異世界金融

〜 働きたくないカス教師が異世界で金貸しを始めたら無双しそうな件
暮伊豆
暮伊豆

49、焼け落ちる街

公開日時: 2022年4月9日(土) 10:54
文字数:3,780

こうして私達はクタナツを発ち、三十分もしないうちに王都に着いた。まずはゼマティス家に寄り母上とアステロイドクラッシャーの面々を降ろす。辺境伯家には私とマリーだけが向かう。これは後からやって来るであろうキアラ、オディ兄、ベレンガリアさんの戦力を当て込んでいることと、母上の元でないとアステロイドクラッシャーは動かないであろうからだ。

それにしても伯母さんは驚くだろうな。母上がいれば千人力だもんな。もうゼマティス家には何の心配もいらない。我ながら本当にいいアイデアを思いついたものだ。


そして辺境伯家上屋敷に到着。


「ただいま! 強力な助っ人を連れて来たよ!」


「おかえりなさい! マリーさん、わざわざありがとうございます!」


「いえ、アレックスお嬢様こそいつも坊ちゃんをありがとうございます。」


周りの雰囲気は……たった一人かよ、クタナツまで行ったとか嘘だろ、平民なんか連れて来てどうするんだ、といった感じだ。大丈夫、そんな不平不満を言う奴すら守ってやるよ。私は優しいからな。


「この度はご足労ありがとうございます。私はソルダーヌ・ド・フランティア。カース君が助けを求めるほどの手腕、期待してもよろしいでしょうか。」


「クタナツはマーティン家の元メイド、マルガレータバルバラと申します。マリーとお呼びください。坊ちゃんほどの魔力を期待されても困りますが。」


「鋭く異質な魔力を感じます。いやが上にも期待してしまいますね。よろしくお願いします。」


ほほう、さすかソルダーヌちゃん。マリーの魔力が分かるのか。まあ私はマリーと戦ったことなんかないからあんまり分かってないんだよな。使える魔法の数は絶対私より多いし、頼れるなぁ。


「さて、ソルダーヌちゃん。現在起動している結界魔法陣だけど、いつまで持つ?」


「俺から答えよう。明日の昼前だな。それから魔力を補充して再び使えるようになるまで三、四時間ってとこだ。」


「魔力の補充? それはどうやって行うものなんですか?」


「簡単だ。用意してある魔石を魔力炉に投入するだけさ。君の魔力で補充してくれれば話は早いんだがな。現在の技術では魔石を投入するしか方法はないってわけさ。」


へぇー、いつだったか一回起動するだけで白金貨が飛ぶって聞いたのはそれが理由だったのか。充電式か電池式かの違いと思えばいいか。


「じゃあ魔石自体は十分用意してあるんですか?」


「ああ、だいたい一週間分だな。つまり停止してる間だけ守ればいいってことだ。食料もこの人数なら二週間は持つ。その間に俺たちで攻めるのもアリだ。」


なるほど。一度ひとたび結界魔法陣を起動してしまえば正門だけを守ってればいい。その間に私達で狂信者狩りをするのもアリか。特にマリーがいれば現場系エルフだって探せるのではないだろうか。

盗賊に関しては放置だな。ここまで来たら潰せばいい。第一城壁周辺やそれより外の王都民が犠牲になるだろうが、知ったことではない。民は何十万人もいるんだからどうにでもなるだろう。結束して盗賊を撃退してくれよな。




そして夕方。ここまで新たな襲撃はなかった。キアラ達はクタナツを出発した頃だろうか。キアラのスピードなら二時間もあれば着くだろう。夜だからムリーマ山脈を越えるルートではなく迂回するルートを選んで欲しいものだ。それなら三時間ぐらいだろうか。今になって心配になってきてしまったな。




そして日が暮れて夕食時。突如天を衝くような火柱が噴き上がった。まるで火山だ……


「ソルダーヌちゃん……あの方向には何がある?」


王城ではない。あっちの方向にあって重要な施設と言えば……


「たぶん……ギルドよ……」


恐ろしい火柱だ。私とマリー、お兄さん以外は腰を抜かしてブルブル震えている。そりゃそうだ。あんな巨大な火柱なんて初めて見るだろうからな。天変地異のレベルだ。アレクだって座り込みこそしていないが、足が震えている。もしあれが本当の火山噴火だったら王都は終わりだが、地震のないローランド王国に火山がないのは常識。いや正確に言えば『火山』『地震』といった言葉すらないぐらいなのだ。よってあれは魔法と考えるべきだろう。


「マリー、行くよ! アレク、ここを頼む!」


「はい坊ちゃん。」


「分かったわ! 無事に帰って来てね!」


あれだけの魔法を使って何をしたのか。じっくり確認してやる。建物一つ燃やすにしては大げさなようだが。




近付いてみると、やはり燃えていたのはギルドだった。いやもう燃え尽きていた。犯人は見当たらない。周辺には逃げ惑う冒険者や燃やされながらも冒険者に襲いかかる狂信者がいるのみだ。きっとギルドに籠城して戦っていたのだろう。そこを丸ごと燃やされたと……ちっ、私の好きなゴリ押し攻めをするではないか。


「ところで、マリー。この魔法はやっぱ火柱かな?」


「ええ、そのようです。まるで長老衆のような魔力です。侮れない相手かと。」


今回の相手は毒にも気をつけないといけないよな。もしも本物の死汚危神を使われたら私だって死ぬんだから。あーあ、やだやだ。放ったらかして楽園に行きたかったな……


とりあえず延焼だけは防いでおこう『高波』


「ねえマリー。エルフが言われてムカつく言葉ってある? これを言ったら決闘だ、みたいな。」


「うーん、そうですね……エルフ同士ではそのようなことはまずないのですが、格下から舐められることを嫌うかと。例えば普通のエルフは人間を取るに足らない虫のような存在だと認識しています。別段差別したり排斥したりすることもない代わりに好んで関わろうともしません。」


「うーん、それは聞いた気もするね。とりあえずやってみるよ。」


「え、何を……」


『おい雑魚エルフ! 俺が怖ぇーんならさっさとフェアウェル村にでも帰って村長むらおさに泣きつきな! 人間って強くて怖いよーってな! 前にも何人か殺したけどよ! エルフって雑魚ばっかりだな! あー弱い弱い!』


拡声の魔法を使ってみた。果たしてこんな手が通用するのだろうか。


「ぼ、坊ちゃん……」


「もちろん雑魚ばっかりの中にマリーは含まれてないからね。」




『おやおや? 聴こえてねーのか? エルフちゃんは耳まで悪いのかよ!? そんなデケー耳しといてよ!そんな聴こえねー耳なら切り落としちまいな!』


「ぼ、坊ちゃん……」


「いやいや、マリーは違うよね。自らの生き方のために切り落としたんだよね。信念が違うよね。」


いかんいかん。マリーに他意なんかないのに変な方向に球が行ってしまった。デッドボール、いやむしろオウンゴール的なやつか。


反応はないか。さすがにこんな見え透いた手は効かないか……最後にしよう。


『あーあ、ムカついたから今からフェアウェル村に行って焼き尽くしてくるわ! テメーらの両親やイグドラシルごと丸焼きにしてやるぜ! テメーらのせいだからな! せいぜい王都でも焼いて遊んでろや!』


「ぼ……坊ちゃん……」


「冗談だって。それにしても出てこないね。故郷を捨てた奴には効果が薄いのかな? じゃあ仕方ないね……マリーは降りてくれる? ちょっとフェアウェル村まで行ってくるから。」


「そんな! 坊ちゃん! お願いします! 何でもしますから! どうかお考え直しを! お願いです!」


「いくらマリーの頼みでもねぇ……見てよこれ。フェアウェル村の一つや二つじゃ釣り合いが取れないと思わない? 大丈夫。もし村にボニ何とかって奴の縁者がいたら、そいつだけは生かしておくから。ここまで連行して拷問するけどね。」


「そんな……坊ちゃん……」




その時、私達の足元から巨大な火柱が立ち昇った!

そんなの効くかよ。


術者は……あっちか!


『榴弾』『榴弾』『榴弾』『狙撃』


「行くよマリー!」


「へ、は、はい!」


やはり私の魔法の半数が跳ね返ってくる。中々やるな。しかしこっちにはマリーがいるんだ。再び跳ね返してくれるぞ。そしてさらに『魔弾』『魔弾』『断頭台』

ミスリルギロチンの刃部分ではなく、ノコギリ部分をぶつけてやった。さっきから魔法がさっぱり跳ね返ってこない。さては瀕死だな。衝撃貫通にホーミングだもんな。


いた! 倒れてやがる。どうにか生きてるかな。


「さてマリー、こいつに見覚えある?」


「ええ、同胞です、でした……」


「マ、マルガレータ……?」


「そうだ、お前は確か……ガブリオーレゲオルギアだったか……くっ、なぜこんなことを……? 人間を何だと思っている……」


「う、うるさい……おもちゃで遊んで……何が悪い……」


ガキかよ。


「もういいや。死ね。あとお前のせいでフェアウェル村は全滅するからよ。あーあ可哀想に。」


「ま……待ってちょうだい……何でもする……から……村には……」


「じゃあ約束だ。俺に絶対服従な。そしたらポーションをくれてやる。」


「は……はいっぁお……」


「マリー! すぐ治療を!」


やっと手に入れた証人だ。殺してたまるか!


「はい! 奥様のところに連れて行きましょう!」


「よし! 乗せて!」


ちなみにこの間にもあちこちから魔法が飛んできているが、全て無視だ。証人は一人いればいい。あいつの相手はこいつを吐かせてからだ。


『こいつを吐かせたら次はフェアウェル村だ! テメーにもう用ねーんだよ! せいぜい逃げて生き延びな! フェアウェル村を滅ぼす前に村長むらおさにテメーの名を伝えてやるよ! テメーのせいで村が滅ぼされるってよ! じゃあな!』


こうして私達は貴重な生き証人を手に入れた。ようやく反撃ができそうだ。単純な奴で助かった。

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