そこらのメイドさんに声をかけて客室へと案内してもらう。いくら勝手知ったると言っても私が知ってるのはダミアンの部屋ぐらいだもんな。
道中でいきなりメイドさんが廊下の端に寄り頭を下げた。前を見ると、辺境伯と数人の男が歩いてきた。私も端に寄る。
「おおカース君。成人おめでとう。ダミアンが無理に呼んだらしいが来てくれてありがとう。」
「とんでもございません。ダミアン様の温情に感謝するのみです。それに閣下からの祝福をいただけるとは光栄です。」
「おや? そちらの女性は?」
「マイコレイジ商会の会長リゼットです。飲み過ぎたようなので客室まで運んでいるところです。」
「そうか。彼女も若くして大商会を継いだ身。色々と苦労はあるだろう。力になってあげるといい。」
「時と場合によってはそんなこともあるかも知れませんね。」
「ふっ、それより例の件を気に留めておいて欲しい。まだまだ動かないが、一度動き出せば何があっても止めるわけにはいかないからな。」
「父上! このような子供にあのことを話されたのですか!」
おや? こいつは誰だ?
「お前は黙っておれ。すまんなカース君、こいつは五男のデルヌモンだ。」
「いえ、お初にお目にかかります。カース・マーティンと申します。」
「デルヌモン・ド・フランティアだ。妾腹のダミアン兄上などに取り入っても意味はないぞ。」
「はぁ、そうなんですか。」
ふーん、ダミアンは妾腹なのね。どうでもいいし。つーか辺境伯ともなると側室や妾の一ダースは居てもおかしくないよな。
「父上、先に行きます。」
「そうか。まあいい。」
つかつかと去っていく五男。色んな息子がいるもんだな。
「すまんなカース君。どうやらあいつは領都を救った君に嫉妬しているらしくてな。あの時、自分が居れば領都を守れたと思っているようだ。」
「はは……それは、すごいですね……」
私より歳上だよな? いつぞやの六男でさえ二つか三つ上だったはずだし。辺境伯も苦労してるのかねー。
「それはともかく例の件、覚えておいてくれ。」
「ええ。手が空いてる時にお手伝いするのはやぶさかではありません。」
ムリーマ山脈貫通トンネルか。この世界でトンネルってどうやって掘るものなんだ? 気が遠くなりそうだ。
ようやく客室へ着いた。相変わらず広い屋敷だわ。リゼットをベッドに寝かせたらメイドさんにお願いだ。
「お手数で悪いんですけど、マイコレイジ商会の方を呼んでいただけないですか? たぶんダンスホールとか馬車周辺にいるはずなんです。」
「かしこまりました」
さすがに寝かせたままで戻るわけにはいかない。引き継いでおかないとな。
錬魔循環をしながら待っていると、先ほどのメイドさんに連れられて二人の男女がやってきた。
「会長秘書のミゲール・バラモランと申します。」
「護衛のジャンヌ・イエゴです。」
男の方が秘書なのね。真面目そう。
「どうも。カース・マーティンです。急遽会長が倒れたので、ここに運びました。では僕はこれにて。」
「お待ちください。お酒に強い会長がなぜ倒れたか、お心当たりはございませんか?」
秘書が食いついてくるな。うーん、面倒だが事実を教えてやるかな。
「少し取り乱していたようでしてね。飲んではいけない酒を飲んでしまったんです。隠しておいたのに。さすがに腕利きの商人は違いますね。」
「それは一体どのような?」
「酒とは名ばかりのポーションですかね。起きたらかなり元気になっていると思います。では僕はこれで。」
「ジャンヌ。」
秘書が護衛の女に声をかけた。
「分かっている。マーティン様、そのポーションを確かめさせてもらって構いませんね?」
「ふぅん、そう来たか。なら仕方ないな。付いて来るといい。」
私が疑われてんのかよ。これでもマイコレイジ商会のお得意様だぞ? まあ後ろ暗いことなんかないからいいけどさ。護衛のジャンヌを連れて会場に戻るとしよう。またまだ飲むんだし。
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