出発の準備を整えるエリザベス達。
スティードはアイリーンを呼びに行った。
アレックスは世話になった部屋を軽く掃除してから外に出かけた。
エリザベスは祖母アンヌロールから何かを受け取っている。
「エリザベス。これが我が家秘蔵のポーションよ。使わなかったら返すのよ?」
「おばあちゃん……ありがとうございます。きっと、カースを助けてみせます!」
「ええ、頼んだわよ。辛い旅になるとは思うけど、無事に帰ってらっしゃい。」
それ以外にも有用そうな物を詰め込むエリザベス。特に食料が重要だ。道中で魔物を狩る時間すら惜しいのだから。
そして昼前。
「初めまして。アイリーン・ド・アイシャブレと申します。大変な状況にもかかわらず領都までお送りいただけるとは恐縮です。」
「初めまして。エリザベス・ド・マーティンよ。過酷な帰り道で悪いわね。魔力も提供してもらうわ。よろしくね。」
「よろしくお願いいたします。」
それからアイリーンはアンヌロールやマルグリットにも挨拶をして昼食となる。
それが済んだらいよいよ領都へ出発だ。
「じゃあおばあちゃん、伯母様。行って参ります。きっとカースを……」
「いってらっしゃい。待ってるわね。」
「帰ってきたら決戦ね。アンリエットを鍛えて待ってるわ。」
「お世話になりました。改めてカースと伺いたいと思います。」
「大変勉強になりました。近衛学院に入学する際にはご挨拶に伺いたいと思います。」
「待ってるわね。アントンにも伝えておくわ。」
「またね。ガスパールとギュスターヴもあれで楽しみにしてるみたいだし。」
「兄上にもくれぐれもよろしくお伝えください。私は、エリザベスは強くなって帰ってくると……」
一行はゼマティス家の馬車で王都の外まで出てから北へと飛び立っていった。
ちなみに役割分担は……
スティードは、近寄る魔物の迎撃。
アイリーンは、風壁。
アレクサンドリーネは、隠形。
そしてエリザベスが浮身と風操である。
もちろんエリザベスが最も苦労していた。重量が増えたため魔力は消費するし、人数が増えたためバランスは取りにくい。おそらく時速三十キロルも出ていないだろう。
救いなのは、王都からフランティア領都までの間には大きい街や村がいくつも存在するため宿には困ることはない。寝床に苦労するのは魔境に入ってからなのだ。
そして四日目の夕方。一行はついに領都へ到着した。
「お姉さん、今回は私達のために寄り道をしていただきまして、ありがとうございます。」
「いいのよ。本当ならもう三週間は早く帰れていたのに。私のせいで悪かったわね。」
「いえ、そんなこと。それよりもうこんな時間ですから領都で一泊されてはどうですか? カースの家がありますよ。」
「あいつ家まで持ってるの!? 生意気な弟。せっかくだから寄ってみようかしら。」
「僕は寮に帰ります。エリザベスお姉さん、今回はありがとうございました! じゃあアレックスちゃん、またね。アル君にも伝えておくから。」
「私までありがとうございました。勉強になりました。ではなアレックス。寮には私から伝えておく。明日は出席するんだろう?」
「うん。二人ともありがとう。明日はちゃんと出席するわ。またね。じゃあお姉さんこちらです。」
「ええ。じゃあね。カースの心配はしなくていいからね。」
貴族街に向かって歩く二人。
「こっちって……思いっきり貴族街じゃない……カースの奴、こんな所によく家なんか買えたわね。」
「金貨五百枚で買う予定だったんですけど、結果的にタダになりました。」
アレクサンドリーネはソルダーヌとのやりとりからダミアンとの一件を掻い摘んで話す。
「あの時の話ね。そんなことになってたのね。バカ三男って聞いてたけどやっぱり噂って当てにならないのね。」
「着きました。ここです。メイドが居たり居なかったりします。」
アレクサンドリーネの魔力で解錠して中へ入る。
すると、そこには……
「だからカースはよぉ、ハハハ……」
「ですから坊ちゃんは、オホホ……」
ダミアンとマーリンが仲良く酒を飲んでいた。
「おかえりなさいませ。お嬢様、とお客様ですね。ようこそお越しくださいました。当家のメイド長マーリン・ヤグモールでございます。」
「おうおかえりアレックスちゃん。ん? さては虐殺エリザベスか?」
「ただいまマーリン、遅くなってしまったわ。こんばんはダミアン様。おヒマそうですね。」
「どうも。カースの姉、エリザベスです。弟がお世話になっているようで。」
「さあさあそれじゃあ夕食にしましょうね! 先にお風呂にされますか?」
「お姉さん、まずはお風呂にどうぞ。その間に私が状況を説明しておきますので。」
「そうね。悪いけどそうさせてもらうわ。」
アレクサンドリーネによってダミアンに状況が説明される。しかし一向に風呂から出てこないエリザベス。心配したアレクサンドリーネによって寝ているところを助けられた。やはり疲れた体にマギトレントの湯船は魔性の風呂らしい。
「カースの奴……そんなことになってんのか……」
「ええ、エリザベスお姉さんも責任を感じてしまわれて……」
「これも因縁か。少し前にカースがぶっ潰した『魔蠍の毒針』の親組織とはな……」
「私には何もできません。カースには置いて行かれるしお姉さんには付いて行けないし……」
「やめやめ。できねぇことを話しても無駄だ。飯にしようぜ。マーリンにも食べてもらおうと思って豪勢な食材を用意したからよ。」
「ダミアン様……そうですね。」
翌朝。アレクサンドリーネはエリザベスを見送ってから学校に行きたかったが、彼女はまだ起きてこない。カースへの手紙を認めてエリザベスの枕元に置いて後ろ髪を引かれながら学校へと向かうのだった。
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