昼になってもコーちゃんが帰ってこない。仕方がないから私は一人で辺境伯邸に行ってみた。サンドラちゃん達来客を放っておくわけにはいかないので、アレクを置いて一人で来たのだ。
ダミアンは不在。そりゃそうだろうけどさ。セバスティアーノさんも不在。苦肉の策でダミアンが行きそうな店を何軒か教えてもらった。
まずは一軒目。領都でも中心部に近い、高そうな店。あいつがこんな店にいるかあ?
お客様の情報を漏らすことはありませんだと。そりゃそうだ。仕方ないから私の身分証を見せて伝言だけ頼んでおいた。店員は顔面蒼白になってたな。
二軒目。いつだったかエリザベス姉上とも行ったギルド付近の汚い焼肉屋。一目でいないと分かった。
三軒目。段々と場末に近付いたな。定食屋兼飲み屋ってとこか?
ヒット! 朝方までいたらしい!
四軒目。聞いたのはここまでだ。ここにいなければ帰りを待つしかないな。
いつだったかダミアンと手本引きをしに来た所だ。今は……これ何屋だ?
「こんにちは。」
「……何用で?」
「えーと、僕はカース・ド・マーティン。ダミアンいる?」
「……ダミアン様に何用で?」
「いや、正確にはダミアンに用はないかな。ダミアンが連れてる蛇ちゃんに用がある。ここにいる?」
「……こちらへ……」
無愛想だな。闇ギルド系か?
「おっしゃぁー! スイチで当てたぜぇ!」
「ピュイピュイ」
「何やってんだ?」
「おおカースか。よくここが分かったな。オメーもやるか?」
「いや、コーちゃんを呼びに来たんだよ。王都に行くからさ。」
「おお、そういやそうだったな。もうそんな時間かよ。じゃなあコーちゃん、また飲もうぜ!」
「ピュイピュイ」
「それから大会だけどさ、もう金を出さなくてもいいだろ? 賞金払ってもバッチリ儲かるよな?」
「おう、問題ねーぜ! せいぜい稼がせてもらうからよ!」
私としては、もはやアレクに近寄る男がいないのなら開催する必要などないのだが。まあダミアンが儲かるのならいいだろう。
「じゃあまたな。あ、そうそう。今だいぶ勝ってんだろ? そろそろやめといた方がいいぜ?」
「バカ言ってんなよ! 勝負はこれからだぜ!」
「ピュイピュイ」
バカめ。こいつ実力で勝ったとでも思っているのか? コーちゃんは『フォーチュンスネイク』だぞ?
酒を飲ませてくれたお礼に勝たせてあげたって言ってる。コーちゃんはすごいね!
「まあ、金に困ったら貸してやるよ。またな。」
「おう!」
手本引きやりたかったなぁ。でも私ってあんまり強くないしなぁ。また来よう。コーちゃん帰ろうね。
「ピュイピュイ」
ダミアンの負けっぷりを少し見たかったな。
それにしてもこの辺りの治安が良くなってる気がする。前回は結構絡まれたはずだが、今日はゼロ。建物も多少きれいになってるような。
おや、見覚えのある兄さん方がいるじゃないか。
「こんにちは。いつぞやは道案内をありがとうございました。」
「オメー、もしかして魔王か?」
「マジで!?」
「俺らぁ魔王の道案内したんかよ!?」
「あら、俺のこと知ってんのね。なら忠告、今ダミアンが手本引きやってるけど大負けしないうちにやめさせた方がいいよ。」
「なぜ俺らがダミアン様の仲間だと知っている?」
「マジで!?」
「俺らぁ任侠ダミネイト一家だぜ!?」
「だからだよ。ダミネイト一家にはダミアンの息がかかってんだよな? よそから入り込んだ闇ギルド連中を領都から叩き出したって聞いたぞ?」
まあダミアンならいくら負けても問題ないよな。
「オメーはダミアン様の何だ?」
「ダチに決まってる。」
さすがにそれは即答だ。
「ピュイピュイ」
「この子も友達だと言ってるぜ。」
精霊に好かれるダメ人間。あいつやるなぁ。
「それならダミアン様を助けてくれや……」
「マジだぜ!」
「俺らぁだけじゃ手が足りねぇ!」
おいおい、一体何事だ?
「事情によるが?」
「命を狙われてんだよ! それも王都から脱出した一流どころによぉ!」
「マジなんだぜ!」
「分かった。詳しくはまた聞かせてもらおう。今日はだめだ。来月頭には戻ってくるからその時だ。」
「ちっ、それまでは俺らで何とかするしかねぇか……」
「そうしてくれ。ダミアンは五等星バーンズさんとも仲がいいはずだからさ、そっちにも当たってみるといい。」
「そうかよ、ありがとよぉ……」
あっちもこっちも問題だらけじゃないか。それにしても一流の殺し屋ってどんな奴なんだろ。魔蠍のアンタレスや、うちのラグナは強いけど殺し屋って感じじゃないよな。現役時代は知らないがスパラッシュさんみたいな感じだろうか。うだつの上がらない、小物のふりをして近付いてスパッと……
母上も一流の殺し屋は厄介だって言ってたな。ダミアンなんか狙っても割に合わないと思うが……まあいいや、夏休みが終わってから考えよう。宿題がどんどん溜まっていく気分だが……
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