒーはなぜかビートを感じる……駆け抜けるような疾走感、迸る鼓動を感じるのだ。不思議なコーヒーだな。
「いやー、美味しかったね。やっぱりコーヒーはここだよね。」
「ご馳走様。いつもありがとう。美味しかったわ。」
「ガウガウ」
嫌いじゃないって? 贅沢者め。
本日の勘定は金貨八枚。相変わらずコーヒーはバカみたいに高いな。さて、十日ぶりの我が家に帰ろう。実家には顔を出してないくせに、私ときたら。まあ父上とベレンガリアさんしか居ないし、別に寄らなくてもいいよね。いや、父上のことだから、第三の女を連れ込んでるとか? 父上のモテっぷりは王宮ではっきり見てしまったからな。おかしいな……私はなぜ父上のようなイケメンではないんだ?
ウリエン兄上は超イケメン。オディ兄は上の中、私は凡庸。うーん、遺伝子の怠慢か? 父上と母上、どちらに似てもイケメンか美形になるはずなのに。どうでもいいか。
「ごめんカース、私ちょっと寮に寄ってくるわ。後で行くわね。」
「分かったよ。後でね。」
寮に行くならコーちゃんかな。アレクを頼んだよ。「ピュイピュイ」
アレクだって上級貴族なんだから、いつ何時誰が狙ってくるか分からないもんな。警戒するに越したことはないさ。
そういえば、あの新人メイド。どうなったんだろう? 私の奴隷ってことになってるけど、キッチリ働いてるんだろうか?
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