異世界金融

〜 働きたくないカス教師が異世界で金貸しを始めたら無双しそうな件
暮伊豆
暮伊豆

245、男爵との酒宴

公開日時: 2022年11月19日(土) 10:45
文字数:2,402

特性無臭ポーションへと変質した酒樽を魔力庫に収納し……収納……できない!?

くっそ、マジかよ! やっぱ世の中そうそう便利なことばかりじゃないのか。単純計算で現在の私の全魔力が込められているわけだし。私も今は三割ぐらいしか魔力が回復してないもんな。仕方ない……普通に浮かせて持ち歩こう。領都の屋敷にでも保管しようかな。小分けにすれば収納できるか……特製の魔蔵庫も作らないといけないかな……




屋敷に戻ると、ちょうど玄関で男爵と鉢合わせた。


「いやぁお恥ずかしいところをお見せしてしまいました。ついムキになってしまって、全魔力を込めてしまいましたよ。」


「いや……ものすごい魔力を感じました。魔王と渾名されるのもご尤もかと。ところで、そちらは……」


「飲んでみられましたか? いい感じの魔力ポーションになってますよ。」


「いい感じ……? ですか?」


「ええ、センクウ親方のアレは匂いからして不味かったですが、これは無味無臭。市販のポーションに比べても飲みやすいことこの上ないですね。」


「無味無臭……? 失礼、少しだけいただけないですか?」


「いいですよ。どうぞどうぞ。」


おっ、ガラスのスポイトか。さすがに珍しい物を持ってるねぇ。


男爵はスポイトで吸った私の酒を、これってやはり魔王ポーションと呼ぶべきか……いや、ここは思い切って大げさな名前にしよう。よし、ネクタールだ。ネクタールと名付けよう。汲めども尽きぬ神の酒だ。それを手の平に一滴だけ落とし、ゆっくりと舐めた。


「グゥボおおおオゥグァアーーー」


あれ? なぜ?


「ちょ、ちょっと男爵!? 大丈夫なんですか!? どうしたんですか!」


「はぁ、はぁ……やはり魔力ポーションですね……」


「ええ、そうですよね。」


「内包されている魔力が強すぎます……もし、これを魔力の少ない平民なんかが飲んだら、即死ですね……」


魔力が強い? 多いではなく、強い?


「私が飲んだ時には無味無臭でしたが……」


「ええ、確かに無味無臭でした……しかし、たった一滴で私の魔力は全て回復し、どこか重く感じていた内臓も軽く感じます。ただの魔力ポーションではありませんね……」


「それはよかったです。」


「しかし問題は……飲んだ瞬間の拒絶反応とでも言うべきアレです。正直、かなり苦しかったです……内臓が全て口から出るかと思いました。たった一滴で……」


「なるほど。効き目が強すぎる薬は毒にもなるようなものですかね。まあこれは私達専用ってことにしておきましょう。」


コーちゃんもカムイも気に入ってくれたしね。


「センクウ親方のお酒『ヘルムート』がこのように変質した理由は分かりました。残り二つについてもお教えいただけますか!?」


あれだけ悪かった顔色がもうすっかり元気になっている。魔王ポーションのせいか、それとも酒への情熱のせいか。そして初めて知ったぞ。私が王都で魔力を込めた酒はヘルムートって言うのか。


「これは内密の話ですが、私は遥か北に住むエルフと交流があります。この酒はどちらもそのエルフの村でいただいたものです。」


「なんと!? エルフですって!? あの伝説の!」


そして説明をする。一方はフェアウェル村で村長から貰った酒『ブッシュミルトン』。もう一方はその酒に私が魔力を込めたものだ。便宜上『魔力ミルトン』と呼ぼうかな。




「なるほど……ブッシュミルトン、ですか……私の酒とどちらが旨いかと言われたら、私の方が旨い自信はあります。しかし、この繊細な味わい……強さの中に消えない芯があるかのようなコク……見習うべき所がたくさんあります。」


さすがに一流の職人は飲んでも違うんだな。私からすると、ただ旨いとしか言えないもんな。


「もちろん差し上げますので、参考にするなり飲まれるなり、お好きにされてください。」


「おおっ! ありがとうございます! やはり靴を舐めましょう! 今日はいい日だ!」


「いやいやいや! それには及びませんので! さあさ、それより乾杯しましょうよ! ね? 私達の出会いに!」


「おお! そうですな! ならばこれを開けますよ!」


男爵がそそくさと持ち寄って来たのは、ガラスのボトル! 樽に入ってない酒は初めて見た!


「これはですね、私が男爵の地位を授かった時に国王陛下から下賜されたものです。センクウ親方の師であるリュボーン師の作で『サルファレイク』の三十年物だそうです。いや、もう五十年物になってますね。」


「それは凄いですね! 喜んでいただけますとも!」


「ピュイーピュイー!」


コーちゃんも大喜びだ。


「いつか納得のいく酒が作れた時に飲もうと思っていましたが、今日こそが飲む日なのでしょう。」


そしてボトルの口をスパっと切る男爵。コルクの栓なんかないんだもんな。ガラスを溶かして蓋がしてある。それでも熟成は進むのか?


ぬおおー! 結構広い部屋なのに香りが立ちこめる! よく分からないがいい香りだ!


「ピュイピュイ!」


え? 大地の香りがする? そうなのか。さすがコーちゃん。


そしてグラスを用意する男爵。これは良さそうなワイングラスだ。前世でいうところのボルドー型ってやつかな。近いうちに王都に行ったら私も買おう。


三つ並んだグラスに酒を注ぐ。えんじ色って言うのかな。深く暗い赤だ。


「では、今日の良き日に。乾杯。」


「乾杯!」


「ピュンピュイ!」


これはワインか! 初めて飲んだ……

前世では安いワインしか飲んだことがなかったが、何だこの味は!?

アルコール度数は高くない、しかしガツンと来るな。熟成年数が長いのにこんなことってあるのか? しかもガラスで密閉してあるのに? さっぱり分からんが旨い……


「陛下がおっしゃるには、このお酒はゆっくり時間をかけて飲むと良いらしいです。そうすると酒はいろんな表情を見せてくれると。」


「なるほど……ではゆっくりと飲みましょう。肴を用意して……」


取り出すのはみんな大好きワイバーン肉。これを焼きながらサルファレイクを楽しむとしようじゃないか。


「ピュイピュイ!」

「ガウガウ!」

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