翌日、目を覚ましたらアレクはいなかった。おそらくもう昼前、よく寝てしまったな。
アレクの置き手紙を読んでニヤニヤしつつ朝食。冷めているが旨い! さすがマーリン。
まずはマイコレイジ商会に寄って執事ゴーレムとメイドゴーレムの発注、そして郊外の作業場にて家具類の搬入を済ませた。スライム担当を連れて楽園に行くのは明日となった。
次は騎士団詰所。尋問は進んでいるかな?
私に説明されたのは、実行犯の男はプロの殺し屋だということ。暗殺ギルドからの依頼で動いたことぐらいだった。今はそれ以上は言えないそうだ。まあ仕方ないか……
ダミアンもまだ詳しく知らないだろうし、大人しく待つとしよう。それにしてもプロか……アレクが心配だ。
さて、暇になった。もう昼は過ぎたがお腹はへっていない。何をしよう?
そうだ、ムリーマ山脈へ行こう。先生がドラゴンと戦った場所なんて分からないだろうけど、上空からあちこち見て回るだけでも面白そうだ。標高何メイルあるんだろ?
領都からまっすぐ南へ下り地表から高度二百メイル程度を保ちつつ山なりに登り進む。魔力探査をしつつゆっくり進む。隠形も使ってるのでそうそう魔物に気付かれることもあるまい。
徐々に魔物が増えてきた。空中にはハーピーにオオガラス。それらを捕食するトビクラーにコカトリス。地表にはゴブリンにコボルト。それらを捕食するオーガにトロル。魔物同士の争いも激しいようだ。
さらに南へ。かなり高度が上がっている。心なしか雲が近い。眼下には峻険な岩山が見える。そうだ! 庭石用にゲットしておこう。
ムリーマ山脈の岩を庭石にするなんてかなりお洒落だ。たくさんありすぎて迷ってしまうが片っ端から収納して、帰ってから配置しよう。
ふー。満タン近くゲットした。きっとワイルドで風流な庭ができることだろう。
それと引き換えにこの近辺は伽藍堂になってしまった。悪いことをしたかな?
ふと見るとダチョウの卵ほどもある大きさの卵が三つ、鳥の巣のようなものの中にあった。何かの鳥だろうか。卵なんてあんまり食べないから貴重品だ。美味しいのかな?
たくさん魔物を殺した私が言うのもおかしいが、こいつらは見逃そう。さすがに親が可哀想だからな。我ながら偽善っぷりがすごいな。ついでだ、少しだけ岩を戻して目立たないようにしておこう。
いいものも見たし、庭石もゲットしたことだし帰ろう。帰ってカファクライゼラでコーヒーでも飲もう。
その時だった。遠くから猛スピードで飛んでくる魔物が見えた。親か!? あれはグリフォン!? 鷲の上半身にライオンの下半身を持つ手強い魔物だ。逃げよう。どうせ私の方が速いだろうし。
逃げる私を追おうともせずグリフォンは卵へと向かった。そりゃあ心配だよな、悪かったよ。帰るから勘弁してくれ……と思ったら、奴は……嘴で卵を叩き割り中身を……啜っていた……
自分の子じゃなかったのか! 私が勘違いしただけだったのか!
そもそも卵が放置されている時点でおかしかったのだ。大抵の場合、雛が孵るまで親が付きっ切りで暖めるはずだ。その親がいないってことは……
『狙撃』
効かない!? 頭に当たったが弾かれた! グリフォンの外皮・羽はかなり強靭だと聞いていたが、これほどとは。いきなりミスリルの弾丸を使うべきだったか。奴はこちらを向き、勢いよく襲いかかってきた。
『氷壁』
アレクを参考にして斜めに構築して奴を往なす。その間に『落雷』
かなり強めにしたのに効いてない。何なんだこいつは!?
ぐっ、口からブレスか! 『氷壁』
しかし一瞬で溶かされてしまった!
『水球』
羽が頑丈ならば衝撃でダメージを狙う。ちっ、素早いな。スパスパ避けやがる、全然当たらん!くそっ『氷壁』
その間にもブレスや爪で攻撃してきやがる。ホーミング水球は蒸発させられるばかりだ。攻撃だけでなく気性も荒いのか。間に氷壁を構築しておかないと……自動防御だけでは不安なほどの力を感じる。
くらえ!『散弾』で目を眩ませて……『狙撃』
ふうー。危なかった。やはり奥の手ミスリルの弾丸は効く。頭をぶち抜いた。奴は落下したが……死んだよな?
いつも通り足元からさっと近付き、さっと収納。これで安心。卵は残り二個、このまま放置するぐらいなら私が食べる。持って帰ろう。
すると何と! 一個は収納できたが、もう一個はできなかった! 生きているのか! ならば慎重に抱えて帰ろう。ローブで包んで暖かくしておいて、ギルドで相談だな。
もうすぐ放課後、アレクに会いたいが今日は平日。アレクだって予定ぐらいあるだろう。だからこのままギルドに行こう。ちなみに城門では騎士にきっちり報告してある。ワイバーンの卵を持って帰ったりしたら大問題らしいからな。この卵は問題ないらしい。騎士も詳しくは分からないが、ワイバーンではないとは分かるらしい。
ギルドにて。
「相談と解体の依頼です。よろしいですか?」
「いいですよ。承ります。」
「まずは相談です。これは何の卵でしょうか?」
「拝見します。このサイズは……
これを手に入れた状況をご説明いただけますか?」
私は先ほどの出来事を正確に伝えた。
「孵れば分かることですが、おそらくペガサスかユニコーンですね。グリフォンがそこまで付け狙うことから馬系の魔物の線が濃厚です。」
馬なのに卵で生まれてくるのか? 魔物はそうなのか? いや、でもゴブリンやオークは……
まあいいや。危険な魔物でないならいいや。
「ありがとうございます。もう一つの解体ですがグリフォンです。どの部位がいい素材になりますか?」
「そうですね、羽なんかは大人気ですね。飾りに使ったりアクセサリーにしたり。また嘴や爪も強力な武器になります。」
「肉は美味しいですか?」
「ええ、美味しいと思いますよ。内臓はダメですね。食べるより素材として売った方がいいでしょうね。」
「分かりました。じゃあ肉と魔石以外を売りますね。どこに出しましょうか?」
「ではこちらにお願いします。」
いつもの倉庫かな。
「おう待てや! グリフォンって言ったよなぁ? 何大嘘こいてんだ?」
マジか。久しぶりのギルドあるあるか?
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