異世界金融

〜 働きたくないカス教師が異世界で金貸しを始めたら無双しそうな件
暮伊豆
暮伊豆

190、ギロチンの実験

公開日時: 2021年5月8日(土) 10:30
文字数:2,426

そして放課後、ギルドにて。

果たしてスパラッシュさんはいるのだろうか……


いないようだ。受付に伝言を残して訓練場にでも行ってよう。

アレクと水球キャッチボールでもして遊んでよう。




二十分もしないうちにスパラッシュさんがやって来た。


「いやー坊ちゃん、すいやせん。お待たせしちまったようで。」


「いやいやいいんだよ。こちらこそ計画が遅くなってごめんね。今週末行ける?」


「バッチリ行けやすぜ。ではデメテの日、日の出時に北の城門にいたしやしょう。」


明日には研ぎも終わるし、楽しみだ。

でもノワールフォレストの森か……

フェルナンド先生でもエルダーエボニーエントに苦戦したんだよな、まあ早々出会うこともないか。


「ちゃんと帰ってきてね。スパラッシュさんも。」


アレクが心配してくれてる。嬉しい。


「スパラッシュさんがいるから大丈夫だと思うよ。危ない所だからドキドキだけどね。」


「精一杯お務めしやすぜ。では週末に。」


本当にドキドキする。

あんな危険そうな所に湯船を作るためなんかで行くなんて。酔狂が過ぎるのか?


一応攻略法などは集めてある。予想外のことが起きなければいいのだが。


大まかな流れは……


一、到着前にミスリルギロチンに『魔切』をしっかりとかけておく。

二、見つけ次第速やかに切断。もしギロチン側で切れなければ地道にミスリルノコギリ側でゴリゴリ切り倒す。

三、何本必要になるか分からないので、最低三本はゲットする。

四、急いで帰る。


こんな感じだ。

ギロチンが研ぎから帰ってきたらどこかの森で実験はしてみるつもりだが、聞くところに寄るとミスリルの剣の切れ味は想像を絶するらしい。それに『魔切』をしっかりかけておけば直径二メイルぐらいのマギトレントならスパッと切れるそうだ。


達人が振るう剣と私が金操で動かすギロチンでは、運動エネルギーならギロチンの圧勝のはずだ。だから案外スパッと切れるのではないだろうか。

ミスリルは軽いので運動エネルギーはそこまでではないかも知れないが、その分速度を上げることができる。まずは実験を楽しみにしておこう。さっそく明日だな。






週末前、ケルニャの日の放課後。

私とアレクはクタナツとタティーシャ村の中間辺りの森に来ていた。

以前トビクラーを狩った辺りだ。


「よーし到着。ではやってみるよ。」


ちなみに前回灰にした場所は見当たらない。もう回復したのかな?


クタナツを出発する際に『魔切』はかけてある。目標は目の前の大木。トレントでも何でもない、普通の木だ。実験台にして申し訳ないけどね。


太さは直径二メイル。高さは二十メイルぐらいかな。真っ直ぐな杉のような木だ。


では早速。根元を目掛けて……


『金操』


何だこれ……

スムーズ過ぎる……

何の抵抗も無かったぞ?

木の重みに挟まれる前に抜けたと考えればいいのか?

普通は有り得ないがミスリルだしな。


やがて風が吹き、切られたことを思い出したかのように木は倒れた。

刃渡りが二メイルもないのに……

魔法がすごいのか、ミスリルがすごいのか……両方だろうな。


「すごいのね。あっさりと。これってミスリルが凄いだけじゃないわよ。カースの金操の速度と角度の正確さも関係してるわね。」


「ああ、ありがとう。びっくりしたよ。」


せっかく倒したのだから持って帰ろう。軽く枝を刎ねてから収納。


「こんな木って売れるかな?」


「さあ? 燃料ぐらいにはなるんじゃない? もしくは真っ直ぐだし建築にも使えたりするのかしら?」


「そうかもね。よし、次行くよ。」


今度は直径四メイルの木を狙う。これは檜に近いのかな。少し堅そうだ。

先ほど学んだことだが、先に枝を刎ねておいた方がいいな。倒れた木の枝に近付くのは危ない。


『金操』


やはりスパっと切れる。しかしこの太さを一回で切り倒すのは無理だ。


ならば木樵方式、受け口を作る!

地方によってはコマとも言われているやつだ。


先ほど水平に切ったので、そこに合わせて斜めにギロチンを入れる。すると『ム』や右に傾けた『レ』の字のような受け口ができる。

後はその反対側のやや上部を切ってやれば、受け口側に倒れるって寸法だ。

本来なら追い口を作って地道に倒すのだが。


これは恐ろしい武器を手に入れてしまった。マジでギロチン、いやそれ以上だ。マギトレントのことしか考えてなかったが、すごいことになりそうだ。


一応ノコギリも実験しておこう。


先ほどと同じような直径四メイルの檜だ。

まずは水平に動かす。このサイズの木をノコギリで倒すなんて正気とは思えないが、ノコギリのサイズも正気ではない。

また本物のノコギリと違って厚みがあるため三割も切り込まないうちに木の重みがかかってきてノコギリが動きにくくなった。

仕方ない、色んな方向からノコギリでゴリゴリ行こう。

ノコギリの刃が木屑を掻き出す角度になってないので、結構大変だ。ただの四角錐だもんな。

改良が必要か、難しそうだなー。


やがて木は自重で最初に切った方向に倒れた。残念ながら切り口はかなり汚いし、だいぶ割れてしまった。しかし実験は成功。

もしもギロチンが効かない木があれば地道にノコギリで倒してくれよう。

金操でノコギリの動きをするのは結構大変だったので、なるべくやりたくはないが。

それにしても大木が勢い良く倒れてくる様は迫力があるな。少し怖いぐらいだ。


さて、合計三本の木を持って帰ろう。

売れるのか?


「お待たせ。上手くいってよかったよ。帰ってタエ・アンティでも行こうよ。」


「ええ、いいものを見せてもらったわ。木ってああやって倒すものなのね。」


「達人はぴったり狙った所に倒せるらしいよ。僕は適当。アレクのいない方に倒すのが精一杯だよ。」


「カースったら……」




ちなみに木は檜タイプが良い値で売れた。

家具を作るのに需要があるらしい。一本金貨四枚。

杉タイプはお情けで銀貨一枚。アレクの読み通り燃料になるらしい。


なおギロチンのメンテナンスをしようとしてみたら刃が少しも欠けてなかった。それどころか、わずかな歪みすらなかった。軽く拭いて終わり。ミスリル恐るべし。

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