その後、物件前で別れてアレクとデートをしようと思っていたらソルダーヌちゃんから……
「今夜の宿はどうするの? うちに泊まっていきなさいよ。母上だってアレックスに会いたいと思うわ。」
うーんアレクサンドル家に初めて行った時以上に緊張しそうだ……行きたくないけど家を世話してもらうことだし一回ぐらい挨拶しておくべきか……
「僕は構わないよ。アレクに任せる。」
「そうね。それなら行こうかしら。おば様とも長いことお会いしてないし。」
「夕食まで時間があるし、どこかでお茶でもして行きましょ。今度はカース君の奢りね?」
やれやれ。とんだお嬢様だ。この子も悪女になるのか? だがサンドラちゃんには敵うまい。
「いいよ。どうせならコーヒーが飲める店がいいな。甘いやつ。」
「贅沢言うのね。まあ私のお金じゃないからいいけど。じゃあセバスティアーノ、頼むわね。」
「畏まりました。」
そして馬車に揺られること二十分余。到着した店には見覚えがあった。
「アレク、ここって……」
「この間来たわね。ベイルリパースよ。」
「この間っていつよ。そんなに度々来てるの?」
「いつだったっけ?」
「夏休みの前ぐらいだったわね。」
「半年も経ってないじゃない。行動力がすごいわね。護衛もなしに。」
「まあまあまずは入ろうよ。ここは美味しいよね。ティータイムに使うなんて贅沢でいいねぇ。」
私が注文したのはペイチの葉を使ったお茶だ。キラービーハニーを入れたり入れなかったりして何杯か飲んでみた。コーヒーを飲むはずだったのに。
コーちゃんにはミルクセーキを頼んであげた。美味しいと喜んでいる。
「ピュイピュイ」
アレクとソルダーヌちゃんは思い出話に花を咲かせており、私はそれをニコニコと聞いていた。セバスティアーノさんはいつのまにか気配が消えていた。
一時間半ぐらい経っただろうか。私達が店を出て馬車に乗り込もうとしたら、そこに声をかけてきた者がいる。
「あ、お前エリザベスの弟か!?」
「あ、あん時の! 全然見ないと思ったらクタナツに住んでるらしいな!」
「カース君知ってる人?」
「いや、知らない。いくらアレクが可愛いからってこんな年下に声を掛けてくるような男なんて。」
「お前バッチリ覚えてるじゃねーか!」
「しかもベイルリパースから出て来やがったな!?」
騎士学校の二人組か。なんでこんな高い店ばかりの通りを歩いてんだ? 実は金持ちなのか?
「お二人はこんな所で何をしてたんですか? 貴族の女の子漁りですか?」
「お前俺達のことをどう思ってんだよ!」
「たまにはこんな道も歩いてみようと思っただけだからな!?」
「そうでしたか。ではお気をつけてお帰りくださいね。僕達も帰ります。」
「お、おう。エリザベスによろしくな。」
「いや待て待て!? ここで会ったが百年目。次はベイルリパースに連れて行く約束だったよな? アレクサンドル家のお嬢様?」
この状況でもナンパ続行なのか。めげない根性はすごい。
「あの馬車をご覧下さい。そしてあの家紋。この子が誰だか分かりますか?」
馬車を指差すアレクはすでに上級貴族モードだ。
「おう、馬車?」
「だっ、あの家紋は!? 辺境伯家じゃねーか!? じゃあこちらにおわす女の子は!?」
「どーも騎士学校のお兄さん。ソルダーヌ・ド・フランティアですわ。私の友人をどうしようと言うのかしら? やっぱり騎士学校の方って勇気がおありなのねぇ。」
「げぇぇー!!」
「ぎゃああぁー!?」
二人は頭を下げながら謝りながら走って逃げるという芸当を見せてくれた。やはり領都で辺境伯家の力は絶大なんだな。でも王都でならアレクサンドル家の勝ちかな?
「いいものを見せてもらったよ。さすがの貫禄だね。あの二人はあれでも成績が上位一桁なんだって。意外だよね。」
「あの二人はそれなりに強いわよ? 休みの日に街をフラフラ歩いてるくせに成績を落としてないんだから。それどころかジワジワと上げて今じゃあ五番に食い込んでるわ。」
そんな最新情報まで知ってるのか。それも違う年代の。やはり四女でも上級貴族なんだな。アレクと違って上級貴族モードに入ることなく撃退してしまったし。どちらもすごいな。
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