週末、デメテの日の早朝。
私は北の城門でスパラッシュさんと待ち合わせてヘルデザ砂漠へと飛び立った。
「聞きやしたぜ坊ちゃん。あの二人にお灸を据えていただいたとか。」
お灸あるのかよ……
「あの二人? いきなり絡んできたバカな二人?」
「ええ、そいつらでさぁ。オウエスト山でお会いした時に連れてた内の二人でさぁ。」
「あー、あの時の! あの二人やばいよ!? ゴレライアスさんにもケンカ売ってたよ? 剣鬼さんがバックにいるとか言ってたし。」
「見下げ果てた奴らでさぁね。最近あんな奴らが増えてるせいでアンデッドも増えてるんでさぁ。開拓で賑わうのはいいんでやすがねぇ。」
「あー、この前の鍛錬遠足でアンデッドには苦労させられたよ。弱いけどしぶといんだよね。」
「でがしょ? あんな奴らが魔物を倒して放ったらかしにするもんで、アンデッドも上級魔物も増えてるんでさぁ。」
なるほど。許せんな。マナーは大事だってのに。
「おっ、この辺りですぜ。じゃあ吹きますぜ?」
『風壁解除』
うわぁ暑っつ……
前回同様澄んだ音色が響き渡る。この笛をクタナツで吹いたら大惨事なんだろうなぁ。
およそ二分後。
現れたのは、ヴェノムスコルピオン、サンドワーム、サンドゴーレム……大物とは言えない面子だった。ヴェノムスコルピオンは初ゲットだが。
「あんまり来やせんね。場所を移しやしょうか。」
それからスパラッシュさんの指示に従い東に移動した。そこでまた笛を吹き鳴らす。
しかしロクな魔物が来ない……
小さい蠍系や蛇系、ゴーレム系しか来ない。
「今日は当たりやせんね。昼飯にしやしょうかい?」
「そうしようか。じゃあ食べる間の待ち時間に餌でも撒いておくよ。」
『土塊』
『土塊』
『土塊』
最近全然出番のない、土を出すだけの魔法だ。砂の上に大量の土を出したからここだけ農業ができるかも。無理だな。水がない。
高度を上げて、さあ弁当だ。
私が弁当を食べ終わろうとする頃、動きがあった。スパラッシュさんはとっくに食べ終わっている。早飯早何芸の内だな。
「土が動いておりやすね……」
「ワームでも出てくるのかな?」
少し眠い。早く出て来い。
土の間から顔を見せたのは蛇だった。
エビルパイソンなどは凶悪な面構えをしているのに、この蛇は円らな瞳をしており愛らしいじゃないか。
「おっ、こいつぁ珍しい。フォーチュンスネイクですぜ。」
「え? 何それ?」
「会えば幸運をもたらすと言われてまさぁ。逆に傷付けようとするとこっぴでぇ目にあうとか。」
「じゃあ僕らは幸運なんだね。あいつは何が好物かな?」
「そこら辺は蛇と同じで肉らしいですぜ。」
なるほど。折角だから何か餌をあげてみよう。まずはトビクラーの肉だ。鉄ボードに乗せて目の前に置いてやる。
ピュイピュイとかわいい声を出している。蛇って声を出せるのか?
体長は二メイル程度、太さは直径三センチ程度だろうか。たちまちトビクラーの肉を食べ尽くし、舌をチロチロと動かしてこっちを見ている。かわいい……
魔物は皆殺しだと思っていたが、こんな魔物もいるのか。外見で判断してはいけないが、かわいいものは仕方ない。もっとあげよう。トビクラーの肉は残り少ないのに。
今度は少し魔力を込めてみた。味に変化があるかは知らないが。
おっ、先ほどよりガッついて食べたように見える。大丈夫かな? 自分の体積よりたくさん食べているようだが。
では最後だ。シーオークをあげよう。勇気を出して近付いてみる。そして直接目の前に置いてやる。近くで見るとやはりかわいい。前世で蛇など爬虫類を飼う人間の気が知れなかったが、今なら分かる。こいつはかわいい。
たらふく食べて満足なのか、舌先と尻尾を躍らせてピュイピュイ言ってる。ウインクもしているようだ。蛇に目蓋ってあったっけ?
「さて、場所を変えようか。こいつを巻き込んだらいけないからね。」
「そうでさぁね。では北に向かいやしょう。」
高度を上げて北に向かおうとすると、あいつがいじらしく追ってくる。野良犬に餌をやったら付いてくるようなものか。くっ、かわいい……
「クタナツの中で蛇なんて飼ったらだめだよね?」
「ペットを飼うのは自由でやすが、基本的に魔物はだめでさぁ。まぁ珍しい魔物を内緒で飼う好事家は後を絶ちやせんぜ。意外とバレないもんでさぁ。もっともこいつぁ魔物ってより……」
「何とか許可を取れないものかな……」
「まぁ金で解決でさぁね。素直に代官府に届けを出して、魔物用の首輪を付けるんでさぁ。ざっと金貨百枚は要りやすぜ?」
「よし! それなら解決できそう! それと金貨百枚で思い出した。スパラッシュさんこれ。」
私は魔力庫から金貨の袋を取り出す。
「坊ちゃん、こいつは?」
「この前約束してたご祝儀。渡すのを忘れてたよ。遅くなってごめんね。」
「こいつぁかっちけねぇ。ありがたく頂きやす。しかし坊ちゃん、次からはこんなにも要りやせんぜ。」
中身は金貨五十枚。多かったかな。
さて、蛇ちゃんだ。
再び高度を下げてみる。来てくれるかな?
来た。何て人懐っこいんだ。
私の体にグルグルと巻き付いてくる。絞め殺されないよな? 鱗がスベスベで気持ちいい。
私のウエストコートとトラウザーズが特にお気に入りのようだ。猫にマタタビのようにウニャウニャ言ってる。蛇ってこんなに声を出せるものか、知らなかったな。
「ごめん、スパラッシュさん。予定変更、もう帰ろう! 帰って許可を貰おう。」
「ようがす。善は急げって言いやすからね。」
クタナツ付近まで戻った私は大事なことに気付いてしまった。
しまった……どうしよう……
母上は……蛇が嫌いなんだ……
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