アレクとさんざん楽しんだことだし帰ろう。そろそろ夕方だもんな。もう王都での用も済んだことだし、明日には領都に帰ってもいいよな。
ゼマティス家に帰る道中でアレクとも相談し、明日の昼にぐらいに王都を発つことになった。なるべく早く楽園でのんびりしたいんだよな。のんびりかつ、しっぽりと。
到着。
伯母さんにも伝えておかないとな。
「伯母様、今回もお世話になりました。明日の昼に王都を出ようと思います。」
「ずいぶん急ね。じゃあまたイザベルさんに手紙を書こうかしら。」
「ありがとうございます。それからこれ、記念に一本どうぞ。」
ゼマティス家には世話になってるからね。ドラゴンゾンビの牙をプレゼントだ。
「また……カース君は、ずいぶんあっさりと……ありがたくいただくわね。主人が泣いて喜ぶわ。」
「ちなみに伯父さんだったらドラゴンゾンビの牙をどう使いそうですか?」
「そうね。杖にするかしら。いい感じのトレント材と組み合わせれば面白い杖が作れるわね。」
あ、それならこれもあげてしまおう。
「でしたらこれもどうぞ。エビルヒュージトレントです。」
フェルナンド先生から貰った奴の片割れだ。もう半分は私の鍛錬用に必要だからな。
「本当にもう、カース君たら……ありがたくいただくわ……ゼマティス家のポーション全部渡しても足りないわ。」
「いいんですよ。たまたま拾ったものと貰い物ですから。」
「カース君がうちの子だったら、私はどれだけ心配したんでしょうね。それとも何の心配もせずに放置していたのかしら。」
どっちかと言うとうちの母上は放置に近いのかな? 聞けば教えてくれるけど基礎だけだしな。魔力感誘の見本を見せてくれたのも最近だし。
おっ、シャルロットお姉ちゃんのお帰りだ。
「ただいま。カース、ちょっと庭に来なさいよ。稽古つけてくれない?」
「おかえり。いいよ。行こうか。」
お姉ちゃんにしては珍しいな。やる気になってるのか?
アレクとコーちゃんは伯母さんと話が弾んでいるようなのでそっとしておこう。
「適当に氷弾を撃ってくれる?」
「分かった。いくよ。」
『氷弾』『氷弾』『氷弾』
スピードは遅め、狙いは適当。それをお姉ちゃんは避けたり逸らしたり。どうやら魔力感誘の練習をしているようだが、中々上手くいかないようだ。ちなみに私もだ。ついつい自動防御で防いでしまうんだよな。
『氷弾』『氷弾』『氷弾』
数を増やしてみた。スピードも少し上げた。ついでに石も投げてみよう。
おっ、意外と避けるじゃないか。ならば更にスピードアップ!
『氷弾』『氷弾』『氷弾』
あっ、避けるのをやめてる! それは危ない! そこまでして魔力感誘を極めんとしているのか。きっと、アンリエットお姉さんと比べられたりしてるんだろうな。同じ魔法学院に入ったんだもんな。仕方ないよな。
『氷弾』『氷弾』『氷弾』
あれ? もしかしてできてる?
まだまだ実用には耐えられないレベルだけど、直撃は避けている。マジで!?
『氷弾』
魔力多め、スピード速めで撃ってみた。
肩を抉りながらも直撃はしなかった。やるなぁ。
「ここまでかな? いい感じじゃない?」
「何よ最後のやつ。ヒヤッとしたわよ。」
「ただの氷弾だよ。それにしてもすごかったね。頑張ってるんだね。僕も負けられないよ。」
「アンタは負けないでしょうが! ところで、やってみる? 私が撃とうか?」
「うんお願い。氷球をゆっくりお願い。」
そう言って私は目隠しをして上半身裸になった。魔法が使えなかった日々はこうやって稽古していたものだ。
「……行くわよ……」
まずは虎徹を構えずに避けるだけだ。大きめの物体でゆっくりなら避けられるようになったのだ。
「やるわね。どんどん行くわよ。」
スピードが速くなった。こうなると途端に避けにくくなる。私の心眼はまだまだ初級レベルなのだから。ここからは魔力感誘にも挑戦してみる。
イメージは呼び水。
もう少しで溢れて流れそうな水に、ほんの少し水を向けてどこかに誘導するイメージだ。母上は数百発の榴弾に対してすらやってのけたんだよな。私はたった一発に対する魔力の制御でさえ頭がパンクしそうだというのに。
できない……
つい避けてしまう。仕方ない、素直に心眼の稽古と考えよう。
それからアレクが呼びに来るまで稽古は続いた。段々と球数は増えるしスピードは上がるしで、結構怪我をしてしまったぞ。まだまだだな。
和やかな夕食が終わる頃、ギュスターヴ君が口を開いた。珍しいな。
「母上……魔法学校やめたい……」
「いいわよ。やめて何するの?」
「分からない……でももう行きたくない……」
「そう。やめたいのなら仕方ないわね。夏休みが終わるまでに何をするのか決めておきなさい。」
「うん……」
伯母さんもえらくあっさり許すものだな。結構一大事だと思うが。
「ギュスターヴ! アンタ何考えてんのよ! ゼマティス家の者が魔法学校中退だなんて大恥じゃないの!」
お姉ちゃんの言うことは正論だな。
「…………」
下を向いて黙り込んでしまった。もちろん私は口を挟む気はない。もしかして学校でイジメとか受けてるのかも知れない。カツアゲされてるのかも知れない。助けを求めてくるならいくらでも助けるが、そうでないなら放置だな。
アレクはそもそも関心がなさそうだ。
「そう……反論もできないってわけね……庭に出なさい! その甘ったれた根性叩き直してあげるわよ!」
ギュスターヴ君はお姉ちゃんに引きずられて外に出て行った。お姉ちゃんだって今や長女だもんな。色々と考えることもあるだろう。
「伯母様、ギュスターヴ君は一体どうしたんでしょうね。学校ではどんな感じなんですか?」
「どうかしらね。学校の順位は中の上ってとこね。あの子だってゼマティス家の生まれなんだから魔力はそれなりに高いわ。なのに何が気に入らないのやら……」
これが前世なら詳しく話を聞いて一緒に解決策を探さないといけないのだが、そんな面倒なことはやりたくない。だから触れずに放置しておこう。お姉ちゃんが何とかするさ。
あっ、ギュスターヴ君は兄上の大ファンなんだよな。ならば兄上なら? きっと何とかしてくれるんじゃないか? 誰が兄上に頼むのか、それが問題だ。私は知らないぞ。
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