異世界金融

〜 働きたくないカス教師が異世界で金貸しを始めたら無双しそうな件
暮伊豆
暮伊豆

224、ダミアンとイザベル

公開日時: 2021年6月11日(金) 10:13
文字数:2,611

まだ日没ではないが、少し早めに帰宅した。

マジでダミアンの奴は来るのか、などと考えていたら……もう来ていた。このやろう……


「いやー旦那が自慢するだけありますわ! 奥さん美人すぎるでしょ!」


「うふふ、嫌ね。私もうすぐ四十歳なのよ?」


「いやいや看板女優なんてレベルじゃないですよ!? 何でそんなに綺麗なんすか!?」


なんだこいつ? 母上を口説いてんのか?


「ただいま。変な奴が来てるね。早く帰ればいいのにね。」


「おうカース。帰ってきたかよ。お前のお母様って凄ぇーな!」


「おかえり。いいじゃない、正直な男性は嫌いじゃないわよ。」


確かに母上の美貌を看板女優ごときと一緒にしないのは褒めてやる。


「勘定は足りたのか? 相当高くついたんじゃないの?」


「くっ、足りるわけねーだろ! どいつもこいつも容赦なく飲みやがってよ! 貸してくれるんだろうな? 金貨百六十枚だ。何でこんな辺境のギルドに魔法酒が置いてあんだよ! 足りるわけねーだろ!」


おお、噂の魔法酒か。いつか飲んでみたいものだ。


「いいぜ、約束だしな。ちなみにトイチの複利な。領都のギルドに返済しろよ。契約魔法をかけるから逃げられんぞ? いいな?」


「おお、借りてやるっぐぉ…… 昨日の契約魔法より魔力がキツくないか……? まあいい。これで大手を振って領都に帰れるぜ。」


当たり前だ。私は金貸しだからな。絶対破れんよう魔力を強めに込めたんだ。まあもし破ったら辺境伯邸を灰にしてやろう。


「しばらく滞納してていいぞ。どこまで金額が膨れ上がるか楽しみだからな。ところで春ごろそっちに行くけど余計なことすんなよ。」


「俺達は友達だろ? つれないこと言うもんじゃねーぜ? 旨いミルクセーキを飲ませてやるからよ。では奥さん、お邪魔しました。もし劇団に興味がありましたら言ってくださいね。」


「まあダミアンちゃんたら。気が向いたらお願いするかもね。それまで死なないでね。」


こうしてダミアンは夕食前に帰っていった。夕食ぐらい食べていけばいいものを。忙しない奴だ。


それにしても不思議な奴だった。あれだけムカついたのにコロッと許してしまうなんて。その上、あの彫刻の腕前ときたら……アレクのミスリル像をお願いしたいな……だめなら石像でもいい。奴が春になっても借金を返済し終えてないなら頼むのもアリだな。


案外父上も同じことを考えてるかも知れないな。黄金の母上像……とか?





こうして一触即発だった領都との関係は一旦は沈静化しクタナツに平和が訪れたのだった。

そして代官はサヌミチアニに第二騎士団から百名、魔法部隊から二十名を派遣した。




そして三週間後。


全滅の知らせが届いた。







その知らせはクタナツを震撼させた。


辺境のみならず、王国にて最強と謳われるクタナツ騎士団の部隊が全滅したのだ。生き残ることを何より重視する騎士達が数人しか帰ってこれなかったのだ。

確かに今回の部隊は最精鋭ではない。経験を積ませるための遠征に近いものであり、平均年齢も二十代前半と若者が中心となっていた。それでも辺境の厳しい環境、強力な魔物を相手に生き延びてきた者達だ。


その上、全滅の報から遅れること三日。サヌミチアニがローランド王国から独立を宣言したとの知らせが入った。


再び戦乱の時代が始まってしまうのだろうか。



代官府では……


「騎士長よ、どう考える? 将来ある若手を全滅させられたことは痛い。だが領都騎士団が本気になったらサヌミチアニなどひとたまりもない。それなのにわざわざ独立を宣言したた意図は……解せぬ。」


「私もです。何らかの罠にかけて全滅させたのでしょうが、そのようなものが何回も通用するはすがありませんし。」


「ふむ、尤もだ。まずは辺境伯殿のお手並み拝見となるが、クタナツとしても黙ってはおれん。報復が必要だ。サヌミチアニにではなく、ヤコビニ派にだ。」


「御意。暗殺者でも送り込みますか?」


「うむ。それもだが、賞金をかける。奴らの首魁ヤコビニ・ド・アジャーニを始め子や孫に至るまで全員だ。全面戦争になるな。南の領境りょうざかいを固めねばなるまい。」


「御意。私は攻め込むことは反対ですが、敵を誘き寄せるのならば賛成です。あやつらが激昂してクタナツまで攻め込んでくるといいですな。」




その日の昼にはクタナツ中に布告が出された。


『指名手配

以下の者を捕らえたる場合、賞金、地位、領地いずれかを与えん。生死は問わない。

・ヤコビニ・ド・アジャーニ 白金貨十枚または男爵位またはバランタウン

・子世代 白金貨一枚または騎士爵位または辺境の村

・孫世代 生け捕りのみ 大金貨五枚

・サヌミチアニ占領軍幹部 大金貨一枚』


なお金貨百枚で大金貨一枚、大金貨十枚で白金貨一枚である。




ギルドでは。


「おい聞いたかよ! 盆暗貴族をぶち殺して貴族になれるぜ!」

「おおチャンスだな! 早い者勝ちだがよ!」

「暗殺者もかなり放たれるらしいな」

「マジかよ! やばいな!」

「そもそもどこに居るんだよ?」

「そんなもんアブハイン川の流域じゃねーの?」

「広すぎんだろ!」

「俺ぁサヌミチアニを狙うぜ」

「俺はヤコビニだな。どうせあっちに用があるからよ」

「まあよー、あいつら前からクタナツを舐めてやがんだよな。こいつぁメチャ許せんよなぁ」

「おお、ぶっ潰しくれてやろうぜ」





そしてカースは自宅にて。


「オディ兄達のパーティーはヤコビニ派を狙ったりする?」


「いやいや、しないよ!? そんな大それたことしないよ! 命がいくつあっても足りないよ!」


「そっか。しないんだ。居場所が分かれば簡単に捕まえられそうだと思ったけど。難しいね。」


「はっはっは。カースらしいね。でも一体どこにいるんだろうね。」


白金貨十枚なんてゲットしたら確実に一生働かなくて済む。濡れ手で粟の大金を狙うのも当然だ。スパラッシュさんに相談してみよう。あの人なら何か知ってるかも知れない。


「ちょっとギルドに行ってくるね。」





そしてギルドに来た私はスパラッシュさんを探す。今日の夜は立ち寄ると聞いていたのだが……いた!


「スパラッシュさーん! 相談があるんだよー!」


「おお坊ちゃん。こんな時間にどうしやした?」


「例のあれ。ヤコビニを狙いたいんだけど居場所とか知らない?」


「坊ちゃん……よく言いなすった。実はあっしも最後の仕事に相応しいんじゃないかと狙うつもりだったんでさぁ。坊ちゃんとなら百人力ですぜ!」


やった! スパラッシュさんと組めば間違いない! やってやるぜ。散々悩まされたストレス解消と働かない人生のための犠牲になってもらおう。

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