異世界金融

〜 働きたくないカス教師が異世界で金貸しを始めたら無双しそうな件
暮伊豆
暮伊豆

99、ティータイム、そして買い物と魔法学院

公開日時: 2021年9月28日(火) 10:43
文字数:3,828

昼食後のティータイム。落ち着くなぁ。


「そうそう、忘れてたわ。カース、こちらにいらっしゃい。」


何だろう? おばあちゃんが呼んでいる。


「錬魔循環してごらんなさい。」


そう言って私の額と臍に手を当てる。母上もこうやっておばあちゃんから習ったのかな。ふふふ、びっくりさせてやるぜ。


最初はゆっくり、まだ小さかったあの頃を思い出すように。それから少しずつ循環する魔力を増やし、速度も上げていく。おばあちゃんが段々と笑顔になってきた。孫がきちんと修行をしているのが嬉しいのだろう。しかし、まだまだこれからだ。


さらに量と速度を上げていくと、あるポイントから水ではなく透明な油が流れるようなスムーズさを感じることだろう。母上もこれには驚いていた。しかしまだだ。


この状態からさらに魔力をぶん回すと……

山奥の静かな湖面のように、磨き上げられた鏡のように、そこに何もないかの如く魔力を感じなくなるのだ。


この状態から先に進むとどうなるのかはまだ分からない。首輪を外して全力でやっても変化がないからだ。もちろん今は外してない。


「……何て魔力なの……」


おばあちゃんは顔を真っ青にして驚いている。いつもながら驚いてもらうのは気持ちがいい。オッさんなのに大人気ないが仕方ない。


「ピュイピュイ」


コーちゃんは誇らしげだ。


おばあちゃんの言葉に興味を惹かれたシャルロットお姉ちゃんもやって来て私の額と臍に手を当てている。


「何これ? 全然魔力を感じないんだけど?」


仕方ないのでもう一度始めからやってみせる。


「え? え? 嘘? すごい! 何これ!?」


驚いてくれたようだ。


「どんな鍛え方したらこんなことになるのよ!」


「循環阻害の首輪とか、循環阻止の首輪を付けて地道にやったからかな。結構大変だったよ。」


「え? じゃあ今付けてるそれが?」


「いや、これは拘束隷属の首輪だよ。もうこれぐらいしか効かないんだよね。」


これには全員絶句したようだ。気分がいい。ふふふ。


「というわけで、循環阻害の首輪から地道に鍛えるのがおススメかな。」


「ね、ねえ、それより外に遊びに行かない? 王都を案内するわ!」


「それいいね。香辛料を売ってる店に行きたいんだよね。魔法学院の姉上の所にも行きたいし。」


「し、仕方ないわね! 案内してあげるわ!」


どことなく昔のアレクを彷彿とさせる喋り方だな。王都の上級貴族なら普通なのかな?


「じゃあおばあちゃん、行ってくるわ!」

「行ってきます。」

「ピュイピュイ」








「お義母様、そんなにすごかったのですか?」


「ええ、訳が分からなかったわ。ギュスタもやっぱり循環阻害の首輪から始めないとダメみたいね。」


「……苦しいから嫌だ……」


「そう。嫌なら仕方ないわね。お前は家を継ぐわけでもなし。好きにするのが一番ね。」


「お義母様……」


名家には名家なりの苦労があるのだろう。



私とシャルロットお姉ちゃんは護衛付きの馬車に乗って出かけた。私は歩きたかったのだが彼女が嫌がったのだ。朝方は自分だって歩いていたくせに。何でもそれは馬車が出払っていたからだとか。一家に四台も馬車があって出払うなんて……


最初の目的地は香辛料を扱っている大店。




「着いたわ。スピオスライド商会よ。一流店に香辛料を卸している王都でも有数の問屋ね。」


「ありがと。入ろうか。こんにちはー。」


「いらっしゃいませ。お貴族様、誠に申し訳ありません。当店は問屋でして小売は致しかねます」


開口一番それかよ。でも確かにもっともだ。


「ええ、存じております。小売でなければいいのかと考えやって参りました。そちら様の取引先と同じ量を購入する用意があります。もちろん一見さんお断りということなら退散いたしますが。」


「ねえ、私達はゼマティス家の者よ。何とかならないかしら?」


店員は思案顔だ。


「少々お待ちくださいませ」


二分もしないうちに偉そうな人が出てきた。


「お待たせいたしました。番頭のバジリックと申します。私どもの取引先と同じ量となりますと少なくとも白金貨一枚はかかりますが、いかがでしょうか?」


「なっ、そんな!」


「いいですよ。ただし味と量次第ですが。」


「ちょっとカース! アンタそんなにお金持ってるの!?」


「もちろんあるよ。ところで味見は可能なものでしょうか?」


「特例ということで、こちらへどうぞ。」


案内された一室にはガラス瓶に詰められた幾種類もの香辛料があった。見ても分からんし、片っ端から味見をしたら舌がおかしくなるな。


「胡椒、ペッパー系はありますか? それから脂の強い魚に合う香辛料があると嬉しいです。」


そんな名前の物があるかなんて知らないが、まずは聞いてみよう。


「ありますとも。おそらくこのペプレかと。それから脂の強い魚に合うのはこちら、ワサビパウダーがおススメです。」


どれどれ……


「ペプレはいいんですけどワサビパウダーがよくないですね。これって元は葉と根がある植物ですよね? きれいな水でないと育ちにくいって……」


「よくご存知で。輸送と保管の手間からパウダー状に加工してあります。もしや元のままをお望みで?」


「あるんですか!? それをお願いします!」


この勢いで醤油も手に入らないものか。



山葵のような植物を番頭さんがほんの少し、目の前で切ってくれた。擦り下ろす習慣がないんだったな。


「これです! これとペプレをください! 白金貨一枚分で半分ずつ欲しいです。」


どれぐらいの量になるかな?


「かしこまりました。それならばお取引き開始といたしましょう。」


番頭さんは他の店員に合図を送り、品を運んでくるよう指示している。


「では番頭さん、一つお約束いただきたいことがあります。人間誰しもミスはするでしょう。あなたの目の届かない所で他の店員さんが手抜きをするかも知れない。だから番頭さんの目で見て適正だと考える質と量の品をください。」


「もちろんでござっいっ……い、今のはもしや?」


「ええ、契約魔法です。破っても何の罰則もありませんがね。」


問題は破れるかどうかってことなんだがね。


「やはりゼマティス家の方は恐ろしいですな。もちろんスピオスライド商会の名にかけて手抜きなど致しませんとも。」


「失礼しました。初めての王都で緊張しているもので。今回の分がなくなって次回買いに来る時にでも解除しますね。品物次第ですけど。」


そうこうしている間にペプレの瓶とワサビ本体が運ばれて来た。ペプレは見た感じ十キロムぐらいだろうか。ワサビは葉もついており瑞々しいものが百本程度。かなり高いが気にしない。ついに出会えたワサビ! 醤油が待ち遠しい。私の思い込みでは東の国にあるはずなんだよな。


「当商会は他にも様々な香辛料を取り扱ってございます。次の機会にはぜひ他の品もご検討くださいませ。」


「ええ、楽しみにしておきます。申し遅れましたが、僕はカース・ド・マーティンです。またよろしくお願いします。」


いやーいい買い物をした! さすが王都だな。さっきお昼を食べたのにもうお腹が空いてきてしまった。トビクラーの焼肉にペプレと塩をかけて……!





「カースは金貸しだからそんなにお金を持ってるの? 金貸しってそんなに儲かるものなの?」


「やり方次第じゃないかな? 僕は契約魔法を使ってるから回収の手間がかからないんだよね。まあ死なれたら回収できないのが難点だけど。」


「そうなのね……その年でもうお仕事をしてるなんて……クタナツってみんなそうなの?」


「そんなことないよ。普通は中等学校や魔法学校などに進学するよ。王都の中等学校に入った友達もいるしね。それよりお姉ちゃんはエリザベス姉上やウリエン兄上とはよく会うの?」


「うーん、半年に一度ぐらいかしら? おじいちゃんは二人に引っ越して来いっていつも言ってるんだけどね。特にウリエンさんは近衛騎士だからかなり忙しいわよね。」


「そっかー。じゃあ兄上には会えそうにないかな。」


「おそらくね。とりあえずエリ姉の所に行ってみるわよ。」


おや、意外と姉上と仲がいいのか? 姉上って気が強くてロクに友達いそうにないからな。従姉妹同士だと気が合うのかな?




ここかな?

領都の魔法学校と雰囲気が似ている。荘厳で静謐さを感じる石造りの建物だ。中等学校より生徒数は少ないはずなのに大きさに変わりがないように見える。やはり王都は広いな。


「着いたわ。呼んでくるから待ってなさい。」


「いや、いいよ。もう呼んだから。」


姉上直伝の発信の魔法だ。姉上からの反応もあったからもうすぐ出てくるだろう。


「あっ、発信ね。カースも使えるんだ。私も教わったんだけど……」


「カース! アンタいつ来たの!? シャルロットと一緒ってことはゼマティス家に泊まってんの?」


いきなりの登場だ。行動が早いなぁ。


「やあ姉上久しぶり。王都に来たのは先週のヴァルの日だよ。ゼマティス家に着いたのは昼前かな。」


「え? そうなの!? 今朝王都に着いたわけじゃないの? うちに来るまで何してたの?」


確かに、言ってなかったよな。


「まあ待ちなさいよ。カースの行動はどうせめちゃくちゃなんだから。中で座って話そうじゃない。」


「そうね。カースとは初対面だけど驚かされてばっかり。さっきもポンと白金貨を使うんだから。」


「……相変わらずね……」


それから姉上に連れられて中庭を利用したカフェに移動した。オシャレなキャンパスライフを満喫できそうだな。前世の大学にはこんな施設はなかった……広い食堂しかなかった……名前だけオシャレだったんだよな……


夏休み中でも店員がいるなんて。そしてここでもメニューがビネガーに侵食されていた。




エリザベス©︎秋の桜子氏


カースからの呼ばれ方『姉上』


Picrewの「レトロ風メイドメーカー」にて制作。

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