異世界金融

〜 働きたくないカス教師が異世界で金貸しを始めたら無双しそうな件
暮伊豆
暮伊豆

206、帰路、岐路

公開日時: 2022年1月17日(月) 02:48
文字数:2,040

体が重い……

いくらでも寝ていられそうだ……


でも起きないとな。

放っておいたらいつまでも寝てしまいそうだ。

みんなどうしてるかな。

王都に置き去りにしてしまったな。

アレクに会いたいな。


「姉上……」


「起きたのね。じゃあまたあのスープを飲んでもらうわよ。飲むわよね?」


「うん、飲みたい……」


うまい。色んな出汁が入ってそうな味だ。これはありがたい。まだ手が動かないから姉上に食べさせてもらってしまった。


「マリーは?」


「実家よ。昨日の夜ね、カースが寝たのを見届けてから帰ったわ。五十年ぶりですって。」


「そっか……姉上はいつ元気になったの……」


「アンタが倒れてから二、三日後だって。すごい薬よね。アンタの魔力のおかげよ。助かったわ。」


「そっか。よかったよ。寝るね。」




こうして私はおよそ一週間、食べて寝て起きて、また食べて寝る。そんな生活を送った。

そして自力で立ち歩くことができるようになった頃、困った事態に直面してしまった。


自分の魔力を感じることができないのだ。まるで器ごと無くなってしまったかのように。魔力庫から物の出し入れすらできない。もちろん飛んで帰ることもできない。困った。とりあえずマリーに相談だな。


「と言うわけで、魔力があるのかないのかすら分からないんだよね。どうしよう?」


「やはりですか……看病している時から坊ちゃんの魔力を感じられませんでした。起きられたなら再び感じるかとも思ったのですが……」


「そっか……参ったね。帰れないよ……」


「帰りの心配はいらないわ。私が何とかするから!」


「そう? さすが姉上。じゃあ、いつ出ようか? 僕の体調はだいぶ良くなったし。」


クソ、マジかよ……

魔法が使えなかったら私なんて凡人道一直線だ。幸い魔力庫に入っている金よりギルドカードに入っている金の方がだいぶ多い。だからどうにか一生働かずに暮らせるだけの金はある。遊んでは暮らせないけど。


いや……ギルドカードも魔力庫の中だ……

つまり今の私は無一文……再発行ってできたっけ? それはできるよな? 確か金貨一枚だよな? その場合の残高は……相談してみよう。


それにアレクとの将来設計がズタズタだ……

この魔力では楽園で暮らしていけない。領都の家も維持できるのか? どうしたらいいんだ……


「カース……元気出して。もしアンタが魔法を使えない役立たずになったとしても私が面倒みるわ。だから安心しなさい。」


「姉上……」


ストレートに言ってくれるぜ……


「ピュイピュイ」


コーちゃん……魔力がなくても友達だって? 泣かせてくれるじゃないか……


「ガウガウ」


カムイ……お前が守ってくれるって? カムイは強いもんな……


「坊ちゃん。魔法が使えなくてもアッカーマン先生から無尽流剣術をしっかり習えばいいじゃないですか。それこそ魔法が苦手なフェルナンド様のように。」


マリーは優しいのか厳しいのかどっちだよ……


「マリー……そうだね。それにまた母上に一から鍛えてもらうって方法もあるかも知れないしね。」


まさかあの地獄の経絡魔体循環からやり直し!? 十年以上かけて鍛えた私の魔力が……

まあ姉上が死ぬよりマシか。でもアレクに捨てられたらどうしよう……

アレクだってクタナツ女性なんだから弱くなった私を見捨てても全然おかしくない……

どうしよう……


さすがにそれは悲し過ぎる……





「坊ちゃんよ、すっかりよくなったようだな。」


「あ、村長。お世話になりました。お世話になっておきながら何のお礼もできませんが。」


「いやいや、お前が作り出した飲み薬で充分だ。よければ半分持って行くがいい。また毒を盛られても知らぬぞ?」


「そうですね。ありがたくいただきます。ところで僕、魔力を失ってしまったようなんですが……エルフでも同じようなことってありますか?」


「いや、知らぬな。聞いたことがない。だがまあ『楽をして得た力はすぐ裏切る』という言葉がある。お前の力がそうでないなら容易く消え失せはせぬのではないか?」


なるほど……さすが村長。一理ある。きっとかなり長生きしてるんだろうな。ならば私の魔力は失くなったのではなく、単に眠っているだけだったりするのだろうか? そうだといいな……


「ありがとうございます。今のお言葉、胸に沁みました。いつになるか分かりませんが、また来てもいいですか?」


「ああ、そもそも我らは外の者を排斥などしておらぬ。来れるものならいつでも来るがいい。」


「ありがとうございます。また来れるよう鍛え直します。」


「精霊様とフェンリル狼殿もまた来てくだされ。」


「ピュイピュイ」

「ガウガウ」


コーちゃんが様付けで呼ばれている……

カムイは殿だ……

絶対私より扱いが上じゃん……


明日の早朝、ここを出発することになった。私のミスリルボードはマリーが収納してくれた。虎徹はいつも通り背中に装備している。


途中で楽園にも寄りたいが、ルートが違う。それに私の魔力が使えないから鍵も開かない。領都の家も同じか。きっと現代日本で携帯を失くす以上のダメージかな。何もできない。


『楽をして得た力はすぐ裏切る』か……

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