パイロの日、昼過ぎに私はギルドに来た。
まずは受付にてスパラッシュさんへガイドの依頼をする。そしてカードの残高確認。
ほほう、いつぞやのバカ二人はポツポツ返済しているようだ。
バカ一の方は最初の十日以内に金貨五枚を返済しており、その後も十日ごとに金貨二枚ずつ支払いがある。よって現在の残金は金貨九枚弱。長い支払いにはなるだろうが確実に減っている。
バカ二だが、こいつは払う気がなさそうだ。最初の十日以内に金貨三枚ほど返済しているが、それ以降が何もなし。よって残金は金貨十八枚ぐらいだ。しかも関節が四ヶ所ほど曲がらなくなっているだろう。
そこにいいタイミングでバカ二が現れた。
「おら! おめー何しやがった! 指と肩が動かねーぞ!」
「バカだな。返済しろよ。金を払えばいいだけだろうが。有り金出したら動くようにしてやるぞ?」
「おら! ふざけんな! 誰が払うか! みんな!聞いてくれ! 俺はこいつに騙されて借金を背負わされたんだ! 誰かこいつを騎士団に突き出してくれ!」
うわー、すごいバカ。自分で騙されたって言ってる。それっていかに自分が間抜けかを公表してるだけなんだよな。しかも子供相手に騙されたことになるし。
案の定、ギルド内では大笑いが起きる。
「ギャハハハ! あいつ子供に騙されたんだってよ!」
「間抜けか! 間抜けなのか!」
「何等星よ? あいつ?」
「知ってるぜ! 確か八等星の、えーと?」
「知らねーんなら黙ってろよ!」
「確か二人組じゃなかった?」
「いや、三人組だったろ?」
「だーいぶ前にスパラッシュさんと一緒じゃなかったか?」
「スパラッシュさんの後輩にしては間抜け過ぎだから違うだろ?」
当然こうなる。この世界では騙された方が間抜けなのだ。まあ私は騙してなどいないが。一応説明だけしておこう。
「あのー、騙してませんからね。金賭けて模擬戦やっただけですよ? その賭け金がそのまま借金になっただけですからね。一応ゴレライアスさんもその場にいましたし。」
証人はゴレライアスさん。これは強烈だ。
「ギャーッハッハッハ!」
「子供に模擬戦で負けたってか!」
「それを騙されたですって!」
「あら、かわいい坊やね」
「ダッセー!」
「だめだ! ププッあいつもうクタナツで生きていけねーよ!」
「オメーら笑ってやるなよ! 可哀想じゃねーか! くっ……ブハハッ!」
バカ二は顔を真っ赤にしてプルプル震えている。このパターンは……
「死ねぇぇぇえーー!」
やっぱり。剣を抜いたから前回のように自分の足に刺させてやった。いつもこうだよな?
いや、いつもより少し強めに金操を使ったので、剣が床に深く刺さっている。動けまい。
「ドワッハハハー! マジかこいつ!」
「ププッ、死ねーって言って自分の足を刺しやがった!」
「うわー痛そー」
「全然可哀想と思ってないよな?」
「誰が助けてやれよー。俺は嫌だけど」
やればやるほど笑い者になっていくな……
「おい、とりあえず有り金出しとけ。そしたら関節は動くようになるし剣も抜いてやるからよ。」
「くそが! そんなに金が欲しいのかよ! おら!」
「何言ってんだ? 払わないなら俺は帰るぞ?」
「くそっ、おら! 持ってけ強盗野郎!」
バカ二はそういって財布ごと床に叩きつけた。少しムカついた。しかし金に罪はないから素直に拾っておいた。
さて、中身は……金貨八枚と銀貨五枚。意外と持ってるな。
「じゃあオメーの借金は残り金貨九枚と銀貨五枚な。毎月五が付く日までに少しでいいから支払えよ。」
そう言って手で剣を抜いてやる、実際は金操を使っているのだが。治療まではしてやらん。それから関節の固定を解除してやる。せいぜいしっかり働けよ。
ちなみに私の残高力は五十三万……はないが、金貨五百三十枚は超えている。結構使っているはずだが、意外に貯まっているなあ。
せっかくだからギルドで先輩方に挨拶をしておこうと思ったが、知ってる先輩がいない。
私が登録をして一年と経っていないが、ここもだいぶ人数が増えたようなぁ。
たまには訓練場で一人素振りをするのもいいかも。夏休みに入ったらスティード君とお泊り稽古もするだろうしね。
家で勉強が捗らない時に喫茶店で勉強する方式だ。あわよくば通りかかった先輩に指導してもらおうという魂胆はあるのだが。
水壁でウォーターバッグを作り、素振りと言うか巻藁と言うか、そんな稽古だ。
スティード君との稽古を思い出しながら型通りの動きで虎徹を振る。手前味噌だがこの歳にしてはいい感じなのでは?
時々思い出したかのように蹴ったり頭突きしたり噛み付いたり。柄頭を叩き込んだり膝蹴りしたりタックルしたり。
側から見るとストレス解消か何かで暴れてるだけにしか見えないかも。実はそうだ。ストレス解消ではないが、暴れている。コボルトのアンデッドに下敷きにされ跳ね除けることができなかったので、次からはどうにか無理矢理暴れてやろうと考えているのだ。
さすがにゾンビ相手に噛み付きたくはないけどね。
「面白いことをやっておるな。それは組合長にでも習ったのかえ?」
「あっ、お疲れ様です! オークはどうでした? 発見できました? この動きは適当に暴れているだけですよ。」
五等星、ごっついお姉さんことゴモリエールさんだ。
「ほう、変わった動きに見えたものよ。聞いておったか。いたわえ、中々に手強いのがのう。あれなら妾の相手に相応しいというものよ。」
そうなのか。オークなんて弱そうなイメージだが。強いオークもいるんだろうな。
「熱い戦いであった。奴らは精力の限りを尽くして妾に打ち込んできおった。まさに獣よ。妾はそれを全て受け止めた。時には二匹、三匹と同時に相手をすることもあったが、それもまた良いものよ。カースよ、強く大きくなれ。さすれば相手をしてやるからの。」
「ありがとうございます!」
しかし接近戦では勝ち目がないぞ?
「それよりカースよ、それを使わせてもらえるか? 面白そうよの。」
「もちろんです。どうぞどうぞ。」
私はウォーターバッグが飛んでいかないように足元に魔力を込めてさらに固定しておく。
ゴモリエールさんが殴っている。ジャブのように速い。なのにバッグが大きく揺れる。私だとプルプルとしか動かないのに。
次の瞬間、ゴモリエールさんの手が水壁を突き抜けていた。凄すぎる。
てことは何か?
もしゴモリエールさんに殴られるとしたら相当ぶ厚く魔力を込めないと防げないってことか?
次に回し蹴り、横に両断された。何という恐ろしい蹴り……
最後に手の平を当てている。何だろう?
次の瞬間、ウォーターバッグが爆発した。
これはアレだ! さながら発勁か!?
すごい! 初めて見た!
「最後のアレ、どうやったんですか!?」
「魔力をの、高圧で大量に流したまでよ。もっとも大抵の魔物には効かんがの。スライムなどには効果抜群だわえ。」
魔力なのか。母上は魔力は魔法という形を与えなければ何にもならないと言った。つまりこれは母上も知らない新しい発見……? ゴモリエールさんは自分でこれを見つけたのか……すごい!
「ゴモリ、ここにいたのかい。カースと二人っきりだなんて妬けるねぇ。」
エロイーズさんだ。いつ見てもきれいだなぁ。
「おおすまぬな。刻限を過ぎておったか。すぐ行こう。ではなカース、精進を怠るでないぞ。またの。」
「はいっ! 今日はありがとうございました! またご指導お願いいたします! エロイーズさんも……」
エロイーズさんは艶めかしい視線を私に向けてから行ってしまった……あの人は声もいいんだよな。『極楽に行かせてやろうかい?』なんて言われたいなぁ……
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