そんな日々の合間、私はギルドに来ている。
コカトリスの件でもめた冒険者達だが、リーダー以外の三人は個別に金を持ってきた。ギルドの受付に渡してもいいのに意外だ。まあ確実に返済して契約魔法を解除して欲しかったのだろう。実際は個人魔法だが、そうそうバレることもないだろう。
ところが、奴らは利子の計算もできないらしくいくらか足りなかった。十日後にするか今すぐ払うか迫ったらその足で装備を売って払ってくれた。ますます意外だ。
何よりあんな低級冒険者がよく金貨四枚半も都合できたものだ。
リーダーのスコットは立ち合いの日以来会っていない。だから借金額が減ったことも伝えていない。他のメンバーも伝えてないのだろう。全員が自分に借金を押し付けてパーティーを抜けたとでも思ってそうだ。
奴はあの日、他のメンバーによって身包み剥がれた訳だが、どうやって生きていくのだろう。
いくら犯罪に厳しいクタナツでも気絶してる間に盗まれてはどうしようもない。
人望があれば追い剥ぎ犯が捕まったかも知れないのに。
ギルド内で剣を抜き、間抜けにも自分の足を刺してしまった上に子供に負けて借金まで背負わされた。生きていけないレベルの恥辱だ。そりゃメンバーも見捨てるわな。
スコットについては当分放置でいいや。
金貨四枚の借金がどこまで膨れ上がるか楽しみだ。どうせ逃亡したのだろうし。
表計算ソフトがあれば簡単に計算できるのだが、地道に手で計算するとしよう。
あっ、この前の先輩だ。
名前はゴレライアスさん。確か三十八歳、五等星だったかな。
「お勤めご苦労様です! この前はありがとうございました!」
「おぉオメーか。きっちり回収したのか。やるじゃねーか。」
「いえ、まだです。スコットでしたっけ? あいつの分が残ってるんですよ。しばらく放っておくつもりだからいいんですけどね。」
「俺も身に覚えがあるけどよぉ金は借りるもんじゃねーよな。オメーは問題なさそうだが、気ぃつけとけや。」
「押忍! ご忠告ありがとうございます!」
先達のお言葉は身が引き締まるぜ!
気をつけよう。
現在のカード残高、金貨二十三枚。
手持ちは銀貨、銅貨が数枚。着実に貯まっていくねぇ。
いつの間にやら秋の大会の時期がやってきた。
我が一組からは
学問、サンドラちゃん
魔法、エルネスト君
剣術、スティード君が代表に選ばれた。
そしてこの三人がそのまま学校代表となった。
もちろん私はエントリーしていない。
アレックスちゃんが不満そうにしていた。
今年の大会はホユミチカで行われる。
そのため出発は開催日の十日前だ。一週間ぐらいで着くらしい。
エルネスト君もスティード君も今年こそはと燃えているようだった。
エルネスト君がいない間はイボンヌちゃんが一人でお昼ご飯を食べているのが気になった。
一応声をかけるだけはかけてみたけど、一人で食べたいそうなので気にしなくていいだろう。
もしかしてバルテレモンちゃんの派閥も同じように声をかけていたので、同類と思われてしまったのか?
その間私達は三人組だ。
最近私はさっさと帰ってしまうし、セルジュ君も気にせず帰るタイプなのでアレックスちゃんが少し寂しそうにも見える。
たまには休みに三人で遊ぼうかと提案したらセルジュ君はにこやかに
「僕は絶対嫌だよ。二人で遊びなよ。」
と言う始末だった。そりゃそうだ。
私もアレックスちゃんちにお泊りはもうこりごりなので、普通にクタナツ一周デートをすることにした。
前回とは違うルートの予定だ。
そして当日、母上にデートのことがバレてしまったので、アレックスちゃんを拾って南の城門までは馬車で行くことになってしまった。
そして南の城門、ここから出るのは初めてだ。
「さあアレックスちゃん。お手手繋いでルンルン歩こうか。」
「う、うん……//」
この子は喋らないと本当に可愛いな。お嬢様っぷりが凄い。
今日は一周する前に少し南に足を伸ばしてみる。グリードグラス草原と違って安全な草原を何の警戒もせず歩くのは気分がいい。
実際には範囲警戒を張っているのだが。
まだ制御が甘いため先ほどから結構虫の反応を拾ってしまっており、その都度張り直している。修行にはちょうどいいが……
「カース、さっきから魔力が鬱陶しいんだけど何やってるの?」
「あはは、ごめんごめん。アレックスちゃんの安全のために範囲警戒の魔法を使ってるんだけど中々上手くいかなくてね。」
「私のため!? もうカースのバカ!」
そう言って嬉しそうな顔を隠そうと無理に平静を装う。やばいな、マジでかわいいぞ。
しかしサンドラちゃんの言う通りだ。
あまりにも騙されやす過ぎて心配になる……
私のせいなのか?
「だからごめんね。もう少し頑張ってみるから。」
「無理しなくていいから。カ、カースが一緒な、ならそれでいいから……」
ぐいぐい来るな。十メイル後ろにファロスさんもいるんだが。前回はすぐ背後にいたのだが、私がファロスさんとばかり話すので距離を取らされたのだろう。
「クタナツって北と南で天国と地獄ぐらい違うよね。何で南側はこんなに安全に牧畜やらできてるのかな?」
「それこそ開拓の成果じゃない。グリードグラス草原との間は敢えて荒野のままにしてあるのよ。今回グリードグラス草原西半分の開拓が目標だけど、あそこを何とかしないと荒野の開拓もできないものね。」
「へぇー百年も進まなかったのは何か理由があるの?」
「簡単よ。貴族同士の足の引っ張り合いよ。ここに来ている上級貴族って領地を得ようと必死なのよ。誰かが成功しそうになると足を引っ張る。代官の権力は強いけど、普通開拓まで手が回らないわよね。」
なんとまあ……それで百年も足踏みかい……
「それで今回は何でまた総力を挙げてやってんの?」
「噂では魔女の怒りに触れた冒険者がグリードグラス草原ごと焼き尽くされたとか。そのせいで草原に草が生えない広大なエリアができてるらしいわ。これってかなりチャンスなのよね。あそこの草って魔物じゃない? それが生えないってかなり異常よ? イザベル様がやったの?」
「いや、違うと思うよ。魔女の怒りって何だろうね。」
私の八つ当たりみたいなものか?
人間を巻き込まなくてよかった。
「まあそんな訳で騎士団から冒険者まで総力を挙げて砦やら防壁やら石畳やら築いているようよ。」
「足の引っ張り合いは起こらないの?」
「たぶん無理ね。今回は代官自ら動いているもの。お代官様本人の能力も評判だけど、アジャーニ公爵家当主の孫ってことも大きいわね。ここにいる上級貴族は大抵王都に本家があるの。つまり王都で絶大な権力を誇るアジャーニ家には逆らえないってとこね。」
「じゃあ今回はうまくいくんだろうね。うまくいったらどうなるんだろう?」
「そうね。新しい街ができるでしょうね。かなりの活気が出るんじゃないかしら。人口も相当増えるわよ。今だって五千人はいるわよね。倍ぐらいになったりするのかしら。」
なるほど。
面白いことになりそうだ。
ここはしれっと草原のどこかを私が領有することも不可能ではない。
面積は少しでよい。早い者勝ちだろうからな。
「それは楽しみだね。どんな街になるんだろう。その街ができたらクタナツは少し安全になるよね。」
「そうよね。大襲撃の対象もその新しい街になりそうよね。」
そんな話をしつつも、和やかに散歩は続く。
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