ヴァルの日、前世で言えば月曜日。私は朝からクタナツに帰っている。結局昨日は夕食をみんなで食べたら再び稽古になってしまった。アイリーンちゃんがやたら張り切ってたんだよな。さすがに私とアレクは途中で帰ったが、スティード君と彼女は徹夜で稽古する勢いだった。やるもんだな。
ともあれ本日クタナツに帰ってきた理由は、ギルドだ。先日組合長から言われた九等星への昇格試験が今日なのだ。受付にて手続きは済ませた。後は開始を待つばかりだ。
「おらぁ! 十等星のひよっこどもぉ! 集まれや!」
おっ、ゴレライアスさんだ。久々に見た気がする。会釈ぐらいしておこう。
ゴレライアスさんの周りに集まったのは約三十人。下は十歳、上は二十五歳ぐらいだろうか。
「お前たまに見る顔だけどまだ十等星だったのかよ。俺なんか登録してから半年も経ってねーぜ?」
こいつ、クタナツに住んでて私のことを知らないのかよ。まあ、あんまりギルドに来てないもんな。服装で気付けよって言いたいところだが、似たような服装が多い……こいつら冒険者の仕事舐めてんのか? お遊戯会じゃないんだぞ? 私が言うなってか。
「それはすごいな。ぜひがんばれよ。」
こいつは言うだけあってまともな装備だ。軽そうな革鎧、籠手に脛当て、そして鉢金か。
「おらぁ! そこ! うるせーぞ! 黙って座れや!」
こいつのせいで叱られてしまった。試験会場のような部屋に移動し、それぞれ席に着く。まずは筆記試験なんだよな。冒険者には誰でもなれるが、読み書きができなければ上へは行けない。
「おーし、てめぇらよく聞け。俺は五等星ゴレライアス・ゴドフリードだ。今日の試験官としてここにいる。ルールは一つだ。俺が失格と言えばそこで終わりだ。諦めて次回また受けろ。分かったな? では筆記試験を始める。」
紙が配られ、教卓のような机に小石が積み上げられた。砂時計もあるな。何をするんだ?
「試験の時間はこの砂が全て下に落ちるまでだ。他の奴を覗いた奴にはこの石が飛ぶからな。見たかどうかは関係ねぇ。俺が怪しいと思うかどうかが全てだ。分かったな?」
「そんなのアリかよ! 横暴じゃねぁぐあっ!」
「てめぇは失格だ。そのまま寝てろ。おらぁ! 開始だ!」
可哀想に。強烈な石が頭部に当たり気絶している。私と似たような服装だから頭の防御がスカスカなんだよな。
砂時計がひっくり返され、試験が始まった。
問題は前半が◯×の二択、後半が四択問題だ。そして最後の一問だけが記述式、『冒険者の心得を書け』だった。ちなみに正解は『例え明日に屍をさらそうとも今日の冒険に全力を尽くせ』である。まだ時間はあるが終わったので外に出てミルクセーキでも飲んでよう。私は解答用紙をゴレライアスさんの所に届け会場を出る。九等星の試験なんだから問題は簡単に決まっている。
「おう! 出るのは構わねぇが再入場はできねぇからよぉ。それから一時間半後には訓練場に来とけや。」
「押忍。」
ゴレライアスさんは親切だ。嬉しくなるじゃないか。
うーん、たまにはお子様用の甘い飲み物もいいものだな。うまい。
「おう、お前も終わってたのか。ん? お前ミルクセーキなんてガキくせーもん飲んでんのかよ。」
「飲みてーものを飲むんだよ。お前こそ朝から酒でも飲むってのか?」
「はっ、言うじゃねーか。俺ぁイクラム、ソロでやってる。」
「俺はカース。こっちもソロだ。」
「へぇソロかよ。まあ困ったことがあったら言ってきな。同期のよしみだ。助けてやらんこともねーぜ。」
「ああ、お前こそ困ったことがあったら言ってこい。同期のよしみだ。助けてやらんこともないぜ?」
どうやらマジで私を知らないらしい。名乗ったのに。というか同期じゃねーし。私のキャリアは四年にも及ぶんだぞ? まあこれを言うと四年でまだ十等星かとバカにされるからやめておこう。そもそも付き合いがないから誰が同期かなんて分からないんだよな。まあいっか。
「言うじゃねーか。次ぁ実技だ。せいぜい気張れよ。」
「おう、お前もな。」
悪いやつではなさそうだが、友達になれるかどうかは怪しいな。さて、そろそろ訓練所に移動するかな。実技試験か。少し楽しみだな。
ちなみに問題はどの武器を使うかだ。相手にもよるが稽古用のただの木刀でいくか、フェルナンド先生に貰った剣でいくか。はたまたエビルヒュージトレントの鍛錬棒、または切れた木刀か。ミスリルナイフって手もあるが、相手次第かな。別に素手でもいいし。
「おーし! 実技試験を始めるぜぇ! 内容は簡単だ。三分後に立ってた奴は全員通過だぁ! ただし魔法は禁止だからよぉ! 分かったな? おらぁ! 開始だ!」
そう言うとゴレライアスさんは石を投げ始めた。
「がっ!」
「いって!」
「ごふぅ!」
「ぎあっ!」
結構みんな当たってるな。威力はだいぶ抑えてくれてるのに。私はと言うと、ゴレライアスさんの石だけでなく周囲も警戒している。足を引っ張る奴とかいそうだもんな。
残り一分。立っているのはおよそ半数。だいぶ石の威力も上がってきている。私も避けるだけでは芸がない。鍛錬棒を取り出して打ち落としてみよう。意外と楽しいものだな。それにこうやって棒を振り回していると、私の周辺には誰も寄って来ない。一石二鳥だ。
「おらぁ! 終わりだ! 立ってる奴はそのまま付いて来いや!」
ゴレライアスさんの後に続く。ギルドの受付付近にやって来た。
「さっきの筆記試験の結果が出てるからよ! この場にいる者で合格してる奴は最終試験に進む。そうでない奴は帰れ!」
結局、最終試験に進んだのは私を含む十名。意外と残ったもんだな。
さーて、最終試験は何だろう? 毎回違うらしいんだよな。
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