昨日の宴会は楽しかった。いつも温和なレイモンド先生が酔ってハッピーでラリラリだった。そんな状態で宴会芸を見せようとするものだから、あっちにぶつかりこっちにぶつかり。ひどい有様だった。
そんな状態なのにアレクがお祝いの曲を演奏し始めると他のみんなまで踊りだしてしまって道場内の熱気がすごかった。やはり宴会は楽しいものだ。早く私も酒を飲んで踊り狂いたいねぇ。
もちろんコーちゃんはたらふくお酒を飲んでいた。
「ピュイピュイ」
さて、本日は魔法あり部門だ。昨日の魔法なし部門でさえ激しかったからな。今日は一体どんな戦いが観れることだろう。昨日と同じ観覧席からアレクを膝に乗せてウォッチングだ。
そしてあっと言う間に二回戦まで終わり昼休憩となった。昨日と同様にエミリーちゃんに呼ばれてソルダーヌちゃんの観覧室へ。
「みんないらっしゃい。昨日は無尽流の優勝おめでとう。すごい戦いだったわね。」
「ありがとね。レイモンド先生もオミット選手もすごかったよね。お邪魔します。」
「ピュイピュイ」
「お邪魔するわね。ところで今日はソルの関係者は参加してるの?」
「ええ、上から二番目の兄、デフロック兄上が出場してるわ。あんまり強くないのに二回戦を突破してるわ。」
おお、ダミアンのお兄さんか。どんな人なんだろう。それにしてもランチは美味しかったなぁ。
「私達までありがとうございます。」
「美味しかったです。ありがとうございます。」
サンドラちゃんとスティード君も満足そうだ。
「どういたしまして。お互い王都にいることだし、たまにはお茶でもしましょうよ。」
「ええ、喜んで。」
ソルダーヌちゃんとサンドラちゃんか。面白い組み合わせだな。そこにシャルロットお姉ちゃんまで絡んでくるのかな?
「それよりカース君? 明日には帰ってしまうのよね? 今夜時間ない?」
「うーん、あると思うけど……何事?」
「ディナーのお誘いよ。もちろんアレックスと二人で来てくれて構わないわ。」
「アレクと二人ならいいよ。もちろんコーちゃんもだけど。どこに行けばいい?」
「武闘会が終わったらそのまま一緒に行きましょ? 観覧室で待っててくれる?」
「いいよ。こっちも姉上が出場してるけど、まさか優勝ってこともないと思うから。」
そうなのだ。観覧室に来ないなーと思ったら出場していた。二回戦で気付いたんだよな。 昨日一緒だったんだから一言教えてくれればいいのに。決勝トーナメントまでは勝ち残って欲しいものだが。
三回戦を終えて、姉上は勝ち残った。決勝トーナメント進出だ。ちなみにおじいちゃんは今日も解説をしている。
「お姉さんはやっぱり凄いわね。ここまで危なげなく勝っているわ。」
「そうだね。あの歳でよくやるよね。」
「ピュイピュイ」
まだ十八歳なんだよな。決勝トーナメントに残った十六人は歳上ばかりだろうに。何名か年寄りもいるみたいだし。少し心配になってきたな。
そう思っていたら一回戦も何とか勝っていた。
残り八人……がんばれ姉上!
『さあ今日はなぜか展開が早い! もう決勝トーナメント二回戦が始まろうとしています! 第一試合!女性同士の対決です!
一人目はァー! マルガレット・マルガード選手! 経験三十年の五等星冒険者がやって来た! 引退の餞に実力を試しにやって来た! 決して高くない魔力でここまで勝ち残ってきた手腕は必見です!
二人目はァー! エリザベス・ド・マーティン選手! ご存知女の敵! 悪名高きド腐れ虐殺クソ女! ゼマティス卿に睨まれても言わせていただきます! 何人殺せば気が済むんだぁー! 負けてしまえぇー!』
うわー、場内もブーイングがすごい……完全にアウェイじゃないか……さすがに可哀想になってきた。でも姉上の表情は余裕だ。むしろふてぶてしい。メンタル強すぎだろ。
勝負は姉上が勝った。ホーミングに衝撃貫通だもんな。それを戦いは数だと言わんばかりの乱れ撃ち。制御も防御も知ったことかと相手が倒れても攻撃をやめない徹底ぶり。対戦相手は……ギリギリ死ななかったようだ……恐ろしい姉だな。
ついに残り四人!
『やはり今日は展開が早いですね! もう三回戦が始まろうとしています! 第一試合!
一人目はァー! オウタニッサ・ド・アジャーニ選手! そうです! あのアジャーニ家の直系! 先日の十五歳以下の部、両部門で健闘したマルセル選手の姉君です! 高等学院三年! 将来を嘱望される才色兼備! 優勝して望むものはぁー! 模範騎士ウリエン様の婿入りだぁー!
二人目はァー! デフロック・ド・フランティア選手! 王家が勇者の血筋なら! こちらは英雄の血脈だぁー! 辺境伯家の二男! 普段は放浪してるくせにこんな時だけちゃっかり参加してるぅー! 何を望んでいるんでしょうかぁー!』
さすがダミアンの兄。仕事する気ないのか。弱いとは聞いていたが、ここまで勝ち残るとは。ソルダーヌちゃんの目は当てにならないんだな。
勝負はかなりの激戦だった。武舞台にはいくつもの破損が見られる。そんな接戦を制し、勝ったのはオウタニッサ選手だった。姉上のようなゴリ押しではなく、計算づくで追い込むような魔法の使い方だった。魔力も高いようだし上手いものだ。
『第二試合を始めます!
一人目はァー! エリザベス・ド・マーティン選手! ご存知ド腐れクソ女! 虐殺エリザベスと言えば泣く子ももっと泣く! あのイザベル様の長女がどうしてこうなったぁー! 立ち塞がるものは全部殺す!そう言わんばかりの戦い方で勝ち上がってしまいましたぁー!
二人目はァー! アンタレス・カッツェルロ選手! 正体不明のナイスミドル! これまでの全ての試合を一撃で決めて参りました! 冒険者でもない! 宮廷魔導士でもない! 隠れた強者が現れた! ぜひ勝って欲しい!』
アンタレスねぇ? 最近どこかで聞いた名前なんだよな。
『双方構え!』
『始め!』
姉上の攻撃は変わり映えしない乱れ撃ちだ。大小様々、種類も様々。武舞台上がたちまち見えなくなってしまった。無駄撃ちが過ぎるのでは?
『どうですかゼマティス卿? お孫さんの戦いぶりは?』
『ふむ。悪くない。相手のアンタレス選手は正体不明の凄腕じゃ。反撃させないに越したことはないからのぅ。』
『なるほど! おおっと!? 珍しくもう攻撃が止みました! どうしたことでしょう? まさかもう決着がついたのでしょうか?』
『いいや。まだじゃ。』
どうやらアンタレス選手は数百どころではない姉上の攻撃を凌ぎきったらしい。それも目立ったダメージなしに。だから姉上は一旦攻撃をやめたのか?
『虐殺エリザベスも大したことないな。こんなもんか?』
『殺す!』
昨日と違って今日は対戦する二人の会話が聞こえる。おじいちゃんの魔法らしい。
『アンタレス選手が挑発しています! いいぞ! もっとやれ!』
『お主はもう少し自重せぬか。』
アンタレス選手が少しずつ姉上に接近している。姉上は数こそ減ったが、その分魔力を込めて撃っている。それをアンタレス選手はどうにか水壁で受け止めている。厚めの水壁だからほとんど衝撃も貫通してないだろうな。しっかり研究されてしまったか。
『さあエリザベス選手の猛攻が続きますが! アンタレス選手は徐々に距離を詰めていきます!』
『エリザベス選手の暴風のような魔法をよくあそこまで受け止めることができるものじゃ。単純な技量だけでない理由がありそうじゃの。』
その間にもどんどん間合が詰まっていく。姉上は一歩も動いてないが大丈夫なのか?
『どうした? 逃げないのか? 俺の間合に入ったらお前の負けだぞ?』
『死ね!』
我が姉ながらひどいな……観客全員が聴いてるってのに。
『闇雲』
『おおーっとアンタレス選手! 闇雲の魔法を使ったぁー! しかも! 武舞台どころか会場内全てを覆い尽くすほどの広範囲! これでは実況しようがなーい!』
『本日も雨じゃからの。天井は結界により閉じてある。効き目は抜群じゃろうな。』
無茶しやがるな。密閉された空間だから吹き散らすことができなくなってしまった。しかし姉上はホーミングで攻撃してるのだから見えなくても関係ない。魔力探査だって使えるしね。
ん? アンタレス選手の魔力が探査できない?
嘘だろ? いや、前にもこんなことが……
あ! ニコニコ商会の魔剣を持ってた奴。切り裂き何とか! あいつも全く魔力を感じなかった。しまったな。ラグナに理由を聞いておけばよかった。それより姉上は大丈夫なのか?
姉上は移動してくれたみたいだ。暗闇で一ヶ所にとどまり続けるのはさすがに危険だよな。
『うっぐぅっ!』
姉上の声だ! 攻撃をくらったのか!?
『カース・ド・マーティン! 聴こえてるな? お前の姉に少々特殊な毒を打ち込んだ。放っておけば七分でくたばる。助けたかったらここまで降りて来い!』
『なんとぉ! またもや人質です! 対戦相手を人質に! 観客である魔王カースを狙っております! これはルールの盲点を突いた作戦です! 確かに観客への攻撃は禁止されておりませんし、選手を人質に取ることも禁止されておりません!』
『今は……黙って見ておくが……あの男は許さぬ……』
おじいちゃんがブチ切れそうだ。当たり前だよな。つーかあいつ誰だよ!
「カース……行くの?」
「行くよ。ぶっ飛ばしてくる。アレクはおじいちゃんの所へ行ってくれる? そして…………」
奴には奴なりの勝算があるんだろうが……丸ごとぶっ飛ばしてやるよ……!
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