トールの日。今日の私は何の予定もない。そう、だから何もしない。朝食後、実家の自室で寝転び本を読んでいる。思うに私は働き過ぎだ。たまにはのんびりしたっていいだろう。卵の世話もあるしね。昼からはコーちゃんとタエ・アンティでコーヒーでも飲みながら読書の続きってのもいいな。そうしよう。
うーん。のんびりとした、いい時間だったな。
夕方、自宅に帰った私は久々に庭の木に魔力放出をやってみた。小さい頃からやっているからかも知れないが、他の木に比べてこの木だけ伸びてないんだよな。私のせいなのか?
それよりも昔は全力でも満タンにならなかったコーちゃんの塒、汚銀の湯船も今では軽く満タンだ。魔力庫への収納もできることはできるが怖いのでやっていない。今後もやらないだろう。コーちゃんが活用してくれたらそれでいいのだ。
夕食にはフェルナンド先生、アッカーマン先生夫妻も来てくれた。
「カースや、王国一武闘会には参加するのかえ?」
「あっ考えてませんでした。そうですよね、今年ですよね。参加しようかな……」
「おうやれやれカース! 応援するぞ!」
父上はもう酔っているのか。
「カー兄が出るなら見たいー!」
「ははは、ダメだぞキアラ。学校があるだろう?」
もしもキアラが出たいと言ったら大変だ。絶対連れて行かないぞ。
「賞金とか出るんだっけ?」
「出るわよ。確か金貨十枚だったかしら? あとは戦い方によっては陛下が願いを叶えてくれるかも知れないわ? 他には希望の進路に行ける権利もあったかしら。」
しょぼっ! マジで? 参加者なんているのか?
いや、もし圧倒的な強さで優勝したら願いを叶えてもらえるかな? 対空防御の実装を。
「出てみようかな。十月の終わりぐらいだよね。十五歳以下、魔法ありの部かな。」
「何事も経験だよ。私もカース君に言われなければブラックブラッドブルの舌なんか食べてみようなんて思わなかったからね。」
先生の一言にキアラ以外の全員に戦慄が走った、かのように動きを止めた。
「マジかよカース……」
「カースあなたフェルナンド様に何てことを……」
「よもや牛の舌とな……」
「そんなの平民でも食べないよぉ……」
「カース君……」
「まあ落ち着いてください。それが美味しかったんですよ。私は剣鬼だなんて呼ばれていい気になってますが、そんなことも知らなかったんですよ。」
「ふむ、お前がそこまで言うのか。ならば機会があれば食べてみるか……」
「大丈夫なの、先生よぉ……」
「これこれハルや、いい加減先生と呼ぶのはやめんか。」
アッカーマン先生夫妻がイチャイチャしてる……
「まったくカースったら。変な物を食べてお腹を壊さないようにね。」
「うん。オーガベアのレバーは美味しかったけど、他の部位は不味かったんだよね。たぶん料理次第なのかな。」
「熊系は難しいわよね。オーガベアもカースにかかっては形無しね。本当にいい子。」
不意に母上が私を撫でてくれる。母上?
「イザベルはカースの成長が嬉しくて仕方ないんだよな。私もだ。カース、自由に生きろ。そして大きくなれよ。」
父上もどうした? 今生の別れじゃあるまいし。ちょっと王都に行くだけだぞ?
「押忍。」
私に言えるのはそれだけだった。
カース、キアラ、ベレンガリアが寝た後。
アッカーマン夫妻は帰ってしまった。
「ねえあなた。本当にカースを王都に行かせていいのかしら?」
「大丈夫だろう。あいつは俺達の子なんだ。それに王都にはウリエンもエリだっている。どうにでもなるさ。」
「イザベル様、カース君なら大丈夫だ。とっくに魔力の底が見えないのでしょう? 王都のどんな貴族にも屈することなどないだろう。」
「あなた……フェルナンド様も。そうよね。でもあの子って魔力ばっかり強くなっても考え無しだから、つい心配になって……」
「はっはっは、そうだな。いいじゃないか、考え無しで。俺にそっくりじゃないか。」
「あの子はあの子であれこれ考えているようですよ。イザベル様も自由にさせている割には心配性だ。相変わらず可愛らしいですな。」
「……そうよね。カースは自由よね。きっと大丈夫……」
カースの前では余裕のイザベルも、本心では子供達が心配で仕方ない。それが母親というものなのだろう。
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