あれ?
美味しいぞ?
初めて食べるような贅沢なものばかりだし、フォークが進む。
「カースちゃんは美味しそうに食べるわね。あの後にこんなに食べられるなんてやっぱりカースちゃんは天才なのね。お母さん感激よ。」
そういえばそうだ。さっきまで食欲なんかなかったのに。しかし手が止まらない。
「さあ、カースちゃん。デザートよ。これを食べて午後からも頑張りましょうね。」
これはゼリーか? プルプルと震えて美味しそうだ。
ぬおっ、弾力がすごいな、フォークを弾くなんて。仕方ない、皿から直接食べるしかない。
まずくはないな、と言うより味がしない。
そしてやはり弾力がすごい、全力で噛まないと噛み切れそうにない。噛み切れないゼリーが口いっぱいに広がって、そろそろ顎が疲れてきた。
「カースちゃん、そのスライムゼリーはね、噛まずに飲み込むものなのよ? 噛み切れないものね。」
ん?
スライムゼリー?
スライムから作られたゼリーってことなのか? 仕方ない、母がそう言うなら飲み込むしかない。
「っヒック!」
また変な声が出てしまった。
さあ、全部食べたぞ。こうなったらヤケだ。昼からもやってやる!
「よく全部食べたわね。さすがカースちゃん。どこまでお母さんを喜ばせてくれるの。さあ頑張りましょうね!」
「はい、ごちそうざまでじだ。午後からもがんばるね」
第二ラウンド開始か。やってやるぜ。
さあ午後の部開始だ。やってやるぞ!
まあ立ってるだけだけど。
「さあカースちゃん、同じように立っておいてね。今度はマリーも助けてくれないから頑張るのよ。」
「押忍!」
「まあ何ていいお返事なんでしょう! えらいわね。」
要は倒れなければいいんだ。午前中で気持ち悪さは分かった。慣れてはないけど。
なら意識を保ってただ立ってればいい。くそー。
首の後ろから熱い魔力が入って行く。
やはり気持ち悪い。しかもお腹いっぱいだから吐き気がすごい。というか、えずきが止まらない。
しかし出るのは声のみ、中身は出てこない。
これはよかったのか? まるで胃に蓋でもされたかのように何も吐けない。
もしかしてスライムゼリーの効果?
そのせいなのか気持ち悪さがとんでもない。
吐きたくても吐けないことがこんなに辛いとは。
母は午前最後の時のように魔力を高速で回している。とっくに頭の中にまでクソ蛇が這い回っている。
頭の血管はとても細いはずなのに、体感では親指より太い蛇が蠢いているように感じる。
首から下の蛇はその三倍はありそうだ。魔力というだけあって目に見えないのか、だから私の小さな体でも通り抜け放題なのだろう。
午前はすぐに気を失っていたせいか回数は多くともまだ楽だったようだ。しかし今は気持ち悪すぎて気を失うことすらできない。
絶対二歳がやることじゃない。いや、大人だってやらないはずだ。
しかし自分から頑張ると言ってしまったばっかりに……やめるわけにもいかない。私は魔力高めのはずなのに……
どうにか一時間は倒れずに意識を保つことができた。しかしそこから先は覚えていない。
気がついた時、またもや風呂でマリーに支えられていた。しかし声が出ない。
お腹がやけに痛い、これは筋肉痛か?
吐こうとして吐けなかったために腹筋を使いまくったからなのか。
そのままお湯に漂うこと三十分。ようやく再び動くことができるようになった。
すると例によってマリーは湯船から上がり、魔力ポーションを持ってきた。今度は見えた。マリーの肉感的なお尻、白い肌。すべすべしてそうだ。
「一気にお飲みください。」
そう言って渡してくる。
「あ、ありがと……」
飲まないわけにもいかない。
くそぉまずい! でも一気に飲まないと。
「はい、お見事です。さすが坊ちゃん。本日は見事な頑張りを見せていただきました。あれができる二歳児はローランド王国広しと言えど五人といないはずです。」
他にやる奴がいるのかよ! 私は中身がおっさんだから耐えられるが、他の子は大丈夫なのか? 死なないのか?
「あ、ありがと……」
晩御飯はどうなるのか。
やはり食欲はない……
夕食にて、今日は全員が勢揃いしている。
いないのはマリーだけだ。オディロン兄は寂しそうにしている。
「あなた、やっぱりカースちゃんはすごかったのよ。天才だわ。『経絡魔体循環』を午前中いっぱい耐えたのよ。しかも午後からはマリーの補助なしで耐えたの。こんなの陛下だって二歳の時には出来なかったはずだわ。」
「おおー! すごいなカース! イザベルのあれを耐えたのか。このまま頑張れば近衛にだってなれるんじゃないか?」
「きつかったー。でもあしたもがんばるー」
「さすがカースちゃん。お母さんもがんばるわ。」
思うにあれ、経絡魔体循環とは、他人の魔力回路に無理矢理魔力を流し道筋を作るものなのだろう。
魔法を使うためには体内で魔力を練り上げる必要があるとすれば、練り上げた魔力を効率よく運用するためのインフラを整備したようなものだろうか。
ん?
ということは、魔力の最大値は上がってないのか?
私が自分で自分の魔力を使ったわけではないのだから。
まあいっか。
母上の指導方針通りにやった方が確実そうだ。
ところで陛下とか言ってたな。
王族はスパルタってことだが同じことをやるものなのか。
この国は王位が強さで決まるのか?
それともただの基準の一つなのか……
「そうそう、ギルドに行ってきたぞ。ウリエンの家庭教師だがな。聞いて驚け。なんと私の兄弟子で現在四等星の剣鬼ことフェルナンド・モンタギュー殿だ。」
「まあ! フェルナンド様!? よくお引き受けいただけましたわね? そもそもクタナツのギルドには偶然いらしたの?」
「そうなんだ。偶然依頼を終えたところらしい。しかも一年から二年ぐらいのんびりしてから魔境に挑戦しようと考えているらしい。
よってこの半年は週二回ぐらいは我が家に来てもらえることになった。よかったな、ウリエン。」
「はい、父上ありがとう。一生懸命がんばるよ。カースも今日から頑張ってることだし、僕らも負けていられないよ。なあオディロン?」
「う、うん。母上のあれはきついよね。カースは明日からも続けるんだよね。
すごいよ。僕そっちもまたやりたいな。そしたら僕もマリーとお風呂に……」
「まあオディロンちゃん! えらいわ! さすがお兄ちゃんね! もうすぐ学校だものね。今のうちに頑張っておけば後々有利だもの。
じゃあ午前中はカースちゃんと一緒に経絡魔体循環をして、午後からはウリエンと一緒に剣術をするのね。」
「オディロンにできるのー? どうせすぐ『マリー助けてー』とか言って逃げるんじゃないのー?」
「う、姉上、そんなことないよ。カースにできたんだ、僕にもできるよ。
かなり母上に手加減してもらうけど……」
「どうせそんなことだろうと思ったわ。私だってもう二度とやりたくないんだから。
オディロンには無理よー。」
「まあまあエリもそれぐらいにしておけ。やってみれば分かることだ。オディロンだってもう小さくないんだ。弟達に抜かれても知らないぞ?」
「えー、父上甘ーい。私が抜かれるわけないわよー。
私なんてあれに二週間耐えたんだから。クラス内での魔力発動速度は私が断然トップなんだから。
兄上なんか三週間よ? でも抜かれたら悔しいし、学校から帰ったら少しだけやってみようかしら。」
「はいはい、みんなやる気なのね。お母さん嬉しいわ。
オディロンちゃん、心配しなくてもカースちゃんに魔力を多めに使うんだから、あんまり苦しくないと思うわよ? もちろんエリもね。」
「「はーい。」」
嘘だろ……
姉上、あれを二週間だって?
二週間やっただけでダントツ?
兄上なんか三週間とか……
でも発動速度?
やはり総量が増えるわけではないのか?
でもやっぱりこういうことは早い時期に始めた方が有利なんだろうな。
だとしたらやはりやるしかない……
「フェルナンド先生は明後日から来てくれるからな。それまでひたすら走り込んでおくよう宿題が出てるぞ。
そこでウリエン、明日から学校は走って行け。マリーに指示しておくから馬車のペースに合わせて隣を走るんだ。分かったな?」
「押忍!」
おお、一家全員がマジモードになってる。
私も負けられない。
明日からも頑張るしかない……
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