異世界金融

〜 働きたくないカス教師が異世界で金貸しを始めたら無双しそうな件
暮伊豆
暮伊豆

45、青春カース

公開日時: 2020年12月27日(日) 10:29
文字数:2,797

二時間目、算数。

なぜかエロー校長先生がやってきた。


「皆さん、ウネフォレト先生ですが体調を崩したようです。そこで私が授業をいたしますね。かけ算の歌を一緒に歌いましょう。今日は二の段ですね。」


『にいちが二

にんにく四個

にいさん六人

にしから八匹

にごったジュース

にんむは十二時

ニーナは十四歳

ニッパー十六回

にく十八キロム』


ゴロは悪いがメロディーは軽快だ。

意味は分からずとも先に音と言葉を覚えて九九を体に叩き込む、素晴らしい授業だ。


「さあみなさん、数字が二ずつ増えていることが分かりますね?

二の段は二ずつ増える、となると三の段は何ずつ増えるでしょうか? はい、デスノスさん答えてみてください。」


「え、ええっと分かりません……」


「それは残念、ではムリスさん。答えてください。」


「はい、三ずつだと思います。」


「素晴らしい! 正解です。よく分かりましたね。もしかして四の段も分かりますか?」


「はい、やはり四ずつ増えると思います。」


「素晴らしい! そうなんです。かけ算の便利な点は三の段は三ずつ、四の段は四ずつ増えることなのです。これを知っておけば何の段でも分かってしまうのですね。」


聞けば当たり前だとは思うが、これを平民のシルヴィータ・デスノスちゃんにいきなり分かれと言うのは難しいだろう。


そんなことを考えていると……

「マーティン君、他のことを考えていますね!? 三かける八はいくつですか?」


「はい、二十四です。青春です。」


「うん? 正解ですが、青春がどうかしましたか?」


「いえ、何でもありません。なぜか口から出てしまいました。」


「いいでしょう。正解でしたので不問といたしましょう。いいですか皆さん! 青春とは幻想です。生きていてこそ青春を味わえるのです。今を懸命に生きたものにこそ、後からあれが青春だったのだ、と想いを馳せることが許されるのです。

授業に集中しない子に青春を味わう権利はありません! 分かりましたね、マーティン君?」


「は、はい、ごめんなさい。」


やはり私はおかしい。まさか青春病などあるはずないし。

確か厨二病なら聞いたことはあるが、同じ種類なのか?



次はナタリー・ナウム先生の魔法の授業だ。


「今日の授業は変わったコボルト狩りをしましょう。ルールですが、狩人は二人、他全員がコボルトです。そしてボールの代わりに水滴みなしずくを使います。

ただし直接当ててはいけませんよ。頭の上に置くつもりで高い位置に出しましょう。そこから落として当ててください。このルールだと中々当たらないので狩人さん達は色々と工夫をしましょうね。大変ですよ?

では最初の狩人は……マーティン君とダキテーヌ君です。では開始!」


作戦タイムをしようと思ったらもうパスカル君は行ってしまった。

協力しないと難しそうなのに。仕方ない、こちらで勝手に合わせよう。暴走する仲間を陰ながらサポートする、これも青春だな。


パスカル君はフランソワーズちゃんを狙っているようだ。なるほど、彼女を狙えば取り巻きの誰かが勝手に当たりそうだ。では私も同じく狙うとしよう。


やはりか……派閥の人間で密集していたため、私もパスカル君も意外とあっさり交代できた。


次の狩人はフランソワーズちゃんの派閥の下級貴族、シタッパーノ君とテシッタール君だ。


するとどうしたことか、この二人同じ派閥の平民を狙っている。しかもその平民達も避けようとしない。これでは遊びにならないではないか。

そして敢え無く交代々……平民であるイヘンナちゃんと、カソミーン君が狩人となった。


するとまたまたどうしたことか、この二人フランソワーズちゃんの派閥を全然狙わない。

私達五人組かパスカル君達三人組しか狙わないのだ。


それでは当たるはずがない。狙われてるのが分かる上にこの八人は全員貴族、つまり身体能力も魔力も高めなのだ。工夫せずに当てられるほど甘くはないぞ?


結局授業の後半を過ぎても当てることができず、ナウム先生により強制的に終了、狩人交代となった。


何だか後味の悪い授業だったな。お昼ご飯を食べて気をとり直そう。

それもまた青春の一ページに違いない。




やっとお昼ご飯だ。

なんだか一日がすごく長い気がする。そのせいか、いつもよりお腹も減っているように感じるぞ。


「ねえサンドラちゃん? やっぱり今日のカースはおかしいわよね?」


「うん、カース君どうしたの? いつもと違うわよね? やたら会話に『青春』が出てくるわよね。」


「いやー僕もよく分からないんだ。なぜか青春って言葉がやたら響いてしまったんだよね。青春っていい言葉だよねー。今日もお弁当がおいしいよ。」


「そもそもカース君って元から変だし別に問題ないんじゃないかな?」


「えー? セルジュ君!? 僕って元から変なの!? 一体いつから!?」


意外だな。そう思われていたとは。別に肛門魔法がバレたわけでもあるまいに。


「え? 自覚してなかったの? ずっとだよ。杖の代わりに木刀を使ってるし、アレックスちゃんに遠慮なく話しかけるし、パスカル君やエルネスト君にも普通に話しかけるし。

普通僕達みたいな下級貴族だと声なんかかけられないよ? そもそも今では当たり前になってしまったけど、名前で呼ぶなんてあり得ないよ?」


「セ、セルジュ君がまともなことを言ってる……確かにそうだよね。領都や王都、他の貴族領だとまずいよね。

でもここはクタナツだからさ、ここでは生き残った者だけが強者であり仲間だよ? だから貴族だ平民だを考えても意味がないらしいよ?」


「あら、急にまともになったわね。それでこそいつものカースだわ。

確かにセルジュ君の言い分は正しいわ。でもクタナツに限ってはカースが正しいと思うわよ。

私はみんなと友達になれてよかったわ。余計なことを考えずに勉学に励むことができるんですもの。」


「うんうん、いいことだよね。友との会話で自らの欠点を見つけ日々切磋琢磨し、より高みを目指していく。

これも青春だよね。今日の放課後はみんなで夕日に向かって走ろうか。」


「やっぱりおかしいわ! やっぱり『青春』なのね? 青春って一体何なの?」


「いやいやサンドラちゃん。今僕達が会話をしている、これこそが青春なんだよ。自分は変なのか変じゃないのか、どうでもいいことで悩み苦しみ、一喜一憂するわけさ。

そんな出来事の一つ一つが僕らを成長させてくれる青春なのさ。」


「だめだわアレックスちゃん、私も分からない。だからスルーしましょう。

幸いカース君の頭が狂ったわけではないようだから。」


「そうよね! 気にせずお弁当を食べるわよ!

さあカース、この辺が魔境産の素材だからね! 存分に食べていいんだからね!」


うーむ、みんなどうしたんだろう? 私は元からおかしかったのか?

確かに魔法で誰もやらないことをやるし、わざわざ冬に外で風呂に入るし、肛門から魔法を出せるし。


あ、変だわ。変態かも知れない。

くそぅ。

まあいい、自分が人と変わっていることに気付き、さらなる成長に繋げることも青春に違いない。

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