いやーそれにしてもチーズが美味かった。アレクや父上にも食べさせてあげたいな。でもあれ系って王族御用達なんだろうな。いつか現地に行ってみたいものだ。
昼からは筆記試験らしいので魔法学院の施設は空き空きだろう。うん、誰もいない。よし、好きなだけ撃ちまくろう。
『火球』
『風球』
『風斬』
『風弾』
『火矢』
『業火球』
『烈風弾』
『烈風斬』
『火炎旋風』
『火嵐烈斬』
いやー楽しい!
私の魔法がそのままの威力で跳ね返ってくる。返ってきた魔法を避けたり弾いたり。かなりいい稽古になるなあ。これを楽園の自宅に置きたいな。ちょっと相談してみようかな。
『火球』
『風球』
『旋風刃』
あら……?
おかしい……
跳ね返ってこなくなったぞ?
『風弾』
『業火球』
あっ……やば……パラボラ、魔力反射回路が……崩れ落ちた……嘘だろ……私のせいなのか……?
ど、どうしよう……
「カース! まだ居たの?」
「ああ、お姉ちゃん。筆記はどうだった?」
「結果が出たわ。私が首席よ。でもギリギリだったわ。まったく、アンタの魔力は恐ろしいわね。」
「よかったね。それより、これ見てくれない?」
ヤバいな。弁償しろって言われたらどうしよう……絶対かなり高いだろうな……
「え……ここって魔力反射回路が……え? まさか……カース……」
「なぜか壊れたみたいなんだよ。先生を呼んでもらえるかな?」
どう考えても私が壊したことに違いはない……金に余裕があれば弁償することも吝かではないのだが……跡形もなく砂になってしまった……どうしよう……
先ほどの教師がやって来た……
「なっ……こ、これは一体何が……?」
「ま、また何かやっちゃいました……?」
一応とぼけよう。
「カース、アンタねぇ……」
「説明してくれ。何をしてこうなった?」
「いや、その、普通に魔法を撃ってただけですよ? 風系と火系だけを。もしかして老朽化とかですかね?」
秘技責任転嫁! 言われた通りに使っていたんだから私の責任ではない!
「ううむ……嘘ではないようだが……」
さすがにここの教師だけあって、残骸から私が使った魔法が分かるのか。
「困ったな……これほどの物だ。新しく作るには予算が足りない……せめて来春にならなければ……しかし、そうすると学生達の稽古に支障が出てしまう……」
「ね、ねえカース……アンタお金持ちでしょ? 器の大きいところを見せてよ……」
くっ、無茶言うな……その金がないんだよ……白金貨一枚すらない。だから今あるワサビやペプレがなくなったら当分買えない。
「ちなみにこれを新しく作るには費用はどれぐらいなものでしょう?」
「白金貨十枚だ……学院で使う物だからだいぶ安くしてもらってもだ……」
はい無理。そんな金どうやってもない。あ、金目の物なら……あるな……仕方ない……
「新鮮殺したてのマスタードドラゴンがありますけど、これを丸ごと売ったら足りませんか?」
色々と使えそうだから取っておきたかったんだがな……
「マスタードドラゴンだと!? サ、サイズは!?」
「十メイルってとこですね。かなりヤバい毒ですよ。」
「出してみなさいよ。興味があるわ。」
いいのか? こんな所に出して……地面が腐るぞ?
「私も見てみたい。『風壁』この中に頼めるか?」
「いいですよ。」
自動防御もしっかり張って……毒々しい黄色いドラゴンを出す。たちまち風壁内の空気が汚染されていくかのように黄色く濁っていく。
「これほどのマスタードドラゴンか……初めてだ……」
『ヒーセッチ ボンノーウ ショーゲーン スイフケーン 天と地の遍く存在よ 我は求め訴えるなり シャルロット・ド・ゼマティスの名において願い奉る 出でよ召喚されし魔の物よ……』
ん? お姉ちゃんは何やってんだ? 召喚魔法なんか使って……
「アトレクス、行きなさい!」
お姉ちゃんの毒蜘蛛が無理矢理風壁内に入ってしまった。毒が漏れるぞ……
「何やってんの? 顔色悪いけど……」
「こんな機会ないわ。だからアトレクスにはあの毒をしっかり吸わせてるのよ……吸いすぎないよう制御するために『同調』を使ってるから……死ぬほど気分が悪いわ……」
このお姉ちゃんは無茶するなあ。あの毒蜘蛛が通常のよりヤバい毒を持つに至ったのはそんな理由もあるのか。頑張り屋さんだね。蠱毒かよ。そして召喚獣とあらゆる感覚を共にすることができる魔法『同調』
これって超難しいんだよな。もちろん私はできない。精密な制御力が必要なことはもちろん、召喚獣より何倍もの魔力を持ってないといけない。それから相性の問題もある。何より私にできない理由はカムイを具現化してしまっていること。具現化しちゃったらもう召喚獣ってより一匹の生物みたいなもんだろうからな。そりゃ使えないわ。
「ぷはぁ! はぁ、はぁ……ふぅ……これでまた……アトレクスが、強くなるわ……」
「終わった? それで先生、いくらぐらいになりそうですかね?」
「ああ……それよりうっかりしていた。私の名はトゴシック・ド・ミガライノだ。たぶん白金貨八、九枚はしそうだな……」
「待ってください! これはゼマティス家で引き取ります! 白金貨十枚で!」
「え? お姉ちゃんいいの? かなりの大金だけど……」
「これほどの素材なのよ! 父上なら大喜びでお金を出すわ! というわけで収納しておきなさい! 先生! お金は後日持参いたしますわ!」
「あ、ああ……そうしてくれると助かる……私のクビもな……」
「じゃあそれで。一件落着ってことで。どうもお騒がせしちゃって申し訳ありませんでした。」
「いや、老朽化かも知れないのにそこまで気を使ってもらってこちらこそすまない。さすがは魔王と呼ばれるほどの男だ。器の大きさも並みではないな。きっと魔力と比例するのだろうな。」
魔王はケチって言われるよりいいか……お姉ちゃんも喜んでることだし、伯父さんもきっと喜ぶだろう。良いことをしたと考えよう。
ちなみにマスタードドラゴンはサウザンドミヅチの手袋をしたまま触れて、手袋ごと収納した。手袋に穴が空いてなければいいのだが。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!