「次はあっしでさぁ。」
スパラッシュさんまで来てくれたのか。かなり嬉しい。
「いきますぜ。」
痛っ! 手首に何か刺さってる!?
「油断してちゃあダメですぜ。」
痛いっ! 次々と手首や顔の周辺に何かが刺さっていく。この服がエビルパイソンロード製だと見破っているのか……
何かを投げているんだろうけど全然見えない!
しかも刺さった所がどんどん痛くなる。これが毒針スパラッシュの所以なのか?
せめて近付ければ……
目にさえ食らわなければいい。腕で目をガードしながら……
「迂闊に近寄ったら危ないですぜ。」
ぐっ、左足の大腿部を刺された! これは短剣か!?
熱っ! 痛いと言うより熱い! 叫んでしまいそうだっ。エビルパイソンロードの革なのにお構いなしに突き通されてしまった……くっそ、痛いすぎる……
「ここまでですかい? 」
何てこった……手も足も出なかった……いいようにやられてしまった……
「スパラッシュさん、今日はわざわざありがとうございます。さあさあ中でたっぷり飲んで行ってくださいな。」
「奥様、いつもありがとうごせえやす。存分に飲ませていただきやす。」
「さあカース、次よ。いい所を見せてくれないと治してあげないわよ?」
「お、押忍……」
大腿部の傷が痛くなってきた。血も結構滴っている……他の何かが刺さった所も熱を持っているようだ。でも意識ははっきりしているぞ。次はだれだー!
「……久しぶりだな。」
「だれ……お客様! 剣鬼ダッサルさん!?」
「お前をぶちのめしたら金貨十枚だからよ。悪く思うなよ。」
げっ、真剣じゃないか! こんなの誰が連れて来たんだよ!
いや、私の虎徹のほうが余程凶器だ。真剣だろうがブチ折ってやる。
奴は上段から切り掛かってきた。私は左足を一歩後退させ、躱し様に虎徹を叩き込む。ゴツンと頭に当たり終了。対戦相手の落差が激しすぎる。なぜこんなに弱い奴が?
それよりもう終わりなのか?
「よく頑張ったわね。治してあげるわ。」
「あー母上ありがとう。これは何だったの?」
「うふふ。 誕生日のお祝いよ。カースのためにあれだけの人達が来てくれたのよ? 負けっぱなしだと可哀想だからサービス用の人もいるわね。」
はぁ、それは嬉しいけど……言ってくれたら勝てないまでも装備ぐらい整えたのに。
はっ! 違う! この考え方がだめなんだ! 世の中は常在戦場。お祝いだからと油断した私が間抜けなのだ。
ならば、魔力庫の活用をもう少し何とかできないだろうか? それこそ以前はできなかった、一瞬で着替えるやつ……
できそうな気はするんだがなー。
それからも対戦は続き、ギルドで見覚えはあるけどよく知らない人や受付のお姉さんまで色々だった。どうやらダッサルさん同様、私を倒したら金貨十枚らしかった。
スパラッシュさんを始め一流の人達がギルドの依頼でもないのに、たかが金貨十枚で動くはずがない。そんな人達がわざわざ来てくれて本当に嬉しい。少し泣きそうになった。
結局対戦成績は十二勝四敗。最初の四人が強過ぎだったのだ。そして私は母上に言われるがまま道場内に入った。
道場内には『カース十歳おめでとう』と横断幕が張ってあった。やばい、またしても泣きそうだ……
しかもアレクが花束を持っている。
「カース、十歳おめでとう。ちゃんと見てたわよ。よく頑張ったわね。」
だめだ、もう我慢できない。
涙が零れ落ちてしまった。
「もう、相変わらずカースは泣き虫なんだから。」
アレクは花束ごと私を抱擁してくれた。ますます泣けるじゃないか。
道場内の二十人ぐらい全員が私を暖かい目で見てくれている。何てありがたいんだ。
そこに遅れて登場したのは……
「カース! 十歳おめでとう! これを使ったらもう迷子にならないよ!」
オディ兄だった。何やらプレゼントを用意してくれたのか。ありがたいなぁ。
「オディ兄ぃ〜。うう、ありがと〜。嬉しいよぉ〜。」
恥ずかしいが嬉しすぎて声にならない。
これは何だ?
「これはね、常にクタナツを指し示す羅針盤なんだよ。」
何だと!?
「カースはどこにでも行ってしまうからね。これがあればどこに行ってもクタナツに戻って来れるよ。」
すごい!? もう絶対迷わないぞ!
「オディ兄ぃぃぃぃ〜!」
何て弟愛に溢れた兄なんだぁぁぁぁー!
もう涙を止めることなどできないっ!
ん!? これほどの性能を持った魔道具?
「ぐすっ、母上……これって相当高性能なんじゃ……?」
「うふふ、カースには分かってしまうのね。かなりの高性能よ。一体どんな魔法工学士にいくらで依頼したのかしらね。」
魔法工学士!? 魔法工学博士とは違うのか!? 他にどんな物を作ってもらえるのだろう?
そんなことよりオディ兄の気持ちが嬉しすぎる。一体どれだけ費用がかかったんだ!?
「さあさあ皆さん、どんどん飲んで下さいね。お酒はたくさんありますからね。」
母上の一言で道場内は飲めや歌えやの大騒ぎとなった。私に酒のことは分からないが、美味しそうな酒がたくさん見える。見た目的にあれは蒸留酒ではないのか? くっ、飲みたいぜ。
キアラはもう寝ているし、コーちゃんはピュイピュイ言いながら父上達とお酒を飲んでいる。羨ましい……
結局この夜、皆さんはどこまでも飲み続けたらしい。私はアレク達と輪になってご馳走を堪能していた。幸せすぎる。なぜこんなにも良くしてもらえるんだ!?
あまりに嬉しかったので、魔力庫から汚銀を取り出してお揃いのバングルを五つ作ってみた。ほんの少しだけ残してたやつだ。
「これに魔力を込めておくと、いざという時に魔力不足で困らないよ。」
四人とも喜んでくれたようだ。手首や足首など思い思いの場所に付けてくれた。また泣きそうだ。
こうして誕生日の夜は過ぎていった。私もアレクもいつの間にか道場の隅で寝ていたようだ。
朝起きてみると、道場の中は荒れ放題だった。きっと皆さん思うがままに暴れたのだろう。あれほど一流の人間が揃っていたのだ、アッカーマン先生やフェルナンド先生を目の前にして我慢できるはずがないだろう。現場を見たかったが……
父上やアッカーマン先生、フェルナンド先生そしてコーちゃんはまだ楽しそうに飲んでいる。その上アステロイドさん達が撃沈している所から察するに……そういうことなのだろう。
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