トールの日。今日はモーガン様と楽園に行く予定だ。これでもう排水に悩まなくてよくなるな。
「おはようございます! 今日はよろしくお願いいたします!」
「うむ。どうやって行くのかお手並み拝見といこうか。」
私達はモーガン様が手配した馬車で城門外へと移動した。そこから少し街道を外れた辺りで下車してミスリルボードへ乗り換える。
「ふむ、ただのミスリルか。」
「まずはお乗りください。そしたらお座りくださいね。」
『金操』
最初はゆっくりで段々とスピードを上げよう。お年寄りだからな。
「こ、これはお主!? このような無駄遣いをして魔力が保つとぬかすのか!?」
「問題ありませんよ。慣れたもんです。」
さすがにずっと金操を使い続けるわけではない。最初の勢いをつける時だけだ。もちろんずっと金操を使っていても余裕ではあるが。
セプティクさんは最初煩かったけど、モーガン様は静かでいいな。
「おい小僧、お主いつからこのようなことをしておる。」
「このような、とは?」
「どうせあちこち飛び回っておるのだろう。そのような奇行をいつからやっておるのか聞いておる。」
「確か二、三年前ですね。一人で魔境に行く許しを貰ったのがそのぐらいだったと思いますので。」
「ふん、魔境は人知の及ばぬ危険な場所。せいぜい死なぬよう気をつけることだ。」
「ありがとうございます。何回か危なかったです。」
会話はそれのみ。魔法部隊ってことはプロの魔法使いなんだからもっと話したかったのに。偏屈ジジイめ。
さて、到着だ。コーちゃん達は元気にしてるかな?
「ピュイピュイ」
「ガウガウ」
すぐに出迎えてくれる、かわいい子達だ。
「魔物を飼い慣らしておるのか。」
「飼い慣らすというか、出会ったというか、まあそんな感じです。」
「ふん、ではまず水の送り先を決める。どこに集めたいのだ。」
「城壁の外の堀ではいかがでしょうか? 狭いですかね?」
「問題なかろう。溢れるようだったら適当に水路でも引け。」
「なるほど! かしこまりました!」
それから私はモーガン様を東の堀へと案内した。
「これは、ただ土を掘っただけではないのか。」
「崩れないように軽く焼きを入れてあります。」
「ふん、終わったら呼ぶ。それまで好きにしておれ。」
「かしこまりました。あ、魔力が要るようなことがありましたらお呼びくださいね。」
私の言葉など聞いてないかのように作業に入っている。地面に座り込んでブツブツと何かを唱えている。
当分私の出番はないだろう。ならば城壁をさらに高くするべく岩集めだな。あっちで切ってから収納した方が効率はいいが、それをやると魔物が寄って来そうなんだよな。だから今まで通り集めてからこっちで切る方が無難だろう。前回までの岩の切れっ端が大量に転がっているが、ただ捨てるのも淋しいな。そのうち何かに使おう。
さて、たまにはカムイ、一緒に行かない? コーちゃんはモーガン様に魔物が近寄らないか見張ってあげて。
「ガウガウ」
「ピュイピュイ」
ありがとな。じゃあカムイは乗って。行くぜ!
先日はムリーマ山脈の一部を伽藍堂にしてしまったが、この岩石砂漠も不自然に岩のないエリアが増えてしまったな。ただ岩石砂漠自体が恐ろしく広いので影響など微々たるものだろう。
カムイは楽しそうに岩から岩へと飛び移っている。楽園周辺にはこんな自然石がひしめくエリアなんてないもんな。
さて、前回まで手当たり次第に巨岩を集めていたが、サイズを正確に揃えることが出来るようになった現在。なるべく近い大きさの岩を集めるべきだろう。
これはこれで岩の残り具合が奇妙になってしまった。まあいいか。戻ったらお昼にしよう。モーガン様は何が好きなんだろう?
海の幸にしよう。貝類は硬いからランスマグロで攻めてみよう。軽く表面を炙ってタタキ風に仕上げる。魚醤味と塩味の二通り用意してみた。
「お疲れ様です。お昼を用意いたしました。休憩されませんか?」
「ふん、置いておけ。まだ手が離せぬ。」
「分かりました。また夕方に顔を出しますね。」
私とコーちゃん、カムイは城壁内でミスリルバーベキューだ。肉も魚も貝も大盤振る舞いだ。そろそろ魚がなくなってしまいそうだ。貝はまだまだたくさんあるのに。
昼からは城壁の嵩上げだ。めちゃくちゃ上げてやる! コツコツと石切をしよう。
城壁の幅が六メイルなので、それより少し長い幅のブロック岩を作ろう。奥行き幅六メイル半、横十メイル、高さ五メイル。ブロックと呼ぶには巨大過ぎるが、このサイズに合わせるのが丁度良かったりする。このブロック岩を三十センチほど間隔を空けて、外に出っ張るように置いていこう。コンクリも使わない、ただ置くだけの予定だ。一体一個あたり何トンあるんだ? 急に不安になってしまったぞ。城壁は基礎の杭打ちなどしてないもんな。まさか自重で崩れたりは……
予定変更。基礎をどうにかしよう……
今更城壁を壊せないし、長い鉄杭を城壁脇から斜め下に大量に打ち込むか……いいかも。
ならば、再びヘルデザ砂漠を彷徨きながら鉄杭作りだ。形状はエッチ鋼にしよう。丈夫そうな気がするもんな。長さは二十メイルもあればいいだろう。全部入らなくても構うことはない。城壁内外から打ちまくってやろう。一メイルにつき一本、それを内外から打つとすれば……一辺につき四千本、四辺で一万六千本か。多過ぎる……まずは四千本だけでも作ってみよう。
作ってみて思ったのは、エッチ鋼は複雑過ぎてやってられない。少ない量で丈夫に仕上げるなら……鉄パイプ、鋼管だな。
おっ、これは簡単だ。直径五センチぐらいの単管パイプがスイスイ作れるぞ。我ながらいいアイデアだったようだ。
そろそろ夕方だな。魔物も少ししか襲って来なかったので二千本と少しぐらいが出来た。戻るとしよう。
「お疲れ様でーす。夕食にしませんか?」
「まだ手が離せん。好きに食っていろ。」
よく見ると昼御飯は食べられてないようだ。これは私が食べよう。
「分かりました。何か置いておきますね。」
すごいなこのジジイ。倒れんでくれよ?
いつだったかギルドで買った弁当を置いておこう。飲み物付きだ。
私達はやはりバーベキューだ。なのにいきなりカレーが食べたくなってきた。どうしたらいいんだ?米も食べたい! 味噌汁が飲みたいぞ!
ふう、満腹になったら落ち着いた。しかしこれは由々しき問題だ……
読み終わったら、ポイントを付けましょう!