国王との面会後、部屋に戻った私は二人にも明日の動きを説明した。
「そうか。お前がそのことを分かってるんならそれでいい。」
アステロイドさんが言っているのは、もしクタナツ者に一度でも人質が効いたと知られたら、同じことが二度三度と起こりかねないことだ。今後の被害がより拡大してしまうことは目に見えてしまう。
「騎士長になるほどの人ならとっくに覚悟も決まってるだろうしね。」
普段はどこまでも優しいオディ兄もやっぱりクタナツ者なんだよな。
「じゃあ、明日の動きはそんな感じで。」
「おう!」
「ああ!」
私はえらく自然に仕切ってしまってるな。まあいいか。夜襲もあったし明日は早起きだし、二度寝と昼寝しておいてよかった。
早朝、外がかすかに明るくなりかけている頃、私達三人は同時に目を覚ました。
「お前達も戦場の匂いを感じるようになったか。俺の若い頃とは大違いだ。」
「おはようございます。なぜか目が覚めてしまったんです。」
オディ兄もうんうんと頷いている。
「この空気は敵方にも伝わってるだろうぜ。注意しときな。」
「「押忍!」」
やはりアステロイドさんは頼りになるな。
メイドさんが呼びに来たのはそれから三分後だった。さて、行くか。
案内されたのは中庭。ここから攻め込むというわけだな。
集まっているのは、近衛騎士、そして宮廷魔導士……いずれも一騎当千の強者達。合わせて二百人もいないのに王国騎士団の大軍と渡り合っていたんだな。
「来たか……アステロイド、オディロン、そしてカースよ! お前達の奮闘に期待しているぞ!」
「「「押忍!」」」
「皆の者! 手筈は説明した通りだ! カースが騎士団本部を潰すまで気配を殺して待機! 建物の倒壊を確認後、速やかに包囲せよ!」
全員が静かに頷いた。
それにしてもこれだけのメンツを前に私が一番槍か。少し緊張するな。
「では、お先に。」
今回はミスリルボードではなく鉄スノボを使用する。別になくてもいいのだが、何かに乗っていた方が空中で落ち着くんだよな。
王国騎士団本部……おじいちゃんと騎士長の部屋にも行ったなぁ。ごめんよセロニアス騎士長……
『氷壁』
『重圧』
建物の敷地と等しい面積の氷壁。高さは結界魔方陣に触れるか触れないかギリギリまで。そんな超重量の氷の塊を建物の上に作り、落ちる勢いに合わせて重圧を使う。
石造りの建物はそれでも倒壊することなく持ちこたえている。
ちっ、反撃が来た! アステロイドさんの言う通りか。
しかしそんなの無視だ。そのまま潰れてしまえ!前からも横からも崩してやるよ!
『氷塊弾』
縦横無尽に撃ちまくる。
何人かは建物から退避するが遅い! 超重量がのしかかってるんだ。どこか一ヶ所でも崩れたら後は雪崩式だ。岩と岩がぶつかり合い、どこか不安になるような鈍い音をあげて……騎士団本部は、崩れ落ちた。
『狙撃』
ついでだから退避した奴らも始末しておこう。
「行けい! 囲め!」
国王の号令がかかる。
「囲んだからとて油断するな! 奴らの鎧なら潰れずに生き残っているやも知れぬ!」
あり得る話だ。せっかくなので私はこのまま上から全体を見ておこう。潰れた建物から這い出す白いゴキブリどもの姿を……
五分が経過した。だが動きはない。全滅したのか? まさかな……
「宮廷魔導士達よ! 瓦礫を撤去せよ!」
国王の号令のもと『浮身』により次々と瓦礫が撤去される。ポツポツと白い奴らの死体が出てくる。さすがに一般の狂信者は即死だよな。白い鎧も何人か死体で発見された。鎧は少ししかへこんでないが、死んでいるようだ。氷壁、氷塊弾に衝撃貫通を乗せていたからな。あれだけの超重量、その衝撃たるやいかなるものか。
それでも白い鎧は全滅とはいかず、およそ半数は生き残っている。抵抗の意志を見せた者は即座に殺されている。武器を捨てた者はロープと首輪にて拘束されるだけで済んでいる。
そして一時間後。瓦礫はある程度は撤去された。
そこで分かったことは、地下まで潰れていたことだ……やはりセロニアス騎士長の生存は……
さらに一時間後。地下にまで及んだ瓦礫も撤去された。
おかしい……白い鎧や狂信者の死体は見つかるが、幹部らしき服装の奴らと紫の鎧が見つからない。これだけ広い王城なのだ。騎士団本部以外にアジトがあっても不思議ではないが……
そして、セロニアス騎士長とその部下達は……無残な遺体となって発見された。
私が殺したのだ……おじいちゃんの友人とその部下達を……
その後、宮廷魔導士が捜査したのだが、抜け道の類は発見されなかった。つまり残党はまだ王城内のどこかに潜んでいる……始めから騎士団本部にはいなかったってことか……
死者……
狂信者、五百十七名。
白い鎧、四十八名。
王国騎士、千二百五名。
騎士長と直属の部下、十三名。
捕らえられていた近衛騎士、四名。
生存者……
狂信者、無し。
白い鎧、四十三名。
王国騎士、無し。
騎士長と直属の部下、無し。
捕らえられていた近衛騎士、無し。
なお、生き残った白い鎧の中に、第三騎士団長フュイーテ・ド・プルーイエがいた。私が司教ザガートを引き渡した相手だった……
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