コーネリアスは先にマーティン家に帰り着いていた。
「ピュイピュイ」
「コーちゃんおかえり。カース君はまだなの?」
愛らしく頭を縦に振る。
「ピュイピュイ」
「まだなのね、遅くなるのかな?」
またまた頭を縦に振る。
「ピュイピュイ」
「よく分からないけど遅くなるのね。先に食べる?」
今度は横に振る。
「ピュイピュイ」
「じゃあ待ってようね。奥様ー、カース君は遅くなるそうです。」
「そう。コーちゃんが知らせてくれたのね。ありがとう。」
「カー兄まだなの? 私お腹空いたー。」
「じゃあ食べましょうか。ベレン、運んでちょうだい。」
「はーい! コーちゃんはどうする?」
「ピュイピュイ」
首を横に振っている。
今夜のマーティン家はイザベル、ベレンガリア、キアラの三人である。アランは例によって夜勤だろうか。
夕食の最中、突然コーネリアスが「ギャワワワァ! ギャワワッ!」と、鳴き出した。
「どうしたのコーちゃん?」
コーネリアスはイザベルの手に巻き付き頭を外に向ける。
「ギャワワ!」
「あっちに何かあるの?」
「ピュイッ!」
「奥様、もしかしてカース君に何か?」
「ピュイピュイッ!」
コーネリアスは頭を激しく縦に振る。
「行くわよベレン! キアラは待ってなさい!」
「はい奥様!」
「はーい……」
文字通り飛んで駆けつけたイザベルとベレンガリア。二人が見たものは、瀕死のカースと即死だと思われる受付嬢。そしてカースを守るように立ちはだかるカムイだった。
「カース!」
「カース君!」
「ガウガウ!」
「毒ね……私が治療院に連れて行くからベレンはマリーを呼んで来て!」
「分かりました!」
ベレンガリアを送り出したイザベルは解毒を試みるが……
『解毒』
「やっぱり効かないのね……でもこの症状……不幸中の幸いかしらね。カムイ、行くわよ。」
「ガウガウ」
イザベルはカースを木の板に乗せて治療院まで飛んで行った。もちろんその間も解毒の魔法は使い続けている。そしてカムイは後ろを追走する。
「お邪魔するわよ! ベッドを借りるわね!」
「へっ? ま、魔女様? ど、どうぞどうぞ!」
イザベルはカースをベッドに寝かせて目や口の中を確認している。
「やはり……」
「奥様!」
そこにマリーもやって来た。
「マリー! 待ってたわ! 見てくれる? きっとアレよ。」
「はい! 坊ちゃん……」
マリーの後ろにはオディロンもいる。
「こ、これは!?」
「あの時、エリが受けた毒より酷いわよね?」
「ええ奥様……しかし幸運でしたね。あの時のエルフの飲み薬、私達は持っていますから。」
「そうね。マリーを待っていたのはそれなの。今のカースに飲ませて大丈夫かしら?」
「むしろ他に手段はないかと。問題は飲み込んでくださるかどうかですね……はっ! 奥様! ペイチの実をお持ちではないですか?」
「ええ、あるわよ。どうするの?」
「それを絞ってエルフの飲み薬と割りましょう! それなら坊ちゃんは無意識でも飲まれるかと!」
「なるほど。さすがマリーね。ありがとう。」
エルフの飲み薬の在庫はイザベルが一本、マリーが三本。まずはマリーがペイチの実を絞っている。
「できました奥様! これを飲ませてあげてください!」
「ありがとう。飲んでくれるかしら?」
「ピュイピュイ!」
あの時のようにコーネリアスが薬を飲んでしまった。
「コーちゃん! 何を!?」
「そうでした! 奥様、前回もコーちゃんはこうやって坊ちゃんにポーションを飲ませたんです。」
コーネリアスはカースの口から頭を突っ込んでいる。
「ピュイピュイ!」
コーネリアスは何かを訴えようとしているが……
「どうしたのコーちゃん? 何か困ってるの?」
「ピュイピュイ!」
コーネリアスは頭を縦に振っている。
「もしかして一本では足りないのでは?」
「ピュイピュイ!」
さらに頭を縦に振っている。
「分かりました。もう一本使いましょう。」
同じようにペイチの実で割ったエルフの飲み薬をコーネリアスはカースに飲ませた。
結局カースはエルフの飲み薬を二本分飲んだことになる。果たして助かるのだろうか。
「ピュイピュイ!」
「どうしたのコーちゃん?」
イザベルが問いかける。
「ピュイーピュイー!」
「もしかしてまだ足りないの?」
「ピュイっ!」
コーネリアスは頭を縦に振る。
「マリー! もう一本お願いできる!? これを絞って!」
「お任せ下さい!」
それから三本目の薬をカースに飲ませ、コーネリアスも安心したようだ。
「コーちゃん、カムイ。あなた達のおかげよ。ありがとうね。」
「ピュイピュイ」
「ガウガウ」
「街中で毒をくらうなんて情けない……坊ちゃんを鍛え直す必要がありますね。」
「ピュイピュイ」
「ガウガウ」
どうやらカースは命拾いしたらしい。本当に幸運な男である。
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