そして翌日、パイロの日。
私は昨日のお土産を渡すべくアレク宅へ向かう。やはり門番さんは私の姿が見えた瞬間正門を開け始める。ありがたいことだ。
早速アレクが出迎えてくれた。
「おはようカース。朝から来てくれて嬉しいわ。」
「おはよ。またまたお土産があるんだ。厨房に行こうか。」
「ようこそカース君。この間は美味しいお土産をありがとうね。」
アレクママの登場だ。朝からオーラが出てる。
「おはようございます。それはよかったです。今日もお土産を持ってきました。」
「いつもありがとう。カース君が持ってくる物は美味しいから楽しみなのよね。」
そして私とアレクは厨房に移動する。
「マトレシアいる? カースがまたお土産を持って来てくれたわ。」
「おりますよ。いつもありがとうございます。で、今回は何ですか?」
嬉しいことにマトレシアさんは興味を隠しきれないようだ。
私は魔力を振り絞り、ツナマグロとシーオークとトビクラーを少しずつ取り出す。予想以上に大変だ。
「まあシーオークじゃないですか! これは嬉しいですね! それにトビクラーにツナマグロ! 美味しいものばかり! ありがとうございます。」
「今日は渡しに来ただけですので、皆さんでお召し上がりください。」
「お昼ぐらい食べて行きなさいよ。」
「うーん、じゃあ用が済んだら戻ってくるよ。服を作りに行くからね。」
「私も行くわ。どこのお店?」
「一番街のファトナトゥール。知ってる?」
「行ったことはないけど知ってるわ。魔物素材の扱いが上手いらしいわね。あぁトビクラーで服を作るのね。」
さすがにアレクは察しがいいね。
こうして私達はアレクサンドル家の馬車で一番街に向かった。アレクがたまには一緒に馬車に乗りたいと言うものだから仕方ない。
車内でキアラが水の魔法で椅子を作った話をした。それに触発されてしばらく首輪を外さない事なども合わせて伝えた。
決して悔しいからではない。私はただキアラの頑張りに触発されただけなんだからね。
そして到着、入店。
時間がどれぐらいかかるか分からないので、馬車には帰ってもらった。私が決めることでもないのだが、申し訳ないので。
「いらっしゃーい。」
ダルそうな声が聞こえてきた。
「こんにちは。服を作って欲しいんですが。」
「いいですよー。では仕様、予算、時期を打ち合わせしましょうかー。」
場末のスナックで酔い潰れたチーママって雰囲気だな。酒の匂いなんかしないけど。
四十手前ぐらいかな?
「作りたいのはウエストコートとトラウザーズ、そしてコートです。ウエストコートとトラウザーズはこの飛膜で。コートはこの皮でお願いします。」
「ほぇートビクラーですかー。贅沢できますねー。面白い出来になりそうですよー。色はどうしますー? 何でもとはいきませんが、ある程度なら変えられますよー。」
「黒にできますか? コートは真っ白で。温度調節やサイズ自動調節機能って付けられますか?」
「黒に白、と。できますよー。温度もサイズも魔石次第ですねー。現物を持って来てもらうか料金を上乗せするかですねー。」
「おいくらぐらいですか?」
「そのまま作るだけなら一ヶ月納期で金貨二枚ねー。温度調節機能を付けるなら蛇系の大物の魔石か金貨二十枚ねー、サイズ自動調節機能をつけるならワーム系の大物の魔石か金貨六十枚よー。」
「それはすごいですね。ちなみにトビクラーの魔石を使ったらどんな効果が付きます?」
「金属鎧なんかだと軽くなり動きやすくなりますねー。あと火にも強くなりますよー。でもトビクラーの皮でコートを作るんならあんまり意味ないですねー。」
そりゃそうか。よし、しばらくお預けにしよう。一ヶ月後、首輪が取れたら魔石を集めよう。
「先に服を仕立てて、後で魔石を持って来て機能を付けることはできますか?」
「できますよー。手間なので少し割高になりますけどねー。魔石だけなら金貨一枚、魔石なしなら一割増しねー。」
てことは魔石を持ってきた方がかなり割がいいのか。面白くなってきた。
「では仕立てだけお願いします。金貨五枚程度の割増で付けておいた方がいいお得な機能ってありますか? アレクも何か知ってる?」
「よくあるのは防汚とか防刃ね。でもトビクラーだから防刃なんか付けたらかえって弱くなるわね。」
「おーお嬢さん詳しいねー。やっぱりオススメは防汚ねー。これは金貨二枚でいいよー。ゴブリンの血をかぶっても汚れないねー。」
「ではそれでお願いします。ウエストコートは二つ、トラウザーズは三つ、コートは一つだとおいくらですか? トラウザーズは一つだけデザインを変えますけど。」
「えーっとー、防汚の付与は素材ごとだから金貨四枚ねー。それに当初のざっと三倍の注文だけどデザイン変更は一つだけだからー、まとめて金貨十枚でいいよー。後日機能を付けるなら服一着につき魔石が一つ必要ねー。全部につけるなら六個ねー。最初だとこれまた素材ごとに付けるから二個で済むのねー。」
「なるほど。勉強になりました。次からそうします。では金貨十枚です。」
またまた私は魔力を振り絞って財布を取り出す。いい革が手に入ったらカッコいい財布も作ってもらおうかな。
「素材はどれぐらい余りそうですか?」
「飛膜が半分ねー。皮は八割は余るよー。」
「皮で二人分のコートを作ったら余った素材で仕立て代にしてもらえますか?」
「いいですよー。」
「じゃあアレク、コート作らない? もうすぐ夏だけど。」
「ええっ!? いいの!? 完成品だと金貨三十枚はするのよ?」
「もちろんいいよ。お土産お土産。」
「ありがとうカース。私の年でトビクラーのコートだなんて。まるでお姫様みたい。」
おお、予想以上に喜んでくれてる。私も先程のサイズ自動調節機能には驚いたが。フェルナンド先生は私達へのお土産にどれだけお金をかけたんだ?
そして寸法を測りデザインを決めた。
「じゃあまずは一週間後に仮縫いするから来てねー。申し遅れたけど私はここの店主、ラウーラ・フォンテーヌよー。」
「私は四番街のカース・ド・マーティンです。」
「アレクサンドリーネ・ド・アレクサンドルよ。」
「おやおやお貴族様ですかー。護衛もなしにこれだけの素材と金貨を持ち歩くなんて剛毅ですねー。」
ようやく店を出た時にはもうすぐ昼。歩いてアレク宅へ。もちろん手を繋いでいる。
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