本日ついに兄上争奪戦が開催された。
参加者は総数五百名を超えている。姉上やアンリエットお姉さんなどは予選免除、シード選手として決勝トーナメントからの参加らしい。
つまり、決勝トーナメント枠十六名に対して空きは半分。その座を賭けて予選は行われる。アレクも予選から参加だ。
『さぁー始まりましたウリエン・ド・マーティン争奪大決戦! 先日王国一武闘会で優勝したオウタニッサ・ド・アジャーニ選手が国王陛下におねだりしたことから実現したのです!
王都中の人気を集める模範騎士ウリエン様! 彼をゲットする最後のチャンスです! 司会進行、そして実況は私! 自称王都社交界のご意見番! グレース・ド・マッケンロードがお送りいたします!
そして解説は! もはやお馴染み! 孫バカ魔道貴族アントニウス・ド・ゼマティス卿と! 戦慄の四等星ベルベッタ・ド・アイシャブレ様です!』
『ワシのかわいい孫達が争う様など見たくはないのじゃがな。せめて命の危険だけは減らすべく、ここから見張ることにした。よろしく頼む。』
『男を得るべく命を燃やすのは女子の本懐。彼女らの生き様をとくと解説したいと思う。』
『さあ! まずは予選ですね。ですがぶっちゃけ誰も興味ありません。予選に場外負けはありません。制限時間を過ぎても立っていた選手が勝ち抜けです。始め!』
おーおー、五百人からの人間の乱戦か。こんなの上空に飛び上がって隠れてたら勝ち抜けじゃないのか? アレクが無事ならいいのだが。
『さあゼマティス卿。今回参加されているお孫さんは今のところ何名でしょうか。どなたが勝ちそうですか?』
『あの年代は全員ワシの孫のようなもの。皆が無事であることを祈るのみよ。』
『ではベルベッタ様はいかがでしょうか?』
『個人的にはアレクサンドリーネ選手に注目している。私の姪、アイリーンがライバル視しているものでな。』
『おおー! 十五歳以下の部、魔法あり部門で準優勝のアレクサンドリーネ選手ですね!? あの決勝戦は未だに語り草になっている壮絶な戦いでしたね。』
『そうだな。今思い出しても震えがくる。あの時のカース選手の魔力は……きっと魔王とはあのような魔力を持っていたのだろうな。』
『そんな魔王カース選手の兄、模範騎士ウリエン様ですが、あの剣鬼フェルナンド様の弟子であることは有名です! しかし! 今大会には唯一! 女性でありながらフェルナンド様から弟子であることを認められた選手が参加しております! 先日の魔法なし部門では決勝トーナメントにも残れませんでしたが本日はどうなのでしょうか!?』
『ほほう。それは初耳だ。何という選手なんだ?』
『キャロル・バルロー選手です。彼女は果たして生き残れるのでしょうか!?』
先生が弟子と認めたってことは私より強いのか……悔しいな。
会場では様々な魔法が飛び交っている。上級魔法もあればそうでないものまで。アレクはどこなんだろう。魔力を感じないものだから、さっぱり分からない。
『そこまで! 動ける方は武舞台上に集まってください!』
スタスタと動く者。
足を引きずって武舞台に近付く者。
上空からスタッと着地する者。
そして、倒れて動かない者。
アレクは、初めから武舞台上にいたようだ。すごいな。しかも私の白いコートも着ていない。苦戦の後が窺えるものの実力で生き残ったのか。
『さあ生き残ったみなさん! 残り八名になるまで戦ってください! 今度は場外負けにも気を付けてくださいね! 始め!』
それにしても大雑把な運営だよな。決勝トーナメント以外は誰も興味ないってのは確かにそうだが。
残り二十名か。剣に槍、魔法使いタイプに素手タイプ。色んなタイプが生き残っているようだ。やはりアレク達が最も若いかな。うわ、意外な参加者まで……
思わぬところから流れ弾も飛んでくるし、バトルロイヤルは危ないな。みんな必死だ。
『そこまで! 決着です! 動かないでください!』
『決まったか。まあ順当なところかの。』
『そのようだ。さて決勝の組み合わせはどうなるか……』
『では予選を勝ち残った選手で抽選を行います! シード選手の抽選はすでに終わっておりますので。なお! 今回の抽選はこれっきりです! この抽選で全ての対戦が決まります!』
なるほど。次の対戦相手が大体分かるわけだな。盛り上げることよりも、少しでも早く終わらせることを優先したのかな。所詮は単なる男の取り合いだもんな。
『抽選が終わりました! 一回戦第一試合を始めます! 一人目はァー! ティタニアーナ・スカーレット・ローランド様! 生まれながらの勝ち組らしく! 引いた数字もナンバーワン! めったに人前に姿を現さない王族の姿が今ここに現れたぁー!
対する二人目はァー! ソルダーヌ・ド・フランティア選手! 勇者の末裔の前に立ちはだかるは英雄の末裔! いい勝負を期待しております! 双方構え!』
『始め!』
開始早々ソルダーヌちゃんの猛攻。しかし二女には効いていない。あれってもしかして自動防御? いや、違うな……ただの風壁かな? 魔力を感じない上に遠見も使えないから見にくくて仕方ないな。
『ソルダーヌ選手の猛攻が続きますが、ティタニアーナ様には全く通用しておりません! それどころかティタニアーナ様は悠々と歩いて距離を詰めております!』
『どうやら姫様は魔力を温存する作戦のようじゃな。』
『うむ。王族は武術にも秀でている。その上武器もかなりの業物を所有しておられることだろう。だからソルダーヌ選手も初めから全力で攻めている。』
そうだよな。オリハルコンの剣とかドラゴンの短剣とか持ってるんだろうな。
やがてソルダーヌちゃんの魔法の数が少なくなり、威力重視へと変わっていった。すると今度は薙刀を使って弾いている。とことん魔力を節約するつもりか?
そしてついに薙刀の間合いとなり、振るわれる薙刀を杖で防ごうとするソルダーヌちゃん。しかし意味がない。まるで豆腐のように切断され、喉元に寸止め。めちゃくちゃ強いじゃないか!
『勝負あり! ティタニアーナ様の勝利です!』
『鮮やかな勝利でしたな。予選を勝ち抜いたソルダーヌ選手には残念じゃが、役者が違うというやつじゃな。』
『それにあの薙刀。やはりかなりの業物のようだ。手合わせをお願いしたいぐらいだな。』
やっぱ王族って強いんだな。姉上は勝てるのか?
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