私達を狙っているのか焼肉を狙っているのかは知らないが、あんな巨大な鳥に着陸されたら大変なことになってしまう。家を潰されたら泣くぞ。
『浮身』
とりあえず魔力庫からオークを出して目の前に差し出してやる。それをやるから帰れ。
ちっ、全長三メイルはあるオークを丸呑みにしやがった。しかも帰る気配はない。仕方ない、やってやるよ。
「ガウガウ」
え? カムイがやりたい? 城壁の外に誘導しろ? 無茶言いやがってさー。
『吹き荒れる暴風』
でかくても鳥だからな。風には逆らえまい。私の楽園に近付くんじゃない。
ルフロックを西へ吹っ飛ばし、私も後を追う。「ガウガウ」カムイの気合が漲っている。修行の成果を見せてもらおうか。
一度は西に飛ばされたルフロックも再びこちらを目指し飛んできた。いや、急降下している。このままだと西の城壁にぶつかってしまうな。
『火焔旋風』
火と風の魔法を混ぜてやった。ファンタジーでもあるある炎の竜巻だ。私の楽園に近付くんじゃねえ!
炎の竜巻はルフロックの左翼の先端を焼き尽くした。バランスを崩したあいつは城壁直撃コースからは逸れた。しかし、再び舞い上がろうとしている。魔物だけあって翼だけでなく魔力でも飛べるのだろう。
「グオォォォオオオ!」
カムイが雄叫びを上げ、城壁から飛び上がった! 何という跳躍力だ! 軽く二十メイルは上昇している!
ギリギリでルフロックの尾翼辺りに食らいついている。いけカムイ! 落ちるなよ!
カムイはそこからルフロックの背を伝い頭に向かい移動を開始している。カムイの全長は二メイル半、ルフロックは百メイルを超えている。バカらしくなるほどのサイズ差だ。なのにルフロックはカムイを警戒しているようで振り落としにかかっている。錐揉みを繰り返し激しく動いている。さすがのカムイもしがみ付くだけで精一杯のようだ。
ルフロックはかなりの高度まで上昇している。それを私は西の城壁で待機しつつ見ている。私はここを守るのだ。
正直カムイが心配なのだが、ここで待っている。あんなに大きなルフロックに、いくらアンタッチャブルなフェンリル狼だからって……大丈夫なのだろうか……
いや、私はカムイを信じるぞ。だからここで待つ! もしカムイが落ちてきたら受け止められるように。がんばれカムイ……
上空で何が起こっているのかは分からない。しかし、信じて待つ。ね、コーちゃん?「ピュイピュイ」
コーちゃんもいつの間にか私の隣にまで来ていた。一緒にカムイを待とう。あんな巨大な敵にも臆さず果敢に戦うカムイ。年齢的にはまだ子供のはずなのに……いや、もしかしてもう大人になっているのだろうか。分からない……
『遠見』
カムイはルフロックの頭部付近まで移動しているようだが、下からはよく見えない。くっ、もどかしい……
相変わらずルフロックは激しく動いている。あれほどの巨体なのに器用に宙返りなんかしている。
それからおよそ十五分、戦いは終わっていない。楽園からどんどん遠ざかっていってしまったので、私はコーちゃんを首に巻いて後を追った。ミスリルボードは現在使用中なので鉄ボードに乗っている。一応『隠形』も使っているぞ。そして上からルフロックを見下ろしている。カムイの健闘ぶりをしっかり見てやるぜ。
「ギャワワギャワッ」
コーちゃんの警告だ。しかしカムイには届かない。次の瞬間、ルフロックの体を青い稲光が覆った。あれは雷の魔法か!?
鳥系の魔物が口から魔法を放つことはよくあるが、まさかあのように全身を雷で覆ってしまうとは……カムイは……
無事だ。そういえばカムイの毛皮って魔法を通さないんだったか。あいつも大概反則だよな。スピードは速すぎて見えないし、大抵の魔法は効かないし。
いや? 苦しそうだ……効いているのか? なぜ……?
あ、背中にしがみつくためにルフロックの首、その後ろ辺りに噛み付いている。そこから口の中にダイレクトに電撃を食らっているのか……
それって自爆じゃん……自分の体内にも電撃が流れてるよな?
だからあいつも今まで使わなかったのか。そこまで追い詰めているとは、さすがカムイ。
しかしカムイも食らいついているだけで精一杯か。振り落とされないだけでもすごいぞ。こうなったら我慢比べか? 頑張れカムイ!
しかし、我慢比べは五分と続かずルフロックは力を失ったかのように落下を始めた。魔力も尽きたのだろうか。ではカムイの勝ちか? それならばもう手を出してもいいかな。カムイが落ちる前に拾わないと。
「ピュイピュイ」
え? まだ待てって?
頭から地面に墜落を始めたルフロック。首から離れないカムイ。このまま落ちてもカムイなら無傷で生還できるだろう。
しかし、地上まで残り三十メイルあたりで突然ルフロックは体を捻り、背中を地面に向けた。そして再び体を稲光で覆ってしまった。ヤバい! いくらカムイでもあの巨体に潰されたら……「ピュイピュイ」
分かってるよ。手は出さないって。
空高くから落下しているのだ。三十メイルなんて一瞬だ。ルフロックは、ずうぉんと重苦しい音を立てて墜落した。クレーターというほどではないが、地面が広範囲に渡って陥没している。カムイは……
次の瞬間。
腹を上に見せて横たわる巨鳥の喉が真横に裂けた。カムイだ。ほとんど見えなかったが、カムイがルフロックの体の上を流星のように流れ抜けたのだ。瀕死のルフロックは最後に特大の雷球をカムイに放っていたが、地上を駆けるカムイに当たるはずもない。やがて、断末魔をあげることなく事切れていった。
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