男の行き先は村の外れ、そこには大木があった。男は器用に登り、地上およそ八メイル地点の洞に何かを入れた。これが暗殺ギルドとの連絡か!
男が自宅に戻るのを待ち、何かを確保する。手紙だ……読んでみよう。
『失敗 伝達の要あり 繋ぎ求む』
なるほど……失敗はしたけど今後のために情報だけでも伝えておくと。正直に失敗と書いているがいいのか? 消されたりしないのか?
面倒だがこの手紙を回収に来る奴を待つしかないか。明るいうちにこんな木に登ったら誰に見られるか分からない。ならば今から朝までの間に来るのではないだろうか。
待つことおよそ三時間。眠いしお腹は空いたし散々だ。しかし、ようやくやって来たようだ。木を登る音がする。迷わず手紙を手に入れて降りていく。手紙を読む気配がないが……
そのまま村を出たそいつは短く口笛を吹いた。すると男の肩には音もなく鳥が止まっていた。よく見えないが男の顔よりは大きい鳥だ。その鳥の足に何かをしている……伝書鳩か!?
この男は中身を確認する立場ではなく、鳥を使って情報をやり取りするだけの者か! ならば今度は鳥を尾行しなければならないのか! これはきついな……どこまで行くんだ?
鳥の後を追うこと三十分。着いた場所は領都だった。正確には分からないがスラム街のどこか、鳥が入った建物には印を付けておいた。さて、どうする? 現在私は関所破りをしてしまった。騎士団に届け出るわけにはいかない。一度自宅に帰ってみるか。アレクは寝てるかな。
起きてた。
「カース! 心配したのよ! バカバカ! こんなに遅くなって!」
「ごめんね。寝ててよかったのに。」
「バカ! 心配で眠れるわけないでしょ! ダミアン様は寝てるけど。」
「ダミアンが泊まってるの? あの野郎……」
しかしこれはチャンス!
こき使ってやる!
「ダミアン! 起きろ! オメーの出番だ!」
「あぁん? せっかく寝てたのによぉー。」
「暗殺ギルドらしい建物を突き止めた。騎士団を突っ込ませてくれ。今なら手元に証拠を握ってるぜ!」
「やるじゃねーか。そりゃあやるしかねーなぁ。」
「じゃあアレク、もう一回出てくるから。もう寝てても大丈夫だよ。」
「そうみたいね。じゃあ先に寝てるから絶対帰ってきてね。」
そう言ってアレクは抱き着いてきて私の頬に唇を寄せた。ダミアンが見てるぞ?
私はミスリルボードにダミアンを乗せて、先ほどのスラム街へと案内した。
「あの建物な。あそこに手紙を持った鳥が入っていった。もしかしたらさっきの間に指示を持った鳥が飛び立ったかも知れん。」
「よーし、分かったぜ。後は任しとけ。ぶっ潰してやるぜ。オメーもやるか?」
「いや、俺は関所破りをしちまってるから。今からさっきの村に行って実行犯とその妻を捕まえてくるわ。一時間もかからんと思うから、北の城門に伝えておいてくれると助かる。」
「くっくっく。どこの誰だか知らんが馬鹿なことをしたもんだな。さっさと行って帰ってこいよ。」
しかしダミアンは本当に頼りになるな。普段は無能、有事の際は有能なのか。
鳥使いを捕まえられないのが惜しいが仕方ない。顔が見えなかったんだよな。
さて、村に到着。先に木の洞をチェックしてみる。手紙はない、つまりまだ返信は来てないわけだな。
では犯人逮捕といこう。
魔力探査によると家の中には二人。子供はいないようだ。奥さんは何も知らないようだが見逃せないな。二人とも連行してくれる。
『永眠』
完全に人攫いだな。二人まとめてロープで縛り、鉄板で簀巻きにする。このまま領都までひとっ飛びだ。
領都を出てからほぼ一時間。北の城門に到着。いきなりで悪いが城壁の上の騎士に声をかける。
「こんばんは。お勤めご苦労様です。私はカース・ド・マーティン。ダミアン様の命令で殺し屋を連行して参りました。」
「はい! 聞いております! こちらへどうぞ。」
話が早い。
「この男が実行犯です。暗殺ギルドの方はダミアン様が上手くやってくれてますよね?」
「ええ、問題ないかと。ところで妻の方は何か知ってそうでしたか?」
「いえ、何も知らないようでした。しかし犯人への脅し、人質に使えるだろうと思い一緒に捕らえて参りました。私としては妻の方だけは無罪放免を望んでおりますが、犯人の供述次第だと思います。」
「ええ、お任せください。ここまでお膳立てしてもらったのですから。依頼人が判明するのも遠くないと思います。」
ふーぅ、これで一応は安心かな。狙われたのが私と一緒の時でよかった。わざわざあんな山の中で狙ったのは証拠隠滅のためかな? アレクって領都内で狙うには目立ち過ぎるもんな。
自宅に帰ってみるとアレクは約束通り寝ていた。よかった。私も寝よう……魔力はまだまだあるが、体力も眠気も限界だ。昼ご飯だって食べてないもんだから……
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