翌朝、起こしに来たのはラグナだった。こいつは伯父さん付きの副メイド長だったが昨日から私のメイドだ。楽園でも家賃の取り立てなんかも任せられそうだな。余分に取り立てて私服を肥やしたり、冒険者を相手に賭場を開帳したりしそうだな。構わないけどね。負けが込んだ奴には私が金を貸せばバッチリだな。悪徳の街が出来てしまうか……ほどほどにしよう。
「ねぇボスぅ、お願いがあるんだよぉ。聞いちゃあくれないかぃ?」
「聞くだけな。叶えるかどうかは知らんが。」
朝から何事だ?
「鴉金のシンバリーって覚えてないかぃ?」
「もちろん覚えてるが。」
人の顔や名前を覚えるのが苦手な私でもあいつは忘れてない。体をぶち切っても魔力がある限り再生する個人魔法って……しぶとい奴だったなあ。
「助けてやっておくれよぉ。」
「助ける? どうやって?」
「そんなのボスがお偉いさんに口を利いてくれたら即刻解放だろうさ。」
どこかの鉱山で労役中だったな。当時は許せんと思ったが、偽勇者の依頼で動いたって話だったな。そもそも命令を出したのもラグナか。シンバリーには少し同情してしまうな。しかし、それならば順番が違うってもんだ。
「なぜ奴を解放して欲しいんだ?」
確かニコニコ商会の幹部はほとんどフェルナンド先生に斬られてしまったらしいもんな。数少ない生き残りってことになるのか。
「行ったことがないから分かんなぃんだがねぇ、楽園ってのは陸の孤島みたいな場所なんだろぅ? そこにアタシ一人ってのはねぇ? いくら何でも寂しいさぁ。特に体がねぇ。」
あー、セグノは行かないもんな。そりゃあ寂しいか。
「冒険者が結構来るようになったから男には不自由しないと思うぞ?」
「さすがにそれは勘弁しておくれよぉ。アタシだって男なら誰でもいいってわけじゃないのさぁ。シンバリーはアタシが目ぇかけて育てた男だからねぇ。」
「ふぅむ、話は分かった。約束はしないが条件が揃えば聞くだけ聞いてみてやるよ。」
「ありがとぅボスぅ。ボスがアタシの相手をしてくれるってんならいいんだけど、そうはいかないんだろぅ?」
「当たり前だ。まあ期待しないで待ってろ。」
サンドラちゃんのパパだってシンバリーと同じように鉱山で奴隷として労役してるんだからな。ママの方は草原の街、ソルサリエの方だったな。確かそろそろ解放されてもいい頃のはずだが。とりあえずサンドラちゃんに相談してからだな。
「どうするつもりなの? 助けてあげるの?」
「どうかな? サンドラちゃん次第だと思うよ。僕としてはどうでもいいかな。例え助けたとしてもシンバリーにはキツい生活をしてもらうだろうけどね。」
契約魔法で模範的真人間な生活でもさせてやろうかね。
「そうね。サンドラちゃんのご両親だって巻き込まれた被害者と言えなくもないものね。」
「それから金庫番の騎士もいたかな。合わせて相談するだけしてみるよ。」
信頼の厚いはずの金庫番の騎士が横領の片棒を担いだんだもんな。
朝食を済ませてアレクと王城へ。カムイも連れて行く。今日の門番さんは知らない人だな。
「おはようございます。カース・ド・マーティンと申します。国王陛下か側近の方にお目通りをお願いできますか? お届け物がありまして。」
「お、お待ちください!」
よかった。ガキが朝から何バカなこと言ってんだ? なんて言われなくてよかった。
案内されたのは何回か来た覚えのある応接室。すでにお茶と菓子が用意されている。三人分だ。カムイってお茶も器用に飲むんだよな。コーちゃんもだけど。
待つこと十五分。見覚えのある側近さんが現れた。いきなり来たのに悪いね。
「お待たせしました。マルチノ・ド・ダンバルです。何かお届け物があるとか?」
「急なことに対応していただきありがとうございます。カース・ド・マーティンです。」
「アレクサンドリーネ・ド・アレクサンドルでございます。」
「ガウガウ」
村長からの手紙を手渡した。
「これは私が見てもいいものですか?」
「どうでしょう? ご判断はお任せいたします。僕は陛下からの手紙の内容を知りませんし、それについても知りませんので。」
「そうですか。わざわざありがとうございました。ところで明日の慰霊祭ですが、軽く打ち合わせをしておきたいのですが、九時にはコロシアムに着いておいていただけないですか?」
「いいですよ。了解いたしました。妹や母もいた方がいいですか?」
「いえ、カース殿だけで結構です。もちろんアレクサンドリーネ嬢の同席は構いません。」
「分かりました。ではまた明日、よろしくお願いします。」
「ご面倒をおかけしますが、よろしくお願いいたします。カース殿がいなければ始まりませんので。」
確かに面倒だ。しかしこれぐらいは仕方ないだろう。貴族の義務か。
さて、帰ろう。事件の真相など聞きたいことはあるがまたでいい。残り少ない夏休みにそんな話など聞きたくもない。さあ海だ海。
ラグナ・キャノンボール©️オムライスオオモリ氏
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