異世界金融

〜 働きたくないカス教師が異世界で金貸しを始めたら無双しそうな件
暮伊豆
暮伊豆

141、準決勝 第二試合

公開日時: 2021年11月9日(火) 10:14
文字数:2,301

『さーあ! 色々ありましたが、決勝トーナメント三回戦、第二試合を始めます! 一人目はカース・ド・マーティン選手! 先ほどはかなり荒々しい戦いを見せてくれました! 新たに入った情報によりますと、なんとカース選手は闇ギルドから賞金をかけられているそうです! その額なんと白金貨三枚!優勝賞金よりかなり多い! しかし闇ギルドの賞金ってどうやって受け取ったらいいんですかね? 殺し損になること請け合いです! こんな私の実況にも顔色一つ変えず、オシャレな佇まいで入場です! 小憎こにくらしい!』


プライベートがどんどん晒されていく……まあいいか。


『二人目はヤニック・セルバ選手! 先程はかなりの接戦を制し、見事に勝利をもぎ取りました! そんなヤニック選手は苦労人! その歳で冒険者として活動するかたわら、幼い弟妹の世話をして、時には無尽流ダイナスト道場にも通う! 父親のいない一家を支える大黒柱! 優勝して賞金で家族にお腹いっぱいご馳走を食べさせたいとか! なけなしのポーションを使って怪我は回復済み! 少し照れながらも入場だぁー!』


しまった……さっき二人が不思議そうな顔をしたのはそれか……

何でもアリなんだからポーションだってアリだ。魔力が禁止なんだからポケットにでも入れておけば試合中に飲むのもきっとアリだ……ついつい領都の子供武闘会のルールにつられてしまったか……

不思議そうな顔をするぐらいなら教えてくれよぉーー!


『双方構え!』





『始め!』


猛然と距離を詰めてくるヤニック選手。さっき見てたけど堅実なんだよな……まるでスティード君のように。正面から全力で行くしかない! 装備の力でゴリ押しだ!




序盤の打ち合いで彼のロングソードは早々に折れたが、少しも怯むことなく戦いは続いた。


装備では私の圧勝だが、実力も体力も体格も相手の方が上だ。いくら既に素手になっているからとて安心できない。冒険者なら素手でゴブリンやゴボルトぐらい殺しているはずだからな。


今のところ虎徹を持っている私が有利だが、近寄らせてはならない。打撃や斬撃、そして対魔法においては無類の強さを発揮するサウザンドミヅチの装備も、関節技には対応できないからな。そんな技を使うのはクタナツギルドの組合長だけって話だが、油断はできないのだ。


『膠着しています! ヤニック選手、ロングソードや短剣を立て続けに折られてしまい動きに精彩がありません! 対するカース選手も木刀を構える手に力がありません! お見合いしてないで戦ってください!』


『もしかして、カース選手はあれだけの戦いをした後なのに回復をしていないのではないか?』


『なんと? 余裕かましてポーションを飲んでないのでしょうか!? それはいけません! ヤニック選手を舐めすぎではないでしょうか!』


うるさいな。舐めてるわけないだろ。こんなに強いのに。なにかアイデアはないか……

切り札はいくつか用意してあるが、こんな状態で使っても意味がない。


ヤニック選手が間合いを詰めてきた。虎徹を振り牽制する私。

それでも近づいて来るので、私は正眼で待ち構えた。


突如、這いつくばったカエルのような姿勢で私の足首に飛びついて来た! 頭に向かって虎徹を振り下ろしたが、躱されてしまい右肩に直撃した。当然骨が折れたはずだが、意に介さず空いてる左手で私の右足首を後ろから手前に払われた。右足に体重が乗っていたため敢えなく尻餅をつく私。そこに体ごとのし掛かってくるヤニック選手。


『おおーっと混戦だぁー! うほっー! 男同士の肉体と肉体が絡み合っているぅーー! 地を這うような姿勢でカース選手に詰め寄ったヤニック選手! ダメージを受けることも覚悟でカース選手を転ばせました! 骨を折らせて足を盗る! さあどうなるでしょう!?』


『このままではカース選手の防御を崩せないと考えたヤニック選手が賭けに出たな。しかも殴る蹴るではカース選手の装備の前には無効。いい決断をしたものだ。』


まさか私の装備の弱点に気付いたのか? そりゃ気付くか。しかし片腕が使えない状態で寝技はできまい。


『ふおおぉぉーっ! 武舞台上を転がるように上の取り合いをしているぅぅー! どちらも自分が攻めるとでも言わんばかりだぁぁー!』


『業の深い実況だ。上を取り合うのはごく自然なこと。下からでは攻められなくても、上からならば攻められる。それが戦いというものだ。』


やばい……マウントポジションを取られた……まだ使える左手でガンガン殴ってきやがる。まだガードが追いついているが、いずれ……

しかし、この距離なら効くだろう。切り札を見せてやる!

くっ、ポケットに手をつっこむだけでも一苦労だな……


よし、準備完了! 下から殴ると見せかけて……くらえ!


『おおーっとカース選手! 下になった状態から何かを投げつけたぁー!』


『何だろうな。見たところ砂のようだが、それにしては軽すぎるようだな。』


正解は胡椒。今まいた分だけで金貨十枚分以上あるだろうな。砂でもよかったが、万全を期すために胡椒にしておいた。さすがに効いてるな。よし、マウント脱出!

目と鼻を押さえているヤニック選手の頭を蹴り飛ばす! それからストンピング! 彼のようなタイプはトドメを刺すまで油断できない! 目と鼻を潰した今しかチャンスはないんだ!


『決着! 決着です! 攻撃をやめてください!』


終わったか。何とか勝てた……

疲れた……ポーション飲も……

半分は彼にかけておこう。


『勝者カース・ド・マーティン選手! なんと対戦したばかりの相手ヤニック選手にポーションを振りかけているぅぅー!』


『ほう、あれは高級ポーションではないか。あれを振る舞うとは、意外といいところもあるじゃないか。』


よし、ついに決勝だ! 回復もしたし、全力でいくぜ!

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