ここからは時間との勝負だ。なるべく早くジュラから泥を吐かせて本拠地に殴り込む。私の拷問では幹部クラスには効かないことが分かっているので、おじいちゃんが頼りだ。
「ただいまー。おじいちゃん助けて欲しいんです。」
「おお、おかえりカースや。どうしたんじゃ? 何でも言ってみるとええ。」
「わーいおじいちゃん大好き! あのね! こいつって闇ギルド、魔蠍の幹部なんです。だから情報を取りたいんです。おじいちゃんなら自白させるなり何とでもできるよね!」
「そうかそうか。もう捕まえてきたのか。えらいのぅ。任せておけ。張り切るからのぅ。」
「特に本拠地の情報が欲しいです。今から行きたいんです。」
「うんうん。待っておくとええ。ラグナは付いて参れ。」
「は、はい!」
「すまんがカース達には見せられん。秘伝じゃからの。」
「はい! ありがとうございます! 待ってます!」
秘伝なのにラグナはいいのか? まあおじいちゃんには深い考えがあるんだろうな。頼りになる身内って素晴らしい。
さすがに風呂に入るほどの時間はないだろうから、ゆっくりお茶でも飲んでようかな。
「ね、ねえカース……まだ殴り込みに行くの?」
「もちろん行くよ。だって闇ギルドだよ? きっちり全滅させておかないと後が面倒なことになるよ?お姉ちゃんは無理に来なくても大丈夫だよ。明日も学校だし、もう寝た方がいいよ。」
「そうね……先に休むわね。おやすみ……」
そう言えばゴーレム使いの奴、来てなかったな。まあ別にいなくてもいいけど。
「お姉様ね、待ってる間の緊張感に耐えきれなかったみたいなの。何度も突入しようとしてたわ。向いてないわね。」
「そっか。それでいいよね。無理に付いて来なくてもね。」
なるほど、読めた。アレクの意図が。
シャルロットお姉ちゃんに、私に付いて行くことがどのようなことなのかを自ら悟らせたんだ。今夜だけでなく今後の人生においても。あなたはカースに付いて行く覚悟があるのか? と、問うたのだ。その答えが、向いてないってわけか。アレクは本当に頼りになるなぁ。大好き。頭を撫でてあげよう。よしよし。
「も、もう何よ……バカ……//」
「待たせたのぅ。吐きおったぞ。吊り天井の一件、まだ確証は持てぬがこやつらがかなり怪しい。詳しくはまたじゃ。ボスに繋がる可能性がある幹部の居場所はラグナに教えてある。ワシはこやつを騎士長に引き渡してくるでの。」
「さすがおじいちゃん! すごいすごーい!」
ん? ラグナが青い顔をして震えている。怖いものを見たのかな? さすがおじいちゃん。怖いもの知らずの闇ギルドの元ボスをこんなに震え上がらせるなんて。やはり尊敬してしまうな。
「ぬふふふふ、そうかそうか。困ったらワシに何でも言うんじゃぞう。」
おじいちゃんもご機嫌になって私も助かった。ウィンウィーンだな。
「じゃあ行ってきまーす!」
「行って参ります。」
「ピュイピュイ」
今度こそ本当の討ち入りだ。
おのおのがた、いざ魔蠍へ!
王都は広い。だからスラムなんていくらでもある。取り締まりとかしないのか?
今から向かうのはそんなスラムの一つ。第一城壁の外、つまり一般的には王都と呼ばれないエリアだ。
「こんなに迅速にあちこち動かれちゃあ逃げることもできないねぇ。」
ふふふ、狙った獲物は逃がさない。それがこの俺カース三世? いや、普通にアントン三世かな。
さて、隠形をかけてゆっくりと高度を下げる。
「あれだねぇ。あたしが先に行くからボスは後から来てくんな。」
「分かった。任せる。」
ラグナは古びたドアを妙なリズムでノックした。『コンココ コンココ コンコンコン』
すると中から声がする。
「お前の父の名は?」
「アンタレスとミラノ。」
ドアが開く。その瞬間ドアを蹴り飛ばし押し入るラグナ。こいつって本当に傍若無人な振る舞いが似合うよな。
「邪魔するよ。グラフィアスを出しな。四つ斬りラグナが落とし前つけにきたってねぇ。」
「やれ!」
おっ、さすがにボスに繋がる幹部を固める連中だ。急な襲撃にも冷静に対応できるのか。しかしラグナも元ボスだけあって雑魚では相手にならないようだ。もしかしてこいつって意外な拾い物?
しかしこいつ……普通に斬ればいいのにわざわざ人間を四つに分割してやがる。趣味が悪いなぁもう。あぁしまった。殺すなって言ってなかったわ。制圧しろって言ってたんだ。失敗失敗。真人間になったはずだが……私の命令の方が優先された結果かな。
あーあ、中に入りたくないなぁ。血と臓物で臭い。『洗濯』『乾燥』
しつこい血脂汚れも一度洗いで差がつく私の洗濯魔法でキレイキレイだ。
「ごめんごめん。殺すなって言うのを忘れてたよ。次からやめてね。」
「早く言ってくださいねぇ。」
「何の用だ?」
おっ、こいつがグラフィアスか?
「落とし前つけに来たのさぁ。ジュラの奴が私に舐めた真似しやがったからさぁ。」
あぁ奴隷発言ね。建前なのか本音なのか。極悪ラグナも意外とかわいいところもあるのかな。
「ジュラが何をした?」
「あたしを奴隷にするとか抜かしやがったのさぁ。このあたしをねぇ。許せないねぇ。魔蠍ごと潰してやるさぁ。」
「ふっ、一人でか? いやそこの子供は魔王か? つまりお前は魔王の軍門に下ったと。ふっ、惨めなものだな。敗残者とは。」
せっかくだからもう少し話を聞いてみよう。どんな話になるんだろう?
「大そうな名前のくせにコソコソ生きてるアンタらの方が敗残者だねぇ。聞いてるよ? 王城で大失敗やらかしたらしいねぇ。長年準備したのに水の泡かねぇ? 狙った獲物は何年かけても必ず殺す蠍の一刺しも錆びたもんだねぇ。」
「ふふ、言ってくれるな。いいのか? 唯一の生き残りは預かってるぞ? 大事な幹部らしいな。可哀想に今頃うちの男達の慰み者だ。」
「知らないねぇ。そんな間抜けは知り合いにいないねぇ。そのぐらいで人質にでも取ったつもりかい?」
あー、昨夜来なかったのは捕まってたからか? あーあ、もう死んでるな。ラグナも気にしてないようでよかった。それよりあいつ、自白したよな? 関与してるよな?
一応もう少しラグナに任せてみよう。
「いいことを教えてやろう。昔から魔王を倒すのは勇者と相場が決まっている。先生!」
突如ラグナは跳ね飛ばされた。何かがぶつかったのだ。相手が私でないとコーちゃんも教えてくれないのね。
「よぉ魔王。お前やっぱり魔王だったな。あの時はよくもやってくれたよなぁ。」
「テメー、偽勇者か。会いたかったぜ。」
ここであったが百年目。まさかこんな所で遭遇するとは。『徹甲弾』
鈍く濁った音がする。奴は相変わらず趣味の悪い紫の鎧を纏っている。どこから入手したんだ?
「相変わらず痛ぇな。どんな魔法使ってんだよ。だがもう油断しねぇからよぉ。」
くそ、大腿部が少ししか凹んでない。足をぶっちぎるつもりだったのに。『火球』
容易く岩をも溶かすのだが……
「あちぃっ!」『水球』
さすがに水球一発で消火されはしなかったが、あまり効いていない。相変わらず魔法が効かない奴だ。
「アレク、ラグナを連れて逃げて! コーちゃんはアレクをお願い!」
『……………………』
「分かったわ!」
「ピュイピュイ」
「おらぁ!」
ちっ、でかい剣を使いやがって。そんな大振りが当たるかよ。
『落雷』
「効かねぇなぁ。いつまでも調子に乗ってんじゃねぇぞ?」
『金操』
私の伝家の宝刀だ。母上に習ったんだから伝家だよな?
「ぎゃごぉわっ!」
鎧の関節部分を逆に曲げてやった。以前の紫の鎧には金操が効きにくかったが、今回は普通に効いた。私の成長かな。
肩、肘、両足の付け根、膝。全てブチ折った。そして『麻痺』
「勇者は魔王に負けちゃあいけねーんだよ! 俺の負けはローランド王国の負けだからよぉ!」
こいつバカ過ぎる……しかも麻痺が効いてない。
『永眠』
「殺すなら殺せ! 七回生まれ変わってもお前をぜってぇ殺すからよぉ!」
全然効かない。なんでこんなに元気なんだ? 身動きとれないくせに。
『断頭台』
ミスリルギロチンを人間に初使用。首を飛ばした。本当は生け捕りにして情報を吐かせたかったのに。おじいちゃんなら死体からでもいけるかな? 収納……できた。間違いなく死んでいる。
うわっ! マジかよ! ミスリルギロチンの刃が欠けている……今まであれだけマギトレントを切り倒しても少しも欠けなかったのに……
一体こいつの紫の鎧は何なんだ!? 武闘会で対戦した小さい紫の奴にしても、どこで入手してんだ?
「お待たせ。そっちは上手くいったみたいだね。さすがアレク。」
「偽物でも勇者なのかしら? 妙な手強さがあったようね。じゃあ帰りましょうか?」
アレクの足元にはグラフィアスが転がっていた。先ほど口では逃げてと言ったが『伝言』でこいつを捕まえておくよう頼んだのだ。ラグナはまだ気を失っている。かなり強く吹っ飛ばされたもんな。
さて、またまたおじいちゃんにおねだりだ。夜中まで働かせてごめんよ。明日肩を揉んであげよう。私とアレクのツープラトン孝行だ。
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