帰り道、クタナツとタティーシャ村の中間辺りの森の上空に差し掛かった。ここで何か獲物を狙ってみよう。
草原や平原、山などで狩りをしたことはあるが、森ではまだない。
いつかノワールフォレストの森に行くための練習だ。
一旦降りて誰もいないことを確認。
そして再び上空に戻り……
『火球』
『火球』
『火球』
半径十メイル程度を灰にして空白地帯を作る。延焼しそうになったら水球で消火だ。
四十分ぐらいで全て燃え尽きて森にぽっかりと穴が空いたように見える。
まだ多少燻っているが虫対策に丁度いい。さあ大物は来るかな? それとも火だから来ないかな?
もちろん上空も警戒しているし隠形も使っている。どこからでも来やがれ。
来た!
北からすごい勢いで何かが飛んでくる!
おお、でかい!
恐ろしいので、さらに上空へ逃げよう。
あれは……トビクラーか!?
すごい勢いでまだ燻っている空白地帯に飛び込んだ! 泥田で遊ぶ猪のように灰や炭の上でぬたうち回っている。
確か火と血が好きって話だったか。
では今のうちにトドメと行こう。
ゴロゴロしてやがるから頭が狙いにくいな……
ならば最近出番の減った鉄ボードで……
『金操』
首に向けてギロチンだ。
鉄ボードは厚さ三センチ程度の鉄板なので、ギロチンのような斬れ味はない。首を圧し潰すイメージだ。
避けるなよぉ……
よし命中!
ぬたうち回るのに夢中で気付きもしなかったようだ。首がグチャっと切断された。切り口は汚いがまあいいだろう。
動かなくなるのを待ってサッと近付きサッと収納。鉄ボードが少し曲がってしまったか。
コカトリスは美味かったから、きっとこいつも美味いのだろう。
今からクタナツのギルドに解体をお願いしたら明日のキアラの誕生日には十分間に合いそうだ。
ギルドに到着。
「お疲れ様でーす。」
私は新人なので挨拶は欠かさない。
「解体と魔石の買取をお願いできますか?
魔石はこれ、解体はトビクラーです。」
「変わった魔石ですね。何のですか?」
「シーオークですね。」
「珍しい物を出してくれますね。トビクラーは解体倉庫に出してくださいね。一緒に行きましょう」
やはりこの倉庫は涼しいな。
トビクラーを魔力庫から出す。やはり大きい。尻尾から頭まで十三メイル、両翼の幅は十五メイルぐらいか。食べる所はあるのか?
「トビクラーの素材は何か使えますか?」
「色々使えますよ。まず胴体の皮ですがコートにするのが一般的です。少々の炎ではビクともしません。ドラゴンのブレスにも一度なら耐えられるらしいですよ。それから飛膜で服を作るのもオススメです。防刃効果がありますよ。後は爪、歯、目、骨などいくらでもありますが解体の間にこれを読んでみてください」
そう言って職員は辞書のような物を渡してきた。
「ありがとうございます。時間はどれぐらいかかりそうですか?」
「今は係員の手が空いてますので一時間もかからないと思いますよ。買取はどうします?」
「胴体の皮と飛膜は持って帰ります。肉はどうですか? 美味しい部位はありますか?」
「そうですね、オススメはやはり内臓ですね。見たところ新鮮ですのでどこも美味しく食べられるでしょう。それから腕、胸の肉ですね。よく動かす部位は美味しいみたいですよ」
「なるほど、ではそこ以外を買取でお願いします。」
「分かりました。それなら金貨二十から三十五枚ぐらいになると思います。お待ちになりますか?」
「ええ、見学しながら待たせてもらいます。」
解体の勉強をしようと思ったのだが、係員の手際が良すぎて全然分からない。流れるように次々と解体されていく。
質問して手を止めさせるのも悪いので見てるだけだ。
せめて辞書と見比べながら部位の確認だけはやってみる。やはりこのような大物は無駄な部位がないらしい。
解体が終わりに近づく頃、先程の職員がやってきた。
「買取価格は金貨二十八枚です。内訳はシーオークの魔石が金貨七枚、トビクラーの魔石が金貨九枚、残りの素材が金貨十二枚です」
これはすごい。一匹丸ごと納品したら一体いくらになるんだ?
「それでお願いします。全額カードへ入金で。素材は持って帰ります。」
いやーキアラのためと思ったが、いい稼ぎになった。現在の私のカード残高は金貨五十枚を軽く超えている。
子供には大金すぎるが金貸しの金庫にはこれぐらいないとな。
ギルドから帰った。
マリーにツナマグロとシーオークとトビクラーの肉をいくつか渡し、明日の料理を頼む。
少し驚いていたようだ。
さあ夕食だ。
「キアラー、明日は美味しい料理が食べられるからなー。」
「えー楽しみー!」
「あらあらカース、今日は何を獲ってきたの?」
「ツナマグロとシーオークとトビクラーだよ。シーオークはかなり美味しいらしいね。母上は食べたことある?」
「まあ! シーオークですって? あれはかなり美味しいわよ。トビクラーも新鮮なレバーは絶品よ。ツナマグロは食べたことがないわ。」
「それは楽しみだね。獲ってきてよかったよ。ところでトビクラーの飛膜で服を作りたいんだけど、どこかオススメの店とか職人とか知ってる?」
「あぁ、それなら一番街の『ファトナトゥール』がいいわ。魔物素材の扱いにも慣れてる店よ。」
これは楽しみだ。前世ではスーツを仕立てたことすら無かったからな。
そこにキアラが。
「カーにい、お風呂で本読んでー」
キアラも風呂が好きになってきたかな。
「よーし行こうか。どこから読もうかなー。」
『四天王が全滅したと聞いても魔王は平気です。なぜなら……
「四天王が全滅したらしいな。」
「ふふ、所詮やつらは使い捨て。」
「うむ、魔王様のお遊びで作られた部隊よな。」
「我等『魔王親衛隊三人衆』こそが本物の側近よ。」
「ふふ、使い捨てのやつらとは違う。」
「うむ、初めから我等が出張ればよかったものを。」
「魔王様は聡明な御方、決して敵を甘く見ることはない。」
「ふふ、あんな使い捨てのやつらでも少しは役に立ったか。」
「うむ、勇者の手口は割れたよな。」
「魔王様からのご命令だ。我等三人衆が協力し勇者を殲滅せよとのことだ。」
「ふふ、さすが魔王様。慎重であらせられる。」
「うむ、よもや負けることはあるまい。」
「作戦はこうだ。ブドゥーカン大森林を突破した勇者だが、明日にはドゥーム山に到着するだろう。それにはウギィース谷を抜ける必要がある。そこで待ち受け罠にかける。」
「ふふ、えげつないな。上から土砂でも落とすか。」
「うむ、いい考えだ。生き埋めにしてくれよう。それでも生きているようなら我等が相手をしてくれる。」
卑劣な罠が勇者を待ち受ける!
危うし勇者!
どうする勇者!』
さすが勇者だよな。
まさかあんな方法で回避するとは思わなかったな。
「さあキアラ、洗ってやるぞ。きれいにしような。」
「うん!」
ん? キアラは何に座ってるんだ?
「キアラ、それ何?」
「これ椅子だよー。水の魔法で作ったのー。」
何……だと……
水壁を応用して椅子を作っただと?
思いつかなかった……
ただの箱ではない、四本脚の立派な椅子だ。
背もたれも付いているし、水だけに弾力もあり座り心地が良さそうだ。
そうなると机も作れるし馬車だって作れる。
いや、形あるもの何でも作れるではないか!
何という発想の自由さ!
魔力でごり押しばかりする私とは大違いだ。
悔しいから私も凹の形のした椅子を作ってみた。くっ、技術的には大したことはない。込める魔力も微々たるものだ。
それなのに考えもしなかった!
私の負けだ……
私は悔しい気持ちを隠してキアラを洗い流し外に送り出す。
決めた!
思えば循環阻止の首輪を買ったのに、付けたり外したりだった。
こんな生温いことではだめだ!
今から一ヶ月、絶対外さない!
『私は循環阻止の首輪を今から一ヶ月間外さないことを約束する』
これでもう外れない。
契約魔法は魔力で無理矢理破ることもできるらしいが、それにはかけた者より何倍も高い魔力が必要だ。
つまり一ヶ月経つか、今の魔力を数倍に高めなければ外せないのだ。
やってやる!
兄より優れた妹など存在しねぇ!
キアラ©︎秋の桜子氏
カースからの呼ばれ方『キアラ』
Picrewの「レトロ風メイドメーカー」にて制作。
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